数学知識における解離:ダウン症候群とウィリアムズ症候群における症例報告



Dissociations in mathematical knowledge: Case studies in Down's syndrome and Williams syndrome.

Robinson SJ, Temple CM.
Department of Paediatric Neurosciences, Guy's and St Thomas' Foundation NHS Trust, London, United Kingdom.
Cortex. 2011 Dec 7. [Epub ahead of print]

本論文は、22歳のダウン症候群を有するPQ(言語的精神年齢は9歳2か月)とウィリアムズ症候群を有するST(言語的精神年齢は9歳6か月)、および条件を一致させた正常に発達した対照群に対して、数学的語彙と実際的数学知識を調査した結果を報告する。PQの語彙容量に含まれている数学的単語の数は有意に少なく、語彙決定に関する成績を反映している。PQは記述から説明を行なうことと数学的単語を記述する両面に障害があった。これらの結果はふつうの語彙決定と具象的単語の要素記述の両面にたいして最近行なわれたPQに関する報告(Robinson and Temple, 2010)とは対照的である。PQの数学的事実の想起にも障害があるが、一般的な事実に関する想起は正常である。ダウン症候群にみられるこの能力は数学的単語や数学的事実関する語彙表現と意味知識の両面で障害があることを示している。一方で、ウィリアムズ症候群の10代の青年であるSTは、語彙決定および数学的単語の説明や定義を決めることはとても正確である。この結果は最近奉告されたSTに関する具象的単語の非典型的な能力(Robinson and Temple, 2009)とは対照的である。加算事象や一般的知識に基づく事象に関する知識についてSTには障害はないが掛算に関しては弱点がある。二つの事例を合わせて考えると2重の解離を形成しており、発達過程における語彙-意味機構における数学的および具象的要素に特徴的な表現があることを支持している。数学的知識と一般的事実に関する知識の間に解離があることは、発達過程において異なる事実関連知識が選択的に障害を受けていることも示している。さらに、数学的語彙と数学的知識は特徴的な表現を有するというモジュール構造をなしていることも示唆している。これらは発達過程にある意味機構において事実に関する知識および言語に依存する知識がそれぞれ独立した表現型をとることを示す事例である。

(2012年1月)



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