ウィリアムズ症候群における不安症:モデルと対応策



Anxiety in Indibidulals with Williams Syndrome : Model and Strategies

Karen Levine PhD, Robert H. Wharton MD, Sara Miranda LICSW
"Heart to Heart" Volume 16 Number 1, March 1999, Page 6-10

はじめに

多数のウィリアムズ症候群の人にとって、不安症(Anxiety)はこの症候群の障害の中で 最も問題となる可能性がある。ウィリアムズ症候群の人が感じる不安症は幼児の早期に始 まる。実際、幼児の過敏症、歩き始め頃以降の幼い子どもに見られる感覚感受性の上昇は 不安症の前兆である。良いニュースとして、一般的に言ってこの症状は効果的に治療でき る。さらに、子どもたちが成長し大人になるにつれて、彼らは不安症をコントロールする ことがだんだん上手になり、次第に問題ではなくなる。この論文ではウィリアムズ症候群 の人々の不安症モデルについての概要を示し、いくつかの療法について議論する。

我々の臨床的経験と同様、バーバラ・ポーバー(Barbara Pober, MD)らの研究によれば、 ウィリアムズ症候群の人の不安症はしばしば一般的不安症(generalized anxiety)と単純 恐怖症(simple phobia = DSM-IV、アメリカ心理学会)という形態を取ると指摘している。 一般的及び特定の恐怖症の両不安症は、ほとんどのウィリアムズ症候群の人で発生する。 恐怖症はある物体や状況に対する過度で理由のない恐怖感である。恐怖感はとても強いの で、その人にとっては大切な状況を避ける原因になったり、恐れている状況に出会う可能 性を極度に心配するという問題を引き起こす。

ウィリアムズ症候群の人に最もよく見られるタイプの恐怖症は音に対する鋭い感受性 (聴覚過敏症:hyperacusis)に関連している。特にサイレン・警報・消防車・雷・家電製品 (攪拌器・コーヒーミル・掃除機・換気扇など)・芝刈り機・他人の突然の大きな咳払いや 笑い声などが共通的に見られる恐怖の対象であり、しばしば恐怖症につながる。さらに、 ウィリアムズ症候群の人の多くがイベントに関連した恐怖症を経験している。特に、旅行 やパーティなど良いことであれ悪い事であれ初めてのイベントに参加する場合に多い。注 射や歯科医など痛みに関連する出来事も恐怖症の対象としてよく見られる。エスカレータ やエレベータ、飛行機などバランス感覚の変化を引き起こす活動(例えば前庭器官に影響 を与える)も不安症の原因となる可能性がある。

ウィリアムズ症候群の人と普通の人の不安症に関する相違

ウィリアムズ症候群の人と普通に発達した人の不安症に関する実際の症状は同じよう に見えるが、両者には若干の違いがあり、この徴候が見られるウィリアムズ症候群の人を 療育している者の手助けになる。先の述べた様に、単純恐怖症はウィリアムズ症候群の人 のほとんどに見られる。特に音に関係している場合が顕著で療法には重要であるが、本質 的にウィリアムズ症候群の「病理学」や「異常」を反映したものではない。実際に、突然 に予期せぬ鋭い音を聞く経験は、ウィリアムズ症候群の人にとってはとても不快な経験な ので、最初の反応としてこのグループの人達には同じような音を聞く可能性がある状況を 避けるような機構(つまり不安症)が働く様に適応する。しかし、不安症があまりに強過 ぎると、その人に極度の不快感をもたらしたり、都合の良い状況まで避けようとさせる。 この状態はもはや機能的とは言えず、治療すべきである。

普通の子どもでは、別離不安症(separation anxiety)が最も良く見られる不安症の形 態だと報告されており、子ども100人におよそ3人の割合で発生する。単純恐怖症は典 型的な発達を示した子ども100人に対して2から4人の発生頻度である。(バーンスタ イン(Bernstien)ら、1996)この発生率の低さは、ウィリアムズ症候群の人の間では単純恐 怖症が非常に良く見られることと対照的である。我々は正確な罹患数に関するデータを持 っていないが、不安症の表現形態を持っていないウィリアムズ症候群の人にはほとんど出 会わない。怪獣や暗闇や宇宙人など子どもにとって典型的な恐怖の対象は、ウィリアムズ 症候群の子どもにとっては重要な恐怖症の共通原因ではない。家族との別離によって引き 起こされる不安感は良く見られるが、他の子どもたちに比べてウィリアムズ症候群の子ど もたちにより顕著に見られるわけではない。知らない人に対する不安は残念ながらまった く見られない。(つまり、ウィリアムズ症候群の子どもの両親は見知らぬ人に用心するよう に教えなければならない。)

