１９９８年７月１６日
マウラ・レーナー著
ミネアポリス−セント・ポール市 スター トリビューン祇

ローリー・スウィージ(Lori Sweazy)は自分の息子のアレク(Alec)がめずらしい病気だ とわかる以前に、息子の音楽的才能に気づいていた。ミネソタ州ミネトンカ(the Minnetonka)に住むこの母親は、息子が３ヶ月の時にピアノで弾いた音程をまねることに偶 然気がついた。もう一度弾くと、息子はまた合わせて見せた。「背筋がぞくっとしました。」 と彼女は言った。

１３年後の現在、アレクは誰から見ても人並みはずれたピアニストになっている。彼 はラフマニノフを弾きこなすが、楽譜は読めない。

彼の才能はウィリアムズ症候群と呼ばれる風変わりな希少遺伝子疾患がもたらしたと 信じている人達がいる。この病気は、低い知能指数・学習障害・心臓病のような心の痛む 症状と共に、外交的な性格・言語や音楽に関する才能という喜ばしい特徴を併せ持つ。

「彼らは、私達がようやく解き明かし始めた音楽的知性を持っています」と、カリフ ォルニアに住む研究者のハワード・レンホフ（Howard Lenhoff）が言った。彼の娘のグロ リア（Gloria）は足し算がほとんど出来ないが、２５ヶ国語で歌える。レンホフは言う。「彼 らの多くは一ドルからおつりを計算できませんが、彼らの中に受賞者がいることは驚くべ きことです。」

ウィリアムズ症候群の人は、音楽は演奏できるが世間から引きこもっている自閉症の 子供達とは違っている。実際、ウィリアムズ症候群の犠牲者達は社会環境にうまく適合し ている。

２万回の出産に１回の割合で発生するウィリアムズ症候群の子供達の両親は、自分の 子供が特別な音楽性癖を持っているのではという疑いを長い間抱いていた。しかし、彼ら の訴えを裏付ける科学的証拠はほとんど無かった。ここ数年で科学者達は、ウィリアムズ の子供達の音楽やリズム、歌、ダンス、和音に対する反応を研究し始めた。これまでのと ころ研究者達は、全員ではないが多くの子供が、顕在化していなくても音楽に対する特別 のきずなを持っていることを見つけた。

アレクは簡単なメロディならば一度聞けば暗譜で演奏できる。また、ラフマニノフの 曲を数ヶ月間練習すれば、知らず知らずのうちに調を変えたり速さや雰囲気を突然変える ことができる。「彼の音楽の解釈方法は特別です」と、彼のピアノ教師のジョアン・スカリ ーは言う。彼はミネアポリスの彼女の家でフレデリック・バーミュラー（Friedrich Burmuller）作曲の"L'Orage" (嵐)のリハーサルをした。もともとムードのある曲だが、彼 が弾くとさらに心引かれる。

地域の音楽コンクールで優勝した後、ミネソタ州ウィルマー（Willmar）で開催された 独奏会で演奏したアレクは、明らかに皆の注目を集める事が気に入っている。彼の音楽に 間する将来に何か考えがあるかも知れないが、まだ明らかではない。彼の人生の目的は？ 「電車の運転士になることかな？ あるいは、ピザやさんの店主かも」と彼が言う。

奇妙な症状の組み合わせ

ウィリアムズ症候群は７番染色体から遺伝子あるいは遺伝物質が欠落している事が原 因の一つとして発生し、奇妙な症状の組み合わせを引き起こしていると、科学者達は考え ている。アレクのようにウィリアムズの人々は、上向きの鼻・はれぼったい目・幅広い口 と小さな顎という目に見える一連の「妖精のような」容貌をしている。また彼らは様々な 発達障害や健康問題を持つことが多い。６０から７０レベルの知能指数・腎臓障害・ヘル ニアや心臓・血管の障害などである。しかし、音楽的ミステリーを解き明かす鍵は聴覚に 潜んでいる。すなわち、特定の周波数や雑音レベルに対する過度の感受性である。「恐らく この感受性があるおかげで、我々には聞きとれないリズムを聞く事ができるのでしょう」 と、ウィリアムズ症候群協会（the Williams Syndrome Association）の事務局長のテリ−・ モンケイバ（Terry Monkaba）、ミシガン州トロイ市（Troy）在住は言った。

生科学者のレンホフは、娘のグロリアやアレク・スウィージは絶対音階があることを 発見した。彼らはたとえ機械の雑音であろうとその音の音程がわかる。しかし、アレクの 母のロリーはプロのバイオリニストなので、才能が遺伝しただけなのかもしれない。

その通り、とレンホフが言った。今の所ウィリアムズの子供達が産まれつき音楽的才 能を持っているという証拠は何も無い。