聴覚過敏症への対応方法
この資料はWSAのニュースレター "Heart to Heart" に掲載されていました。イギリスの
ウィリアムズ症候群財団が作成した資料です。
(2001年5月)
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So What Can We Do About Hyperacusis ?
By Dr. Josephine Marriage
Experimental Psychology Department, Cambridge University, England
Reprinted with permission from the Williams Syndrome Foundation, Ltd Tonbridge, Kent United Kingdom
"Heart to Heart" Volume 18 Number 1, March 2001, Page 4-6
音に不快感を感じる人を助けるために何ができるでしょうか?。最初にすべきことは、
本人やその家族の生活に影響を与えている音に対する過敏さに関する事実をできるだけ多
く集めることです。音に対する異常な行動につながる相違要素を特定することが目的です。
次に、以下に述べるような手順で本人や家族の要望に沿った適切な対応方針を作り上げま
す。全員がすべての治療を必要とするわけはありません。聴覚過敏症とその行動パターン
の説明を見ると、その子どもが音を聞く環境を変えることで、特定の音源が与える影響を
減らせることを示唆しています。この手法(The Broad Framework)は評価と選択できる対
応方針から構成されています。
聴覚過敏症の評価
- お子さんの日々の生活における聴覚過敏症に関するエピソードを書き止める。
- 本人・家族・学校などについて、この問題の影響を評価する。
- 典型的な1週間(週末を含む)について、音を嫌がる行動の全てを日記に記入する。
次に対応方針を考える
- 日々の世話に加わっている関係者全員に聴覚過敏症に関する情報を伝えて、音に起
因する行動への対応方法(下記参照)に一貫性を持たせる。
- 必要ならば臨床心理士に依頼して行動的除感作(過敏性をなくす)プログラムを作
成してもらう。
- 必要ならば聴覚療法士(audiologist)に依頼して聴覚除感作プログラムを作成しても
らう、あるいは数種類の音だけが問題の原因であれば特定の音への回避策を作成し
てもらう。
- あらかじめ決めた時間が経過した後、音に対する本人の反応を再評価してもらう。
評価
耐性の問題を引き起こす音に付いて、発生する場所・発生頻度・本人や回りの人の反
応について考えるとよいでしょう。色々な人と話し合うことでこれまで気がつかなかった
状況下での行動に気が付くこともあります。各人それぞれが異なる対応をしていることに
気が付くかもしれません。例えば、「そうね、彼は注意を自分に向けて欲しいだけだと思っ
ていたわ」というように。「彼は音が嫌いです」に始まって、もっと客観的な問題の記述(走
り去る、車から降りようとする、他の子どもに乱暴する、泣いて耳を覆う、集団活動から
はみだす等)に至るまで、適確な表現を見つける事も可能です。本人が耐えられない音の
一覧をこの情報から作成することができます。
世話をする人全員が聴覚過敏症を理解する。
音の発生に対する恐怖感がある場合は、これが感覚を鋭敏にする可能性があるので、
音に対する恐怖心を減らすことがとても重要です。しかし恐怖心を減らしても音を聞いた
時に感じる可能性のある身体的苦痛を取り除くことはできないので、苦痛は恐怖心や恐怖
と同時並行的に管理する必要があります。聴覚過敏症の人は、音にさらされる可能性があ
る状況に対して不安感を持ち始める可能性があります。実際に不安感を持つこと、またそ
の不安感が聴覚を鋭敏にすることは疑う余地がありません。以上の理由から、治療方針は3
つの部分からなりたっていて、それらすべてがウィリアムズ症候群の聴覚の過敏さをやわ
らげる効果を発揮します。
レベル1
聴覚過敏症に関する情報
問題となる音が聞こえた時に、子どもを取り巻く専門家達全員が本人に対して首尾一
貫した管理方法を取ることがとても重要です。聴覚過敏症は大人にも子どもにも発生する
認知状態であり、本人の想像による作りごとでもなければ、注意を引こうとしている訳で
もないことを知ることで両親の大部分は救われたと感じます。問題を引き起こす特定の音
に対して家庭で適用できる対策を見つけられると思えるかもしれません。紙に印刷された