普通の人々の間では、不安症は低年齢の子どものように抑制的で内気で心配性の人に 発生しやすい(ケイガン(Kagan)ら、1988)。しかし、ウィリアムズ症候群の人は抑制的では なく、どちらかと言えばかなり非抑制的である。さらに、普通の人々の間では、不安症は 女子により多く発生する(ベル・ドーラン(Bell-Dolan)ら、1990)という研究もいくつか見 られる。我々の臨床経験からすると、ウィリアムズ症候群の子どもには性差はないと思わ れるが、この点を明確にするにはさらに研究する必要がある。

頻度や性別や不安症のタイプに違いがあるにもかかわらず、明確な心理学的メカニズ ムは普通の人とウィリアムズ症候群の人で違いは無い。重要な事は、普通に育った人に効 果がある治療法はウィリアムズ症候群の人にも役に立つことである。実際、ウィリアムズ 症候群の人は聴覚基礎治療法(auditory based treatment:下記参照)が効果的な人もいる。

恐怖症のモデル

恐怖症は、ある個人が最初にある出来事に対して不快感反応を持ち、その出来事に関 連し続ける大きく不快感のある不安を感じることで発生する。先に述べた様に、危険な出 来事に対するある程度の不安感は大切で、脅威を受けるの可能性に身をさらすような状況 を避けることを助けてくれる。ウィリアムズ症候群の人を含めてすべての人の恐怖症は次 のような方法で発達する。最初に、突然鳴り出した火災警報装置のすぐそばに座ったとか、 キッチンの窓から突然知らない人の顔が見えたというような、脅威を感じる経験につなが る強烈な出来事に遭遇する。この出来事は劇的で突然恐怖心を覚える原因になり、このこ とは常に意識にとどまり警戒心を持つ。人の内的危機警戒システム、あるいは「闘争−逃 避システム(fight-flight system)」と呼ばれる機構が活性化される。この活性化のおかげ でその人は注意力を増して覚醒した状態になり、特定の危険に注意を向けることが可能に なる。同時に人の瞳孔は拡散(大きくなる)し、心拍数と呼吸数が増加する。これら適応の すべては、彼らが経験した脅威がどのようなものであれ、もっとも確実に生き延びられる 方法でその危険を処理することを可能にする。

同時にその人は即座にその危険に反応し、その人の脳は将来起こりうる同種の危機に 対応して確実に切り抜けられるようにする。つまり、脳は同種の状況を避けるための情報 を、後になって利用できるように「記録」する。一般的には、これは音による予兆(sound advice)である。これは我々が危険を回避し安全でいるための学習方法である。ベッドの 端ぎりぎりで飛び跳ねていた子どもがベッドから落ちることで、その子どもはベッドの端 で飛び跳ねる事を怖がると言う正常な反応を発達させる。この「不安」という機能は大切 な生存機構の一つである。

不安反応:恐怖症の発達

外的刺激:雷  →  極端な肉体的感覚:耳の痛み → 危機警報:励起 ←←+
                                                    ↓       ↑
                                             状況の記録:黒い雲   ↑
                                                    ↓              ↑
                                             刺激状況の回避         ↑
                                                    ↓              ↑
                                             同様の状況:黒い雲  → +

ウィリアムズ症候群の人が恐怖症にかかりやすい特徴

上述した恐怖症が発達するプロセスはウィリアムズ症候群の人だけではなく、すべて の人に当てはまる。しかし、ウィリアムズ症候群の人には不安に打ちのめされ易い特徴が いくつか存在する。

  1. 彼らの感覚器官は単に感度が高いように見える。ウィリアムズ症候群の人の多くは、 他の人は気づかないような音が聞こえ、その音に簡単に惑わされてしまう。洋服のタ グやちくちくする布地、突然の動きなど、些細な物理的刺激にも非常に敏感である。 このように、彼らの不安「警報」、あるいは危機信号は頻繁に鳴る傾向がある。
  2. ウィリアムズ症候群の人の多くは、普段から励起状態レベル(baseline of arousal)が 高い。常に励起された状態にあるように見える。このため、彼らの励起システムが不 稼動状態になることはほとんど無く、常に最高のレベルの励起状態にあると言える。 同様に、彼らの励起システムは停止状態から最高速度まで一気に加速する。つまり、 彼らは冷静な状態から瞬時に極端な恐怖や興奮や戦慄を感じる状態になる。
  3. ひとたび励起状態になると、たとえ顕著な学習障害を持っていても、彼らの「記録シ ステム」あるいは出来事に関する長期記憶はとても良く機能する。

