Williams症候群の2症例に対する平仮名読み書きの習得を目指した作業療法の経過
本間 朋恵 1)、楠 祐一 1)、中島 そのみ 2)、仙石 泰仁 2)、舘 延忠 2)
1)北海道療育園、 2) 札幌医科大学 保健医療学部
総合リハビリテーション 37巻9号 861-864ページ、2009年9月
はじめに
Williams症候群は(以下、WS)の臨床症状は、精神発達遅滞、特有の顔貌、社交的な性格、大動脈弁上狭窄症などの心血管系異常で、罹患率は2万人に1人とされる。認知的特徴として、WISC-V(Wechsler Intelligence Scale for Children-third edition)の下位検査である「積木模様」や、K-ABC心理・教育アセスメントバッテリー(以下、K-ABC)の視空間情報の短期記憶にかかわる下位検査である「位置探し」の成績の低さが報告されている。また、なぞり書きができても模写はできない、漢字を書くことが困難など、学習面での不利益が明らかとなっているが、視空間認知障害の平仮名読み書き学習への影響については報告が少ない。
本稿では、WSの2症例に対して行った平仮名読み書きの指導と学習の経過を示し、視空間認知課題の成績との関連を検討した。
症例
症例1:6歳8か月、女児
読み書き指導を開始するまでの経緯:乳児期の発達は、座位1歳、独歩1歳11か月、初語2歳頃と遅れがあり、5歳4ヶ月時に、筆者らの一人の担当により作業療法開始となった。この時期は手指を使う活動が苦手で、鉛筆を回外握りし、なぐり書きの状態であった。作業療法では手指巧緻性の向上を目的とした活動を行い、手指の分離した動きが可能となった。平仮名の読みについては、「文字を指さして読んでいるつもり」を楽しむ様子はみられたが、正しく読んではいなかった。
平仮名読み書きの評価(6歳8か月時):
@平仮名の読字
1文字1音であることは理解していたが、平仮名の形態と音の一致はほとんど確立していなかった。
A平仮名の書字
鉛筆を3指握りで持てるようになったが、安定感がなく、なぞり書きは線が大きくそれる状態であった。自分の名前は細かな線画で表現し、見本を真似て書くことはできなかった。タテ線・ヨコ線との助言に対しても、線の方向がわからず、正しく書くことはできなかったが、筆者の鉛筆の動きを真似てタテ・ヨコの線を書くことはできた。
指導方針:平仮名の形態と音を対応させることや、鉛筆の操作性向上を図りつつ、平仮名の形態と鉛筆の動きを対応させることを意識づけた。
平仮名読み書きの指導方法:6歳8か月時から週1回、40分間実施した。読字については、平仮名の形態と音の結びつけを強める目的で、絵とその名前を1枚のカードに示したもの(例えば、あひるの絵に「あひる」と平仮名で書いたカード)を用いて絵を手がかりにその単語を言う練習から開始し、次第に平仮名のみの呈示にした。書字については、平仮名の形態を動きや位置を手がかりに理解を促す目的で、筆者の鉛筆の動きを真似て書くことや書き始めの位置に印をつけることを行った。
経過:読字については7歳5か月時に平仮名7文字を習得し、8歳1か月時に「さる」、「うし」などの単語の読みが可能となった。8歳5か月時に18文字、9歳1か月時には逐次読みで清音40文字の読みが可能になったが、「と」と「う」のように形態が似ている文字は読み間違えがあり、「お」と「よ」のように発音が似ている文字は聞き間違いがあった。書字については7歳10か月時点でなぞり書きはできたが、手がかりの印がないと書きだしの位置に迷いが見られた。しかし、次第に鉛筆先の位置と動く方向に対する意識が高まり、書いた文字の出来を気にするようになった。8歳10か月時に字体が整い始め、9歳3か月時には単語の視写や聴写が可能となり、10歳0か月時には文章の視写が可能となった。
中略
症例2:6歳3か月、女児
読み書き指導を開始するまでの経緯:乳児期の発達は、寝返り8か月、独歩2歳3か月と遅れがあった。初語は1歳6か月であった。4歳1ヶ月時に筆者らの一人の担当により作業療法開始となった。この時期、段差のある場所や揺れを極端に怖がり、粗大運動の経験が少なかった。鉛筆の3指握りが可能であったが、筆圧は弱く、操作性も不良であった。作業療法では遊具で身体を動かす活動を行い、上肢・体幹の安定性が向上するとともに鉛筆の安定した把持が可能となった。平仮名の読み書きについては、読むことに関心はあるが読める文字が増えていかず、自分の名前を書くがいびつな形であった。
平仮名読み書きの評価(6歳3か月時):
@平仮名の読字
平仮名10文字は読めたが、「り」と「い」、「さ」と「き」のような、形態が似ている文字の読み間違いが多かった。
A平仮名の書字
手本を呈示すると「つ」、「こ」などの単純な線の文字は真似て書くことができたが、「た」のように空間的に散らばりがあり、画数の多い文字や「め」のように1画目を基準に2画目の形を合わせる文字は書き迷う様子がみられた。
指導方針:形態の似ている文字の違いに注意を向けるよう促し、平仮名を書く際には言葉や視覚的な手がかりを呈示した。
平仮名読み書きの指導方法:6歳3か月時から週1回、40分間実施した。読字については、平仮名の形態と音の一致を促進する目的で、単語カードや絵本の文章を呈示しながら筆者の後に続いて読む練習を行った。書字については平仮名を構成する各線の位置関係の理解を促す目的で、すでに書けている文字を組み合わせるよう助言(「の」から「め」、「ち」から「を」、「+」から「た」、「う」から「ふ」など)することや、タテ、ヨコ、チョンチョンなどの言葉で手がかりを呈示した。
経過:読字については6歳11か月時に読める文字を拾い読みするようになり、7歳7か月時には清音46文字をほぼ読めるようになったが、形態が似ている文字は読み間違いがあった。書字については、6歳9か月時に手本を真似て書けるようになり、7歳4か月時には漢字やカタカナの視写ができ、7歳10か月時には自分で文章を考えて書けるようになった。
後略
(2009年11月)
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