情報を入手できれば、学校の先生や祖父母など他の家族と話し合うことも可能です。普通
の生活をしている場合で音に対する行動が日常生活や学校生活に影響がなければ、聴覚過
敏症であることを意識し、行動に対して一貫した対応方法を取ることで、時間をかけて治
していく対応方法でも十分でしょう。
レベル2
音にさらされることへの不安感に対する行動的除感作
ウィリアムズ症候群と無関係な聴覚過敏症の人たちは、音の聞こえ方を「耳や頭の中
にナイフを刺されたような」あるいは「激しい痛み」や「神経をギーギーと逆なでされる」
のように表現します。パニック反応を示し、感情の爆発・攻撃的態度・涙・逃避行動など
を伴なうこともあります。彼らはその状況に孤立感を感じていて、彼らが経験しているこ
とを他人に理解してもらえないこと、ひきこもりやうつ状態になるとも述べています。自
分が感じていることを表現する能力に問題がある子どもたちにとって、その状況はどれほ
ど困難なものでしょうか。彼らが自分では制御できない音にさらされる可能性がある状況
に結びついた恐怖感や不安感を身に付けてしまうことは避けられません。
音にさらされることに対する不安感を助長させないために、除感作プログラムが効果
があるかもしれません。行動的除感作プログラムは臨床心理士が作成してくれますが、次
に述べる提言は、音が聞こえる場面におかれた子どもを手助けするこ際に誰にでも利用可
能です。これらは、UdwinとYuleによって書かれた「ウィリアムズ症候群の子どもたち:
教師へのガイドライン(Children with Williams Syndrome : Guidelines for Teachers)」
を編集したものです。
- 音にさらされて子どもが苦痛を訴えている場合、可能であれば子どもをできるだけ音
源から遠ざけて、慰めて安心させる。
- 子どもに音の原因を説明する。
- 子どもが自分で音を少しでも制御できると感じれば、恐怖反応が減少することが多い。
そのため、家庭でも自分で手をたたいて音を出させたり、音の出るもので遊ばせたり、
掃除機のスイッチを入り切りさせてみるとよい。遊びの場面で子ども自らに様々な音
を出させることを基本とした療育プログラムもある。この音には特定のリズムで机を
指で軽くたたくとか、「がらがら」を振ることも含まれているが、どのような場合でも
子ども自身に音を出させる。
- 繰り返し少しずつ音に慣らしていけば、不安感を減らして聴覚の過敏さを和らげるこ
ともできる。問題となる音(笑い声・拍手・雷鳴・サイレン・機械音など)を1種類
あるいは複数をテープに録音し、音量を最小にして子どもにスイッチを入れさせる。
数日あるいは数週間かけて徐々に音量を上げていく。遊びながら自分で音量を調節し
て音に慣れる練習をすることで、音と恐怖感の結びつきを切り話すことができる。同
じ音でも不意に聞かされた場合はこれとは別だが、聴覚過敏症の人たちは事前に音が
聞こえることを知らされていればうまく対処できると言っていることから考えて、役
に立つ。
- 明らかに苦痛を与える環境(例:舞踏会で歌う)にいることを強要してはいけない。
彼らは恐怖感を混同する結果、その状況(例えば舞踏会場)と苦痛と恐怖を結びつけ
てしまう。特定の場面への恐怖感が確立されてしまった場合は、時間と手間をかけて
ゆっくりと除感作を行うことが大切である。
- 年長の子どもたちの場合は、嫌な音を聞いた場合、どんな時でも先生に申し出て、数
分間教室を出て行く許可を得られることを伝えて安心させることもできる。私たちの
経験では、子どもたちがこの方法を乱用することはないが、怖い音を聞いた時にしば
らくの間なら教室を出ていって構わないと判っているだけでもとても安心するようで
ある。
- 耳栓や耳当てなどは、極端な音の場合や短時間の使用の場合で避けられない状況(旅
行中など)以外では使わない。普通の音や許容範囲の音を聞くことは、聴覚や脳の正
常な発達に欠くことができないからである。
レベル3
聴覚の除感作
音への耐性や日常生活に大きな障害がある場合は、もよりの親切な聴覚学専門機関に
よる聴覚除感作を受けるとよいでしょう。この技法は聴覚過敏症の成人に用いられ、耳鳴
りを治す方法にも似ています。機関によってはこの方法を子どもに適用した経験がないこ
ともありますが、万が一子どものコミュニケーション能力に問題があったとしても効果が
あることが現在までに判明しています。聴覚除感作は子どもが不快感を覚える音に対する
聴覚器官の感度を下げることを目的としています。
ノイズ発生器(Noise Generator)を使って高すぎる聴覚の感度を下げます。ノイズ発