不安症/恐怖症の機能

不安は我々が危険な状況を回避可能にするための適応機能になるが、一方で、あまり に高頻度で不安が起こっては、ちょっとした脅威に適切に反応できなくなるという意味で 問題になる。つまり、その人に最初に設定された警報システムがあまりに簡単に鳴り出す ような場合である。ガスコンロを2つ以上つけると常に煙感知器が作動し危険を知らせる ようなものである。これはちょっとした危機の予兆や感覚刺激に対してウィリアムズ症候 群の人の多くが感じる「危険」シグナルと同じである。隣家の裏庭で芝刈り機が動き出す と、ウィリアムズ症候群の子どもは集中することも遊ぶ事もできなくなることがある。 さらに、不安症のために明らかに脅威を感じないような出来事を避けようとする事は、 過剰適応であり問題となる。ウィリアムズ症候群の人にとって、不安症はしばしば「拡散」 するという意味でも問題となる。我々のシステムは過汎化(overgeneralize)する傾向があ る。ベッドの端で飛び跳ねる事だけを怖がるのではなく、そのうちにその子どもはベッド そのものや、飛び跳ねる事や、その両方を怖がるようになる。不安症は高度に励起された 恐怖状態の時に記録されたあらゆる事物に広がり、実際に怖かった出来事に含まれている 要素に留まらず、その後記録されたすべての事物に関連する可能性がある。ウィリアムズ 症候群のある子どもは氷ですべるタイヤの音に危険を感じていた。そのうちに彼は雪が降 るのを見ると氷を連想するので不安を感じる様になった。さらに、空に雲が見えると雪が 降るかもしれないと感じたり、嵐の予報を伝える天気予報を見るだけで不安を感じた。さ らに、氷ですべるタイヤの音を聞いたのが登校の途中だったので、学校に行きたがらなく なった。通常なら減らそうとする不快な状態を不安症が作り出す。人によってこの方法は 千差万別である。同種の状態すべてから逃げたり避けたりする人がいる。不安を作り出す ある原因を克服する為に、その他あらゆる不安の原因に埋没する事で一つの原因の影響力 を相対的に低くする人もいる。我々もある程度同じような方法を用いている。例えば、ハ ロウィーンのような恐怖映画を見たり、殺人事件ミステリーを読んだり、レスキュー911の ようなテレビ番組を見ることである。ウィリアムズ症候群の人は恐怖の対象を征服したり 克服するために、その対象にこだわることがよくある。雷が怖い子どもが天気予報や天気 図に執着する可能性がある。芝刈り機の音を怖がっている子どもは、次第にその音の違い を認識し、やがてメーカやモデルの型式まで聞き分けるようになる。

内的な警報に対する反応からくる不快感と戦ったり押さえたりするために、いろいろ な自己緩和活動を見せる。貧乏ゆすり、爪噛み、手をこする、確認を求める、さらに何度 も何度も確認を求める、などは、普通の人が不安な時に共通的に見せる反応である。これ らの反応の多くは、ウィリアムズ症候群の人にもよく見られる。ウィリアムズ症候群の人 が見せる異常な行動の大部分は、強い不安を伴う不快な経験と戦おうとする企てを反映し ている、と我々は考えている。

療法(Intervention)

恐怖症による不安を減らす行動指針

恐怖症による不安が引き起こす問題に対処する方法は数多くある。これから述べる方 法はすべて組み合わせて用いる事ができる。それぞれの対処方法は、両親・教師・言語や 理学などの療法士によって用いられる。しかし、最初の取っ掛かりが難しいと感じた場合 は、手始めに不安症の人の治療経験が豊富な心理療法士に数回見てもらうことが有効であ る。

