ウイリアムス症候群における栄養補完
障害児の食事療法や栄養補完に関するメールが、米国のメーリングリストに流れていま
した。ビタミン剤や葉酸が発達や記憶などに良い影響があるというメールに対して、ウイリア
ムス症候群やダウン症候群の研究者である医者が答えたものです。
内容を要約すると、「栄養補完は、無駄ではないが、それだけで大きな効果があると科学的
に証明されているものは無い。」ということのようです。(1997年5月)
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[1997.4.8 付け ポール・ワン 医師からのメール]
ウイリアムス症候群における栄養補完について考えを述べたいと思います。この話題に関
するあらゆる文献を読んだわけではありませんが、この分野の知識を得ようと努力している最
中で、Eric Ast さんが非常にたくさんの書類を送ってくれました。Chris Chase 氏(読書障害
に対するピラセタム[脳機能改善薬]の研究を行なった心理学者)や、何人かの内科医(Johns
Hopkins 病院の George Capone 医師とその同僚)と話しあってみました。彼らは、ダウン症
候群に対するピラセタムの追加研究を計画しています。
1. この問題に関しては、私は中立的な立場にいる考えています。
医学界における重要な開発・発展は、初期の段階では歓迎されないものだと感じます。し
かし、新しい開発・発展に関しては、価値がない数多くの発表があることも知っています。
間違っているからです。
2.子供にとって栄養は必要不可欠なものです。
病気の中には、ビタミン・ミネラルやその他の栄養素の不足で引き起こされるものがある
ことは、すべての医者が認めています。私の専門分野(発達小児科)では、鉄分の不足の
悪影響に注目しています。もっと大きな医学の分野では、妊娠中の葉酸欠乏が二分脊椎(脊
髄髄膜瘤)発生の危険性を非常に高くすることが認められつつあります。つまり、医学全
体が、栄養補完の全概念に反対するとは思いません。実際、葉酸の事例はつい最近の例で
あり、確実なデータがあれば、医師は栄養士にたいして一般的に中立であることを示して
います。
3.多くの障害児に対して、一種類のビタミン剤(例:Flintstones)を服用させる事は、いい
アイデアだと思います。どうしてかというと、バランスの良い食事を取らないことが多い
からです。この分野の多くの人がこの点を指摘しています。ウイリアムス症候群の子供に
対しては、かかりつけの医師にカルシウムに関するチェックだけを受けていればいいと思
います。
4.食事療法が、発達や免疫に関する病気や容貌などの改善につながるという確実なデータは
ありません。食事療法について、いろいろな情報が流れていますが、今のところ私が言え
ることは、効果があるかどうかは、はっきりとはわからないということだけです。
確かに、ウイリアムス症候群の症状の多くは、栄養不良の症状と似ています。しかし
似ているからといっても、実際には栄養不良が原因ではありません。類推ですが、エアコ
ンの冷却ガスが少なくなった時のことを考えてみて下さい。部屋の温度が上がるでしょう。
しかし、暑く感じるからといって、すぐにエアコンの冷却ガスの補充が必要だということ
には直結しません。ストーブの側から離れる必要があるかもしれません。余分のセーター
を脱ぐ必要があるかもしれません。水を飲む必要があるかもしれません。日陰をつくる観
葉植物を植える必要があるかもしれません。実は、エアコンの運転に必要な量の冷却ガス
が残っているかもしれないのです。
確かに、栄養補完を行なった結果、良くなったと思われる子供達は数多くいますが、
逆に何の足しにもならなかったという子供達のことは耳にしません。そのような事はおお
やけにはされないのです。いろいろな栄養補完や食事療法にチャレンジしたけれどもまっ
たく効果が見られなかった人をたくさん知っています。それに、ウイリアムス症候群のあ
る無しに関わらず、食事療法をまったく受けなくても、急激な成長を示した子供達もたく
さんいます。私の印象では、ウイリアムス症候群の子供達の多くは、栄養補完を受けなく
ても、幼稚園や小学校低学年のある時期にぐんと発育します。
さらに、議論されている「データ」や「研究」の多くは、正しいデータではありませ
ん。ダウン症候群の食事療法に関して私が読んだ論文は、50件程の栄養補完を支持する
研究を引用していました。引用された論文に目を通してみますと、半数の論文には「栄養
補完は効果がある」とは書いてありませんでした。効果を認めていると思われる研究の多
くは、正しくない(悪い)研究です。例えば、ある子供が、ビタミン剤の服用と同時に、
特別な教育・言語療法・理学療法を受け始めて効果が出たとしましょう。何故かを考えて
見てください。この研究者は、改善に寄与した功績を全てビタミンに対して与えて、その
他の療法や子供自身や両親の努力を無視しています。
5. 私は、調査研究を行い、その成果といわれるものを販売している会社や研究者を疑ってい
ます。もし Jif and Skippy(訳者注:ピーナッツバターのメーカ?) がピーナッツバタ
ーは胃潰瘍に対して効果があるという「研究」を行なったら、疑ってかかるでしょう。同
じ様に、テストを実施している本人から、自分の研究の結果として重要なことが「わかっ
た」といわれても信じられません。私は両親から、読んだこと全てを信じてはいけないと
教えられました。
6. それでも私は中立的な立場にいると思っています。
栄養補完の効果に関して最新情報を得ようと努力しています。ある症候群のある症状に対
して、栄養補完は効果をもたらす、ということは可能だという信念を持っています。私自
身が確信できたら、私が担当しているすべての患者に伝えます。それまでは、どんなに簡
単で間違いなさそうに見える「ことがら」にたいしても疑ってかかりたいと思います。
簡単な事柄であれば正しいだろうと思います。しかし、簡単だからといって真実だとは限りま
せん。 わたしの個人的な意見です。
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ポール・ワン (Paul P. Wang):
ペンシルバニア大学、発達小児科および神経小児科の助教授
ウイリアムス症候群やダウン症候群の研究者
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