ウイリアムズ症候群を呈する児童の書字指導
内山 千鶴子
目白大学保健医療学部言語聴覚科
言語聴覚研究 第12巻第3号(2115年9月) 159ページ
【はじめに】
ウイリアムズ症候群は視覚認知の障害が特徴で、特に模写の著明である。書字指導にあたり模写の方略が有効ではなく、運動覚と図形の言語化をもとにした学習が効果的であった。この結果から本児の資格認知の神経心理学的な特性を考慮した。
【症例】
文字学習開始時の年齢が6歳の女児。生後3カ月で心雑音がありS病院を受診。S病院で生後5カ月の時大動脈弁上狭窄症とウイリアムズ症候群と診断された。就学前本児6歳で目白大学クリニックに来院。初診時のWPPSIでは言語性IQ50、動作性IQはスケールアウトだった。6歳10カ月時、大脇式知的障害児用知能検査ではMA4歳、6歳11カ月時、グッドイナフ人物画知能検査ではMA3歳6カ月だった。フロスティッグ視知覚発達検査では、視知覚年齢が視覚と運動の供応1歳9カ月、図形と素地2歳7カ月、形の恒常性3歳8カ月、空間における位置4歳1カ月、空間関係5歳だった。視覚と運動の供応と複数の図形を同時に見分けることが特に困難だった。模写は拙劣で丸と縦の直線が書ける程度だった。就学前でもあり、複数の仮名文字を読むことが出来ており、母親は自分の名前だけでも書いてほしいと書字練習を希望して来所した。
【指導方法と結果】
読みの練習。複数の図形を弁別する練習。細部を見分ける練習。縦横斜めの直性と曲線を音声を伴って書く練習。読める文字に関して(1)形態に溝がある文字カードの溝をなぞる。(2)形態を音声で示しながら書く。以上の練習を行ったところ、8カ月で「ふ」以外の仮名文字が見本提示なしに書けるようになった。1文字の書き取りができるようになったが、単語の書き取り、呼称の自発書字は出来ない。
【考察】
本児の模写と書字の障害は、視覚と運動の供応と複数の図形の同時弁別障害に起因すると考えた。この障害を補うために指でなぞる運動覚と図形の言語化が有効であったと推測した。
(2016年4月)
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