生器(補聴器のように見え、微小マスク音発生器(tints masker)とも呼ばれている)は聴覚
過敏症の人が音を聞く感度を下げます。ノイズ発生器は広い周波数帯域で一定の雑音を発
生します。音量を大きくしたり小さくしたりという調節も可能です。
ノイズ発生器は耳の感度を下げて普通の音を聞く時の耐性を改善する目的で使われま
す。なぜこのような効果があるか正確なしくみは判明していません。普段聞いている音に
マスク音を加えると、おそらく聞こえている音のざらざら感がなくなることが原因と考え
られ、すぐに効果が現れます。しかしノイズ発生器を使わないときに見られる長期的効果
も存在し、以前なら不快感を与えた音への感度がゆっくりと改善されます。これが聴覚器
官の神経発火パターンが変化したことに起因するのか、不安感を上手にコントロールでき
るようになったことに起因するのか(あるいは両方か)はまだ明らかになっていません。
成人の場合、ノイズ発生器を1年から1年半使うと聴覚感度が正常に近づきます。
聴覚過敏症を最も効果的に管理する方法は、ノイズ発生器の使用と、音を聞くことに
関連する恐怖や不安を減らすことを目的としたプログラムを同時に行うことです。マスク
音を使うノイズ発生器は、耐えられない音を聞けるレベルを下げることを目的にはしてい
ません。その代わりに聴覚器官が音を拾い上げてコード化する方法を変化させます。
この方法は、日常の環境音や会話情報を聞くことを妨げずに、長期間かつ低レベルの
音を聞き続けることが必要です。注意深くノイズ発生器を使えば、聴覚器官に悪影響を与
える危険はまったくありません。
ノイズ発生器で作られた音は、会話のような正常で重要な音を聞き漏らさないように
外耳道を塞がない設計の開放型耳プラグ(open ear mold)を通して両耳に届けられます。
耳プラグや装置は毎日長時間使用できるように体に合った安全なものを選んでください。
初期目標レベルの設定
この装置には発生させる音量を調節する機能があります。子どもがやっと聞き取れる
程度の音量に設定します。音が聞こえていると子どもがはっきりと意思表示にない時には、
音が聞こえるようになった時にそれに静かに聞き入っている子どもの様子を観察してくだ
さい。この音は、貝殻を耳に当てた時に聞こえる「波の音」のように聞こえます。音量を
大きくしすぎると、会話や大切な音を聞くことに影響が出ます。
最低でも1日6時間以上この装置を使用することを目標にします。最初は家庭内で静
かにしている時に使い始めますが、学校や旅行など他の環境へもだんだんと使用機会を広
げて行きます。4週間くらいの時間が経過する度に、普通に聞いいている状態で子どもが快
適に感じ、かつ会話や信号音などが聞こえなくならない範囲で音量を上げます。唯一の例
外は不快な音にさらされる環境にいる時で、耐えられない音の影響を軽減するために一時
的に装置の音量を上げることがあります。状況に応じてマスク音の音量を変えることが適
している子どももいます。
ノイズ発生器の着用者が到達すべき音量レベルの設定値は決められていません。しか
し、ノイズ発生器を着用している通常の状況下でその環境の音に耐えられれば、それ以上
マスク音の音量を上げる必要はありません。実際のところこれまでにこの装置にうまく適
応したこどもたちの場合、マスク音をすぐに受け入れ、音量変更にもすぐに慣れ、異なる
環境毎にそれぞれ快適になるように自分で音量を上げ下げすることさえあります。
数ヶ月使用を続けると、聴覚の過感度が改善されてノイズ発生器なしでも不快感を覚
えずに音に耐えられるようになります。その時期が来るまでは、不安になる状況にマスク
音なしで耐える訓練を過度に行わないでください。お子さんが異なる状況に耐えられるこ
とを確認できればマスク音のレベルを下げ始めてもよいでしょう。すすんでノイズ発生器
を身に付け、発生器から恩恵を受けている子どもの中に、突然ノイズ発生器をはずしてし
まう子どももいます。ノイズ発生器を長期間使用することの良い点は、脳の中で行われる
「音量調節」が正常により近くなることにあります。聴覚過敏症の管理についてもっと詳
しい情報を知りたい方は、地域の病院の担当部門にコンタクトを取って、聴覚過敏症につ
いてどのような対応が可能か問い合わせてください。聴覚専門ではなくても、作業療法や
こども発達センターから情報を入手できることもあります。聴覚過敏症についてはよくわ
からないと言われた場合は、この資料を見せて何処に聞けば良いかを聞いてください。
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