(1998年11月)
Teaching Arithmetic to a Child with Williams Syndrome
Jeanne Dietsch
Heart to Heart Volume 15 Number 2 - September 1998 Page 6-7
イーサン( Ethan )と勉強を始めた昨年の晩秋の頃、8割くらいの確率で物体が3つ
あることを認識できており、6つくらいまではひとつひとつ数えあげることができました。
1+1=2は暗記しているので答えられましたが、2+1=3は確実には答えられません
でした。
私は、まず数えることから始めました。私が発見したことはウイリアムス症候群の子
供達にとって重要なことかもしれません。イーサンは「量の保存則」という根本的な概念
を理解していませんでした! 例えば、「4つの物体があったとして、その中のいくつか
の位置を変えたとしても、そこに物体が4つあることには変わりが無い」ということを理
解していませんでした。足し算が出来ず、物を数えることに混乱したりいらいらしたとし
ても不思議ではありませんでした。彼にとっては、量はいつも変化するものだったのです。
そこで、板で作られた四角いパネル4個から始めました。イーサンにその数を数える
ように言いました。次に、その中の一つをゆっくりと移動させ、そこに何個あるか聞きま
した。彼はまだ4つあると答えました。動かすパネルの数を増やしながらこの練習をくり
返し、最後にはすべてのパネルを動かしました。ある夜、彼は4つのパネルという量が変
わらないという概念に気が付きました。次の夜、パネルの数を変えながらこの練習を何度
も繰り返しました。確実になってきました。次のステップに進めるようになりました。
ドミノの形で数を表現する方法をイーサンに教え始めました。(“2”と“4”との
関係を強調するために、“3”はピラミッド型になっていることだけが違います)。パネ
ルを数えることに加えて、それをドミノと同じ形、同じ順序にならべる練習も始めました。
パネルを一つ加えるごとに形を変えていきます。
−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=− 数を表現するドミノの形 1 2 3 4 5 6 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○○○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○○○ ○ ○ 7 8 9 10 ○○ ○○ ○○ ○○ ○○○ ○○○ あるいは ○○ ○ ○○ ○○ ○○○ ○ ○○○ 5を2個 ○○○ ○○○ (イーサンは10については、両方の形を使う。1+9の形はイーサンが発見した。) −=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−この方法の理論的背景は階層化を学ぶことです。例えば、チェスの初心者は個々の駒の 動きを覚え、ポーンやナイトの動きについて考えます。中級者は、ドミノディフェンスや カタランオープニングのように個々の駒の動きをグループ化し一連の流れとして記憶しま す。グループ化した動きと相手の対応方法を記憶することで、駒の一つ一つやその動きだ けを考えている初心者に比べて高度に戦略的な戦法をとれます。同じように、イーサンも、 見るたびに毎回一つ一つを数えるという骨の折れる段階を卒業することで、次の足し算や 引き算の段階に進めるようになりました。
イーサンは変化しない数のパターンを見つけたことで、記憶の準備ができました。最
初の1〜2週間で、1・2・3・4と8を修得し、一ヶ月くらい(1週間に4回、それぞ
れ夜に一回10〜15分くらい)で10までの数の形すべてを覚えました。2乗の数であ
る“9”は簡単で、彼は“3”の2乗をすぐに理解しました。彼は自分で“8”を2つの
“4”のグループとして作り、その後“6”を“3”と間違って認識していましたがすぐ
に“3”+“3”と理解しました。“7”はもうちょっとで“8”という数字だと認識し
ました。“5”は“4”に余分のパネルがひとつ加わっているので、彼は4つのパネルの
角の上に残りのパネルを乗せることが好きでした。“9”にパネルを一つ加えて彼自身で
“10”の形作り上げたので私はとても喜びました。
数字一つ一つに性格を与えて数を覚えやすい形にするというテクニックは私自身が子
