Daniel J. Levitin:Interval Research Corporation, Palo Alto, CA USA
Ursula Bellugi:The Salk Institute for Biological Sciences, La Jolla, CA USA
数々の逸話から、ウイリアムス症候群の人達は音楽的能力も持っていることが指摘
されている。しかし、これまではウイリアムス症候群の人達の音楽的能力に関する科学的
な調査研究はほとんど行われていない。
歴史的背景から、実験心理学では、知性はどちらかというと画一的なもの、精神発
達遅滞は程度の差はあるが複数の認知機能ドメインに同じ様な障害があるもの、というよ
うにとらえていた。個別に上手に抽出された典型的な人達の集団に対する研究によって、
特定の認知機能の側面に対する研究が可能になった。これらの人達に対する研究から、特
定の精神機能のモジュール性に関する議論に終止符を打つ証拠が見つけられたり、認知機
能を支えている神経構造を理解するための手掛かりが得られる。Bellugi はウイリアムス
症候群に関して、一貫した系統的な研究を続けることで、前述の課題に対する我々の理解
を深めるよう努力している(e.g., Bellugi et al., 1996; Karmiloff-Smith, Klima, Bellugi,
Grant & Baron-Cohen, 1995)。
この事前報告書では、1996年にMassachusetts 州 Tanglewood に近い Lenox の
Belvoir Terrace で開催された、ウイリアムス症候群音楽芸術キャンプに参加したウイリ
アムス症候群の人達について、質的(n=40) な面と量的な面の (n=10) 両面から研究を行お
うとしている。
質的な観察
ウイリアムス症候群の人達で最も目を引くことは、手と目の協調や空間視能力を必
要とするような課題を実行することが困難であるということである。例えば、今回の被験
者の多くは、歩くのがぎこちなかったり、食事の道具も使いづらそうである。しかし、階
段を歩いたり、食べ物を切ったりするよりはるかに難しい指使いを必要とするフレーズを、
例えばクラリネット・ピアノ・ドラム・ギター等の使い慣れた楽器を使って演奏すること
ができる。彼らの演奏には、技術的に明らかな欠陥があるが、演奏に込められている内面
的な「魂」によって、十分に埋め合わされている。
被験者の一人は、創造力に富んだソングライターである。実験者は彼の能力を調べ
るために、朝食のシリアル、それも「ケロッグのライスクリスピー」の曲を書いてくれる
ように頼んだ。この主題は、実験期間を通じてまったく余分なことであった。驚いたこと
に、彼は「ライスクリスピー」の曲を自発的に完成させた。それも、コーラスと韻を踏ん
だ叙情詩を付けてである。さらに観察をしなければ、この新しい曲が彼が既に書いた他の
曲と違っているかどうかは明確ではないが、彼のレパートリーをちょっと見ただけで、作
曲スタイルと節回しの違いが見られる。
著者の一人(UB)の以前の研究によれば、ウイリアムス症候群の人達は、文字が書か
れていない絵本をもとに物語を作る時に、超言語的な手段を流用している (Reilly et al.,
1990) 。特定のウイリアムス症候群の人達は、効果的であると同時に聞き手の背景に依存
している効果的な作詞法や、お話の雰囲気を高めるような単語を使う。このことは、ウイ
リアムス症候群の人達を、社会認知という「ものさし」で見た場合の最先端に位置付けて
いる。「ものさし」の最下端には自閉症の人達が位置付けられる。
我々が面接した両親たち全員が、子供たちはキャンプにいない時でも同じように音 楽と密接なつながりを持っていると報告している。両親たちの多くは、子供たちはポピュ ラー音楽のレコードを通して、何千とは言わないまでも数百曲の歌を知っていると報告し ている。これはアメリカ人のティーンエイジャーでは珍しいことではないが、ウイリアム ス症候群の人たちの認知領域の障害との対比において特筆されるべきことである。何組か の両親は、音の聞き分けに関して、子供たちが非凡な才能を持っているようだと述べてい る。報告によれば、ある子どもは、メーカやモデルが違う10種類以上の掃除機をモータ ー音の違いだけで区別できる。別の子どもは、自宅の前のカーブを曲がる車のエンジン音 を聞いただけで何十種類以上の車種を言い当てられる。これらの報告は確認されているわ けではないが、「絶対音階」と同種の能力が備わっている可能性を示唆している。
明示的に再現するように言わなくても、被験者達はごく自然に拍子を合わせ完璧な
音符の長さで手を叩き返す。つまり、被験者達は例示されたリズムを、もっと長い音楽の
一部として解釈している。被験者たちは、下敷きとなっている拍子とテンポを感じ、実験
者が演奏した「最初の小節」に反応して、その「次の小節」の一拍目(時には弱起)に間
に合うように演奏しているように見える。さらに、被験者は、スイングのリズム・連続す
る八分音符・三連音符・16分音符・シンコペーション等を含むリズムの変化に追随する
注目すべき能力を発揮した。
テストケースのおよそ3分の2で、被験者達はリズムを正しく反復演奏した(複雑
さには関係がない)。ほぼ3分の1の試行で間違いがあったが、必ずしもリズムが難しいか
ら間違った反応をしているわけではないので、提示されたリズムの複雑さが原因というよ
りも、集中力不足が間違いの原因であろうと考えられる。最も興味深い観察は、ウイリア
ムス症候群の被験者が間違ったリズムで反応したケースの約半分で、被験者達は、提示さ
れたリズムを最も「完成されたリズム」と考えられるように変更しているということであ
る。言い換えると、これらのケースで被験者が再現したパターンは、「呼びかけと反応:
call-and-response」というリズムペアの一部と考えられる。これは、ジャズミュージシャ
ン達の「一小節のフレーズの掛け合い」と同じ物である。別の言い方をすれば、被験者達
は、ただ単に実験者のまねをしているというよりも、反応を通じて音楽を作りあげている
ように見える。プロの音楽家で、このデータや仮説を知らない別々の二人のデータ記録者
が、この「リズムを完成」するという効果を認めている。
我々は、パロアルト市で音楽や音楽レッスンに実際に参加していて、精神年齢と性 別が一致する5才〜7才の比較対照群を用意した。この対照群にリズムテストを行った所、 ウイリアムス症候群の被験者の場合と大差ない結果が得られた。しかし、反応を分析する と「完成されたリズム」をつくるという効果が見られないという特徴があった。
Bihrle, A. M., Bellugi, U., Delis, D., & Marks, S. (1989). Seeing either the forest
or the trees: Dissociation in visuospatial processing. Brain and Cognition, 11, 37-49.
Black, J. A., & Bonham-Carter, R. E. (1963). Association between aortic stenosis and
facies of severe infantile hypercalcemia. Lancet, 11, 745-749.
Karmiloff-Smith, A., Klima, E. S., Bellugi, U., Grant, J., & Baron-Cohen, S. (1995).
Is there a social module? Language, face processing, and theory of mind in subjects
with Williams syndrome. Journal of Cognitive Neuroscience, 7(2), 196-208.
Reilly, J., Klima, E. S., & Bellugi, U. (1990). Once more with feeling:Affect and
language in atypical populations. Development and Psychopathology. 2, 367-391.