モデルの節で概要を述べた影響を与える不安症どの段階に対しても対策を講じる事が できる。つまり、警報発令レベル(alarm activation level)、システム加速レベル(system acceleration level)、拡散レベル(spread level)のどの段階に対しても療法は適用可能で ある。警報発令レベルでは、突然発せられる音や接触や予定変更などの発生頻度が少ない 環境に変えることができる。例えば、電話や学校のベル(音楽を使っている学校もある)の 音量を下げる、ウィリアムズ症候群の人が自宅にいない間に芝刈りをする、感覚器に刺激 を与える出来事の前に注意を促す(これからミキサーを使うよ。手伝いに来てくれる? そ れとも二階の自分の部屋に行く?)ことができる。音を出すことを手伝わせることも驚か せる要素を少なくできる。この場合は、たとえ、子どもが手伝っている振りをしているだ けでも効果がある。例えば、誰かが屋外の芝刈り機を動かし始める前に、子どもが屋内の まったく無関係なスイッチを入れる場合である。この方法は、ある出来事によってびっく りさせられたり驚かせられることが減り、心理的反応の準備をすることが可能になり、感 情の起伏を顕著に減少させる事ができるので、効果がある。同様に刺激を引き起こす不安 の衝撃は、その人なりの適応方法で減らす事ができる。例えば、ヘッドフォンや帽子を着 用することで音を弱めることができる。大きな音が聞こえそうな時は、注意をそらすため に好きな音楽テープを聞く事もできる。

聴覚・視覚リラックス技法(Auditory and visualization relaxationtechniques)

聴覚・視覚リラックス技法は、システム加速レベルの不安を減らす事に顕著な効果が 見られる。すなわち、ウィリアムズ症候群の人は、不安な出来事が起こり始めたときに、 その不安感を減少させるいろいろな方法を学ぶ事ができる。自分自身をリラックスさせら れれば、身体が同時に不安の増大を感じる事はできない。ウィリアムズ症候群の人自身が、 リラックス法を学ぶ事はとても有効だと報告することが多い。LICSWのサラ・ミランダと私 はウィリアムズ症候群の10代の若者や成人達がリラックス法を学ぶグループの指導をして いて、彼らが短時間で確実に深いリラックス状態になれることを発見した。若い成人たち のグループに対して、2時間のワークショップの間にガイド・ビジュアライゼーション (guided visualization)の使い方を教えた。参加者の一人は、数週間たった後、風船が出 てくるパーティに参加した。以前ならば風船が割れて大きな音がするのではないかととて も不安になる状況だったが、自らガイド・ビジュアライゼーション法を使ってリラックス することができ、最後までパーティに参加できたと報告した。不安をコントロールするこ とを実感でたことで、どうしようもない感覚が沸きあがることを減らす事ができるように 見える。これらの技法を最も効果的にするには、鼓動が高まるとか、掌に汗をかくとか、 呼吸が早くなるなどといった自分自身の不安の肉体的徴候に気付くことをウィリアムズ症 候群の人に教えなければいけない。我々のワークショップでは、ほとんどのウィリアムズ 症候群の人はこれらの徴候を簡単に認識することができた。不安になりそうだという感覚 に早めに気がつくことが、不安レベルを低減させるために、不安症の悪循環に割り込む為 の重要な鍵である。

ガイド・ビジュアライゼーション(「あなたは今砂浜にいます・・・。ゆっくり息をし ています・・・。吸って・・・はいて・・・。両手の力が抜けています・・・。)のような 言語リラックス技法は、ウィリアムズ症候群の人に非常に効果的で使いやすい技法である。 たいていの書店の「自習」コーナーには、このような技法や、自分自身の技法を作り出す ためのノウハウが書かれた本が売られている。The Relaxation and Stress Reduction Workbook 4th Edition(1995)は、具体的な気付きとビジュアライゼーション技法が満載さ れたよい本である。対象としているウィリアムズ症候群の人に最もよく適合する様に練習 方法を追加したり修正したりするとよい。これらの技法(行動薬 = behavioral medicineと 呼ばれることが多い)に精通した地域の心理療法士と一緒に活動する事も役に立つ。その 人が気に入っている「落ち着ける場所」を想像させることは、最初に始めるステップとし てよい方法である。我々のワークショップでは、庭とか猫のいる家庭の居間とか海岸のよ うな平和な場所を選ぶ。カリフォルニアでは10代の若者や成人はジャグジーにつかってい ることを想像する人が多い。このようなワークショップを通じて得た印象では、ウィリア ムズ症候群の人はしばしば深いリラックスを得ることが可能で、他の人に比べてこの技法 に馴染み易い。一般的に言って聴覚刺激への反応が強い事が恐らくその原因だと思われる。 これらの技法は、対象者が不安な体験を感じていない落ち着いている時に教え、その後不 安を感じた時に使ってみるべきである。これらの技法を教える時に背景音楽としてソフト ミュージックを流したところ、リラックス効果を高めた。ビジュアライゼーションをして いる時の自分たちに最も効果的な音楽テープを作って欲しいと言ってくるウィリアムズ症 候群の人がいるかもしれない。また物静かな成人の場合は、静かな曲や波の音のテープを 自分で作ってくることもある。ここで述べた考え方は、ストレスを感じる出来事に遭遇し たら、これらの技法を思い出して使ってみて、心の中でリラックス方法を唱えることでリ ラックス反応を引き出す事である。医者の待合室や治療の途中や飛行機旅行な間など、事 前に判っているストレスを感じる時にはオーディオテープを利用できる。

