今日は火災訓練があるの?
聴覚過敏症に起因する問題をコントロールする方法



Is there a fire drill today?

Managing problems related to Hyperacusis.
John E. Desrochers, Ph.D

Heart to Heart Volume 15 Number 2 - September 1998 Page 7-8

ウイリアムス症候群の子供の親や教師には、彼らの多くが持っている音に対する強い 感受性について改めて話す必要はないでしょう。色々な音の中でも特にミキサー・ベル・ 電気掃除機・換気扇・暖房機や冷房機の音は、彼らの嫌いな音です。音そのものに直接反 応をしめさない場合でも、ウイリアムスの子供達は、また起こるのではないかという不安 や、怖がっている音に関する話題への固執を示したり、次はいつ音がするのかと何度も尋 ねたりします。また音がするという可能性に固執しすぎて、その場でもっと重要で適切な 物事に集中できなくなります。

学校において共通して見られる問題の一つが火災報知器に関係しています。鳴りだし た報知器の音そのものが子供を混乱させることだけではなく、子供達の多くは、避難訓練 の心配、次は何時行われるかを考えることに多大な時間を費やし、本来なら授業や社会活 動に費やすべきエネルギーをこれらの心配に対応することに注ぎ込んでしまいます。

私の小学校にいる一人の子供に有効な対応方法を見つけました。特別教室の壁に偽物 の火災警報コントロールボックスを取り付け、このボックスを使って避難訓練システムを オンにしたりオフにしたりできるとその子供に説明しました。その金属製のボックスは真 っ赤に塗られており、大きさは6インチx8インチくらいで、横に大きなハンドルがつい ています。その箱には「ハンドルを下げれば火災警報を止められる」と書いてあります。 通常ハンドルは "Off" の位置にあり、避難訓練開始予定の数分前に "On" の位置にするよ うに生徒に指示します。避難訓練が終わったら、また "Off" の位置にします。生徒の立場 から見ると、避難訓練がいつ始まり、いつなら起こらないかということをコントロールし ています。生徒がハンドルを "Off" の位置にすれば、避難訓練が終了し、次の避難訓練の 時にまたシステムを動かさない限り、訓練の心配をすることはないという確信が持てます。 コントロールボックスが導入されてからは、避難訓練はこの生徒にとって心配の種になる ことも、集中力の阻害要因になることも、次にいつ訓練があるかを頻繁に聞く対象になる こともなくなりました。すでに1年以上この方法がうまく機能しています。勿論ひとりひ とり子供は違っており、すべての子供にこの方法が適用できるわけはないことを覚えてお くことは重要ですが、一方でこの方法は数多くの生徒達の役に立つ可能性があります。子 供の不安が学業成績を低下させている場合などは、特にやってみる価値は十分にあります。 この手順には明らかに生徒に対するある種の「ごまかし」があるため、親・教師・その他 の関係者が、生徒にとっての恩恵と道徳的考察の双方を良く考えて、この方法をとること に賛同しておく必要があります。

この種の問題への対応策を作る時に考えておくべき重要なことは、聴覚過敏症そのも のが問題ではないという見方をとることです。むしろ、最終的な行動、たとえば強迫的衝 動的行動こそが問題であるということから始めるべきです。この行動には子供にとってな んらかの意味があり、通常は怖い出来事に対して何らかの影響を及ぼすことで不安感を紛 らわせていることを認識しなければいけません。(例えば、何時終わるのかを聞き続ける ことで、避難訓練に巻き込まれることを少しでも防げるかもしれない)。次に、その対応 策を打つことで、その子供がなぜ強迫的衝動的行動をとらなくてよくなるかを考えてみま しょう。(火災警報コントロールボックスをオフにする)。専門的に言うと、この思考過 程は一般に「機能的行動評価(functional behavioral assessment)」と呼ばれており、 学校にいる心理学専門家には問題行動概念への対処法方途として良く知られています。 IDEAの新しい通達はこの手法の有用性を認めており、子供の問題行動が学校生活の妨げに なっている場合には積極的に利用するように勧めている。

私たちは皆自分の回りの環境をコントロールできていると感じることが必要です。度 重なる質問とか、気に入った話題にこだわるという強迫的衝動的行動が、不安感やその状 況そのものを子供がコントロールする手段として使われることから、しばしば問題が発生 します。その行動は状況をある程度コントロールするための手段という概念として認識で きます。子供が問題行動から得ている何らかの機能を、その子供や環境に対して提供でき るように対応策は作られなければいけません。たいていの場合、環境に手を加えることが 最も意味があり、最も効果的です。

コントロールするといっても、その子供自身が警報の鳴らすことを完全にコントロー ルすることは必要ありません。どのくらいの頻度で警報が鳴るか、音の大きさや高さ、警 報がどれほど鳴り続けるか、事前の連絡と警報の間の時間はどれくらいか、どんな音か(例 えばベルの種類等)、何処で音がなるか、音が鳴る時にその子供はどこにいるか、等コン トロールはある程度のレベルでかまいません。これらの状態をコントロールしていてもそ の子供のストレスを完全に取り除けないこともありますが、恐れている音の何をコントロ ールするかを子供自身に選ばせることで、場合によってはある程度の効果が期待できます。

音に対するコントロールを子供に与える別の方法としては、音そのものに子供を関ら せる方法があります。その子供に音を出させたり、音を出すまねをさせることで、音がで るままになっているよりも、よりコントロールしているという実感があります。音を出す 時に子供に役割を与えたり、音そのものに関係する仕事をさせることで、間接的にコント ロールしているというより強い感覚を与えることができ、同時に問題行動を起す機会を与 えないことにもつながります。ストレスを与える音が聞こえている時にリラックスする方 法を子供に教えることや、リラクゼーショントレーニングプログラムの一部として特定の 音に注意を向けないように指導することは、まだ十分に試みられていません。

どの子供も同じではなく、これらの手法が子供に会っているかどうかを知る方法は時 実際に試してみて結果を調べるしかないことがほとんどです。手法によっては子供をまっ たく救うことができないこともあります。問題が解決されないとしても、管理下におかれ ることは必要です。子供が自分の環境をコントロールできていると感じているレベル上げ ていくことで、その子供の不安感は下がり、よりたくさんのエネルギーを学習や生活へ使 うことが可能になります。



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