Social Cognitive Abilities in Williams Syndrome
Helen Tager-Flusberg, Kate Sullivan, Jenea Boshart, Jason Guttman, Karen Levine
社会的認知の基礎/心の理論(Theory of Mind)
社会的認知に関する学説や研究は発達的方法論の立場をとる。つまり、どの段階の
子供も社会的理解が進行していき、この発達が子供達が加わっている関係にも変化をもた
らすというものである。ごく小さな子供における社会的認知の基礎は、保育園や幼稚園に
行き始める頃に人に関する基礎的な理解を行うということから始まる。彼らは、人という
存在は、その他のものとはまったく違っているということを理解する。つまり、人の行動
は目的主導(あるいは意識的)であり、それは欲望とか知識とか信念とかという精神状態
によって引き起こされる。人というものは精神を持つ存在であるということ、あるいは心
を持った個人であるという理解が、社会的認知における発達の第一歩である。
次の段階として4才までに、人は皆違った精神状態を持っているということを理解
できるようになる。つまり人の信念や知識は皆同じではない。この時点になると子供達は、
同じ物を見ていても他人は違った側面を見ているかもしれないことや、外界を違ったふう
に理解しているかもしれないということを認識できる。この段階に達した子供は、いろい
ろな精神状態の概念(欲望、信念、感情)の間の関係を理解でき、この精神状態を使って
人の行動を予測したり説明したり出来るようになることから、心に対するこの種の知識は
「心の基礎理論」(basic theory of mind)と呼ばれるようになった。
普通に発達した子供は6才までに、ある人が別の人の考えをどう思っているか推測
することができるようになる。この種の思考能力は2次推量(second-order reasoning)と
して知られているが、より一層発達した「心の理論」を示しているとともに、私たちが社
会的状況を把握する時に重要な役割を果たしている。幼年時代の中期(7〜8才)までに、
普通に発達した子供はさらに高度な社会的概念を用いて、人の行動を説明できるようにな
る。例えば、個性というものは人が持ち続けている性質であり、新しい状況に直面した時
にどのように行動するかを予測する材料になることを理解する。幼年期の終わりから青年
期に達する頃には、自分自身を含めて人というものを、単に外面(着ている洋服の種類、
肌の色、性別 等)というよりも内面(どのようなタイプの人か、何に興味を持っているか、
才能は?)によって見るようになる。彼らは、人の心の動きというモラル構造を理解し、
この新しい社会的構造に関する知識を基に、他人との関係の枠組みを作り始める。
今我々がウイリアムス症候群に関して取り組んでいる課題は、この社会的機能につ
いてである。目標は各段階においてこれらの機能領域の発達を追跡することであり、それ
らが社会的理解や社会的経験にどのように関連しているかを見極めることである。それぞ
れの子供の発達段階に応じた特定の課題とテストが与えられる。
全員に与えられる一連の課題は次のようなものである。
小さな子供
この論文は、4才から9才までの20人のウイリアムス症候群の子供と、8人のプ
ラダ・ウィーリー症候群の子供から得られたデータに基づいている。2つの実験的課題、
すなわち「行動の説明」と「間違った思い込みを見抜く」から得られた発見を紹介する。
「行動の説明」の課題には、心理状態の説明を含む9つの物語が含まれている。(例:彼
女はクッキーが欲しい。彼はネズミを恐がっている。彼は昼食を食べ忘れた。) この課
題では、ウイリアムス症候群の子供達は非常に良い成績だった。9つの心理的説明のうち、
平均して6つから7つ答えられた。これに比較して、プラダ・ウィーリー症候群の子供達
は4つから5つの心理的説明が出来た。この結果から、ウイリアムスの子供は、心理状態
を含む要因で人の行動を説明できることがわかる。さらに、この領域はこれらの子供にと
って現実的な長所となる。つまり、通常の認知能力や言語レベルから予想されるより彼ら
はずっとうまく行動できる。「間違った思い込みを見抜く」という課題では、2つのグル
ープは、どちらも70%の子供が課題を達成するというほぼ同じ結果が得られた。さらに、
この課題での成績は両グループの言語能力と高い相関が見られた。また、ウイリアムス症
候群の子供達にはいくぶんばらつきが見られた事も特記すべきことである。比較的年齢の
幅が狭いにもかかわらず、精神状態を理解できる子供もいれば、これらの課題が非常に難
しい子供もいた。
大きな子供の中にもばらつきが見られたが、全般的にはウイリアムス症候群の青年の
大部分は、高次の社会的認知課題達成が困難であることがわかった。ウイリアムス症候群
の青年7人と、比較対象のプラダ・ウィーリー症候群の青年3人に対してのテストを完了
した。今回の特別の課題および「うそと冗談」のどちらの課題もうまく理解する事ができ
なかった。この問題は、発達障害(自閉症・原因不明の発達遅滞・ダウン症など)を持っ
た子供達に見られる我々が発見した特徴とよく一致している。つまり、この子供達は基礎
的な「心の理論」は獲得しても、その後のもっと高度な社会的概念の発達には特定の限界
があることを発見した。彼らは、社会的知識をより高度な「心の理論」に再編成すること
が非常に遅れている。
この遅滞の原因が何であるかについて、まだ完全に理解できていない。重要な関連
要素の特定は出来ているが、それらを整理し、それぞれが社会的認知障害にどのように影
響しているかを理解するには、もっとたくさんの人々に対してテストを行わなくてはいけ
ない。さらにこの遅滞がどの程度であるかについてもわかっていない。もっと年齢の高い
青年達に対して、これらの課題の成績を調査する必要がある。
やはり、大きな子供達は彼らの一般的な認知レベルから予想できる以上に、社会的
認知能力の発達に遅れが見られた。このことは、彼らとしては学校の授業は比較的うまく
適応できているが、同年代の正常な子供達は、社会に対してより高度な理解をしているこ
とを示している。ウイリアムス症候群の子供達の持つ社会概念(個性や特徴、友情などを
含む)は、同年代の正常な子供達に比べて遅れており、これが同年代の子供との人間関係
形成を難しくしている。われわれは、ウイリアムス症候群の子供や青年にとって、この社
会的認知発達の遅滞が社会的機能を制約していると考えている。