行動表現型と特殊教育:ダウン症候群、プラダー・ウィーリー症候群、ウィリアムズ症候群の子どもに対する教育問題に関する親からの報告



WSAのホームページに全文が掲載されています。下記はそこからの抜粋です。

(2002年11月)

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本研究は、ダウン症候群(n = 21)、プラダー・ウィーリー症候群(n = 25)、ウィリアムズ症候群(n = 21)という3種類の遺伝子起因に起因して精神遅滞を引き起こす症候群の患児の症候群特有の行動について、両親がどの程度理解しているかを調べた。親は自分の子どもの症候群に合併する行動特徴のうち、目立つもの(特に悪い適応行動)についてはよく知っているが、ある特定のささいな認知処理表出についてはそれほど知らされていない。ダウン症候群の子どもの親は、他の2種類の症候群児を持つ親に比べて症候群に関連する行動面の知識が豊富である。さらに、より多くの人(両親・学校専任の心理学者・教師・会話言語療法士(speech-language pathologists)など)によって、学校や学級にダウン症候群に関する情報がもたらされる。3つのグループに共通していることとして、子どもたちが受けている教育サポートサービスは一般的に言って各症候群の特徴に適した形にはなっていない。

この10年以上にわたって、精神遅滞の人々に対の行動研究はゆるやかにその形を変えてきた。初期には、精神遅滞のレベルが軽度・中程度・重度・最重度の人たちを相互に比較していた。しかし、最近は被験者の病因や精神遅滞の原因によるグループ分けを行った研究の数が多くなっている。1980年代と1990年代を比較すると、行動に関する研究の数はウィリアムズ症候群で10件から81件に、プラダー・ウィーリー症候群で24件から86件に、脆弱X症候群でで60件から149件に増加した。ひとつの症候群として長い間伝統的な行動研究が行われてきたダウン症候群でさえも、行動研究の数は1980年代の607論文から1990年代の1140論文までおよそ倍に増えている((Dykens & Hodapp, 2001)。

研究量の量が増えると共に、これらの症候群の大多数の行動面に関する知識も増加した。実際のところ、遺伝子起因に起因して精神遅滞を引き起こす症候群が特定の「行動表現型」を示すかどうかに関する調査に専念している研究者の前には手付かずの領域が広がっている。(Dykens, Hodapp, & Finucane, 2000; O'Brien & Yule, 1995)。この専門用語は様々な定義があるにもかかわらず、ほとんどの研究者たちは行動表現型には「ある症候群の患者は、その症候群をもっていない人に比べて特定の行動的あるいは発達的後遺症を有する確率や傾向が高まる」ということが含まれることに関して同意している(Dykens, 1995, p. 523)。この定義によれば、遺伝子に起因して精神遅滞を引き起こす特定の症候群の患者はその病因に関連する特定の行動パターンを示す可能性は高まる、しかし必ず怒るわけではない、ことに焦点があたっている。

本研究では、ダウン症候群、プラダー・ウィーリー症候群、ウィリアムズ症候群という3種類の遺伝病を対象に教育的観点から見た行動に関して親がどの程度知っているかを調査した。まず研究結果を提示するまえに、それぞれの症候群の行動に関して最近得られた知見を検討してみる。この証拠を背景とすることで、親が自分の子ども病因に関連する行動についてどの程度知っているかを評価することが可能になる。この研究の最終目的には、このような行動に関する知識を得ることが最終的には病因に適応したインターベンション(療育)方針につながる可能性も含まれており、これについては後に検討する。

伝子に起因して精神遅滞を引き起こす症候群の病因に関連する行動

(ダウン症候群とプラダー・ウィーリー症候群については省略)

3番目によく研究されているウィリアムズ症候群は7番染色体の微少欠失が原因である。この症候群の子どものは全般に「妖精様」と言われる特徴的な容貌を示し、心臓などに疾患がある(Pober & Dykens, 1996)。この子どもたちの95%という多数が聴覚過敏症すなわち音に対する過度の感じやすさを持っている (Van Borsel, Curfs, & Fryns, 1997)。

これらの健康上の問題点とは別に、最近ではこの子どもたちの大多数が示す興味深くかつ独特な認知言語プロフィールに注目が集まっている。ウィリアムズ症候群の子どもたちは言語能力に比較的強みがある。これらの子どもたちはさまざまな言語課題について暦年齢レベルと同じくらいの成績を示すと、長い間考えられていた(Bellugi, Wang, & Jemigan, 1994)。言語について年齢相応の成績を示すのはウィリアムズ症候群の子どもたちのほんの一部分に過ぎないことが判明した(Mervis, Morris, Bertrand, & Robinson, 1999)が、それでも、この子どもたちは比較的言語能力に強みがあるとともに、言語処理や音楽の分野でも才能がある(Lenhoff, 1998)。

その反面、ウィリアムズ症候群の子どもたちの多くはさまざまな視空間課題の成績が悪い。最近おこなわれたメルビスらの研究(1999)によれば、50人のウィリアムズ症候群の子どもたちの中で47人までが視空間課題を苦手とし、言語課題には比較的よい成績を収めている(e.g., vocabulary, grammar, short-term auditory memory; see also Udwin & Yule, 1991; Udwin, Yule, & Martin, 1987)。必ずしもすべてのウィリアムズ症候群の子どもたちにあてはまる分けではないが、大部分のこどもたちは言語能力に強く、視空間機能に弱点がある。

ウィリアムズ症候群の子どもたちはいろいろなタイプの不安や恐怖を示す。最近の研究ではウィリアムズ症候群の子どもたちから報告された恐怖を他の精神遅滞の子どもたちから報告されたそれらと比較した(Dykens, in press)。精神遅滞の子どもたちの大多数は2種類の恐怖だけを報告している。両親が病気になることと注射をされることである。対照的に、ウィリアムズ症候群の子どもたちのグループの半数以上からは41種類もの恐怖集められた。からかわれること(92%)、ひどい目に合わせること(85%)、他人といい争いになること(86%)などの対人関係に関するものも含まれる。他には肉体関するもの、注射をされる(90%)、火に包まれるあるいはやけどをする(82%)、蜂にさされる(79%)などがある。それ以外にも聴覚過敏や不器用さに関するもの(サイレンのような大きな音=87%:高い所から落ちる=79%:雷=78%)もある。ウィリアムズ症候群の子どもたち全員がこれらの恐怖の一部あるいはすべてを示すわけではないが、大多数は他の精神遅滞の子どもたちに比べて極端な恐怖を示すよう見える。

(以下省略)



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