供の頃に使っていたものです。数や(文字としての数字)に個性を与えることで、イーサ
ンは数をより覚えやすくなりました。色々な数の関係を自分で作るように彼を励ましまし
た。
彼が数の形すべてを修得するのを待たずに、次の足し算の段階に進みました。イーサ
ンに関してすべての手順を順番にやっていたら、15才にならないと2年生の内容を修得
できないことになってしまいます。そのかわりに、10までの数字を認識できるようなっ
たら、次の足し算の勉強を始めました。ドミノの形を認識できるようになってから引き算
を始めました。
それぞれの勉強は、問題の数は少なくして、大きな数字で紙に問題を書くとう方法で
実施しました。問題を見たイーサンは、パネルを使って数字を構成し、足し算や引き算を
しました。今では彼はとても上手にこの方法を使いこなし、パネルをドミノの標準の形に
組み合わせて答えを表現します。たとえば、9枚のパネルから“8”を作る場合は、「8
枚よりたくさんパネルがありそうだね」と最初に彼にヒントを与えます。そのうちに、大き
な数を一人で作り上げることが出来るようになりました。答えが見つかった時には、必要
に応じて紙に書くように促します。
イーサンは足し算や引き算を行う時ほとんどの場合手を使わなければ出来ませんが、
1を足すことは暗算で出来るし、2+2や3+3のように同じ数字の足し算は暗記してい
ます。量を扱えるようになった現在のイーサンの能力と、4つの物の数が変わらないこと
を理解していなかった数ヶ月前との差は歴然としています。彼は、10個の“1”を表す
パネルと“10”を表す1個のパネルとを交換することも覚えました。(私たちは“10”
を表現するために大きな平たいパネルを使っています。) “10”と“1”を複数個組み
合わせて表現する数字を良く理解できるようになりました。例えば、“10”が一つと、
“1”が6個あれば、すぐさま“16”とわかります。彼が間違えて“oneteen”とか“fiveteen”
とか言ったとしてもすぐに怒らないで、「“oneteen”には別の言い方がなかったかな」と
言って考えさせたり、時には10から数字を数え上げさせたりして励ますようにしている。
一つの物体で複数の小さな物体と同じ量を表現できることを学んだお陰で、イーサン
は硬貨やお札の概念を把握できるようになりました。今では10ドル札と1ドル札ならお
金を数えられます。まだ時々ですが。
ある特定の数字から始めて簡単に数え上げられるようにもなりました。既に“6”の
グループが目の前に提示されていて、別のグループにあるパネルの数を「7、8、9…」
と数えることを喜んでやります。つまずくような時には、最初のグループを「1、2、3、…」
と素早く静かに数え上げ、を大きな声で「6」と言った後、「7、8、9…」と続けて言
います。この方法を使って、2こ飛び、5こ飛び、10こ飛びの数えかたも教えました。
しかし、今年もっともうれしかった出来事は先週起こりました。彼の祖母の家へ9日
間泊りに行く予定について話し合っていたときのことです。9日間の内、私は3日しか一
緒にいられませんでした。
私は「頭の中で考えてごらん。“9”は“3”の行が3列あるよね。その中から“3”
の行を1列だけ取り除いてごらん。いくつ残っているかな? 頭の中に形が見えるかい?」
と聞いてみました。
イーサンは私を見ると、ほとんど考えることなく、「ああ、わかるよ。6だね!」と
答えました。
「そうだ。学校の友達と同じように、パネルを使わなくても答えられたね!」と、私
は飛び上がらんばかりに言いました。
彼は、「うん。ぼくの頭は直ったよ。」と言いました。
勿論、イーサンの脳が直ったわけではないことは知っています。まだまだ前途多難で
す。しかし、イーサンが簡単な算数をマスターして、文章題で電卓を使って計算したり、
実社会の生活でそれを利用できるようになることは間違いありません。(彼が興味を持っ
ていること、つまり好きなおもちゃやキャンディーを題材にして文章題を作れば、うまく
いくでしょう)。
足し算や引き算を修得する前から、掛け算の勉強も少し始めていました。でも、掛け
算はパネルを使って四角や三角を作ることから自然と修得出来ていきました。
あなたが(あるいは、あなたの子供の先生が)この方法を試したなら、どのような成
果があったか知りたいと思います。
Jeanne Dietsch
idietsch@activmedia.com
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