社会的物語(Social Stories):キャロル・グレイ(Carol Gray)によって開発され彼女自身 の本に記述された「社会的物語」は、固定化された特定の恐怖症に対する不安反応を減少 させることができ、子どもだけではなく成人に対しても効果的である。親や教師と一緒に ウィリアムズ症候群の人が出来事とその人の反応を書きとめた小冊子を作る。そこにはそ の人特有の行動、例えば「飛行機に乗ったらシートベルトを締める。ヘッドフォーンをつ ける。離陸する時には深い深呼吸をする」などが含まれる。このようにして、ウィリアム ズ症候群の人はその出来事が起こるまえに何回か自分自身の行動のリハーサルができる。

ロール・プレイ:ロール・プレイはとても効果がある。ロール・プレイのめざすことは、 ウィリアムズ症候群の人にごく少量の不安を実際に体験させ、その後リラックスし克服す る経験を積ませることにある。現実的な小道具を使うことも効果的である。例えは、最初 に「警報機」の役になり、次にその警報機を怖がる人になってみるというようにお互い役 割を交代する。この方法によって、不安になったときにリラックスした反応を引き出すに はどうしたら良いかを学ぶ手助けになる。ほとんどのウィリアムズ症候群の人は純粋な感 情的経験を呼び起こす事がたいへん上手である。演劇的な感情をこめられる「演劇教室」 のような形式でロール・プレイを実施すれば、10代後半の若者や成人のウィリアムズ症候 群の人でも楽しめる。中学校や高校の演劇教師の参加があると良い。パーティゲームのよ うな形式で小人数のグループで実施すると楽しくできる。

ごっこ遊び(pretend play):同様に、人形やアクションヒーローのおもちゃを主人公にし て、ウィリアムズ症候群の子どもが不安に感じている「もの」に対して怖がって見せた後、 リラックスしそれを克服方法を学ばせるというごっこ遊びが、小さな子ども向けには非常 に効果的である。この種の遊びは、まったくの遊びとして自発的によく行われている。自 分が強い興味を持っているトピックスが使われていると、ほとんどの子どもはこの遊びを 楽しめる。繰り返すが、遊びの中で子ども自身が少し不安を感じ、それを克服することを 経験する事で、高い効果が望める。学校のベルのつもりの小さな音の出るベルのような実 物の小道具を使うことで、ごっこ遊びに現実性を持たせることができる。小道具を見つけ たり、作ったり、買ったりする過程に子ども自身を参加させよう。その状況のあらゆる場 面をコントロールできると子どもが感じれば感じるほど、自分の不安の押しつぶされると 感じることが少なくなる。大人に心配性の人の役を割り当て、子どもにその大人をなだめ る役を演じさせる事で、なだめる「言葉」(お母さん、心配しないで。ほら、こんなふうに 深呼吸をしてみて)を自分の心の中で言わせることができるようになる。兄弟や他の子ど もが参加しても楽しい。子どもが怖がっている様子をあなたが「面白おかしく」演じるこ とはとても効果がある(例えば、ばかばかしいくらい怖がっている顔をするとか、倒れる まねをするとか、怖そうな音とともに人形をテーブルの上から落とす等)。誇張する事で、 楽しい遊びの雰囲気ができ、子どもがリラックスして楽しみ、遊びに感情移入しやすくな る。もちろん、からかうような雰囲気を持つことは避け、恐怖を克服する方法を楽しく教 えるようにする。

薬物療法(Medication)

薬物療法が有効な人もいる。特に恐怖症に関連する不安症状や一般的不安症を軽減さ せることに効果がある。また、薬物療法は上で述べた他の方法と同時に用いることができ る。通常、薬物療法では不安症を完全に解消することはできず、管理しやすくすることが 目的である。対象の患者をできるだけ活動的にし、これまでに述べたような他の療法の効 果を高めることがこの治療の目的でる。

不安症に対処する為に薬物療法を行うにはいくつかの注意点がある。まず最初に、薬 物療法以外の不安をコントロールする方法を試して見る。次に、どのような状況のもとで、 どの程度の頻度で不安症が起こるかを調べる。そして3番目に、不安症の影響が子どもの 活動や生活にどの程度影響を与えているかを調べる。その他の手段から見て、薬物療法は 不安症の治療として最初に用いられるべき手段ではあってはならない。以前に述べたよう な治療方法をまず試してみるべきである。これらの方法がまったく役に立たないとしても、 薬物療法とともに試みることが必要である。

影響範囲が広いため少なくともある程度は子どもたちの日常生活の大部分に影響を与 えるか、あまりに激しいために特定の活動のいくつかへの参加を妨げているか、どちらか の場合に限って薬物療法を考慮すべきである。普段から不安感が強過ぎて、新しい状況に 対応できなかったり、自分の置かれた状況を楽しめない子どもたちが存在する。ある状況 や音や強烈な感覚を怖がって、パニックとしか表現できない状態になる人も療法の対象に すべきである。最後に、精神的なストレスを感じるイベントへの参加、パーティのような 楽しいイベントへの参加、医者へ行くなどの不快なイベントへの参加などを、怖がりすぎ る子どもも薬物療法の恩恵を得られる。

不安の徴候を対象にした薬物療法群が複数存在する。トライサイクリック抗抑うつ剤 (tricyclic antidepressants)、ベンゾジアゼパム(benzodiazepams=バリウム系薬物療 法:the valium family of medications)、セロトニン再吸収阻害剤(serotonin reuptake inhibitors=プロザック系:Prozac family)、ベータ遮断剤(Beta blockers)のグループ、 バスピロン薬物療法(the medication buspirone)、その他あまり利用されない薬物療法も ある。

トライサイクリック抗抑うつ剤は、パニック障害と同様に不安障害の人にも効果を見 せる。この種の薬物療法は子どもにも大人にも、口が乾くたり、トイレに行く回数が増え るなどいくつかの副作用が見られる。それに加えて、この薬物療法を処方する時には、心 電図や心臓の鼓動を追跡するなど、心臓の電位活動に異常がない事を確認する注意が必要 である。ベンゾジアゼパムは、特定のイベントが重大な問題を引き起こすときに有効であ る。バリウムやクロノピン(klonopin)などの薬物療法は、すばやく効果が現れるが、身体 から排泄されるのも早い。そのために、飛行機に乗る時や難しい社会的イベントやその他 事前にわかっているイベントで、心臓の鼓動が高まったり顔が赤らんだり、呼吸が早くな ったり、汗をかくなどの徴候が現れる時に、そのイベントの前に薬を飲む事を進める。

プロザックやパクシル(Paxil)やその他のセロトニン再吸収阻害剤(SSRI)は、あらゆる 年齢のパニック障害と同様に不安障害の人に効果がある。これら薬物療法は副作用がかな り少ないので子どもにも十分使うことができる。これらの薬は、この障害に対して効果が 現れるまでに6週間から8週間かかる。ベンゾジアゼパムのようにはすぐに効かない。

先に述べた薬物療法には、心疾患を持つ患者には循環器医師のチェックが必要なプロ プラノロール(propranolol)等のベータ遮断剤や、バスピロンなども含まれる。最後に、成 人の高血圧治療薬として用いられるクロ二ダイン(clonidine)は、中程度の継続的な活動や 覚醒レベルが上昇することで極度の不安に陥る子どもに効果がある。クロ二ダインは、こ れ以上の興奮や恐怖に耐えられない子どもたちの覚醒レベルを下げる事に効果がある。ク ロ二ダインは子どもたちの意識レベルを普通の子どもと同じレベルまで下げ、子どもたち が普段の活動で出会う様な一般的なストレスへの対応を可能にする。

(1999年7月)

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