Williams Syndrome患児のための音楽・芸術プログラム
研究課題:14658067
平成14年度 科学研究費補助金 萌芽研究 研究成果報告書
平成15年5月
研究代表者 根津 知佳子
三重大学教育学部助教授
【研究の背景】
Williams Syndrome(ウィリアムズ症候群:以下、WSとする)は、1961年に発見さんれた第7番染色体の遺伝子が欠損している疾患である。人口20,000人あたり1名の発見率で、医学的・発達的な問題を抱えて成長するものの、高い音楽的能力を持つといわれている。また、“カクテルパーティマナー”と呼ばれるほがらかで明るいWS特有の社交性をもつ。
WSに関する研究は、小児科学・循環器内科学・免疫学を中心に進められており、1990年以降、音楽の認知に関する研究も進められている。しかし、研究がWS自身や家族の生活に関連なく実施される傾向が強く、WSひとりひとりの教育や生活に焦点をあてた実践研究は内外ともに未開拓といっても過言ではない。筆者は、WSとの関わりや家族との面談を通して、「家族や関係者が求めているのは、WSの“可能性”や表現行為の“実像”を知ることであり、従来の実験研究からはそれらが伝わりにくい」という問題を感じてきた。そこで本研究では先行研究を踏襲しつつ、同時に教育・療育活動も展開するという“臨床性”に力点を置いた。
ところで、我が国における音楽と医療領域の連携は、精神科領域や心療内科領域が中心となっているが、本研究は小児科学・循環器内科学・免疫学等にまたがることから、“科学と芸術の関連”についても多くの示唆を得るものと考える。また、教育・音楽・医学・福祉の領域にまたがる複合領域のものであり、基礎的な研究から進める必要があったため、“萌芽研究”として申請した。
【研究の目的】
米国では、1997年よりWSを対象とした独自の“音楽プログラム”や“音楽キャンプ”が実施されており、日本でも家族や医師を中心にこのようなプログラムや開発を望む声が高まっていた。このようなWSを対象とした“プログラム(キャンプ)”は、大規模な米国を除くと、スペイン、アイルランド等数ヶ国のみに存在するものの、それらは必ずしも体系的なプログラムではなく、“個の表現行為を重視したプログラム”の研究は進んでいないといえよう。5つのサポート団体が存在するわが国であっても、理論的な背景に基いた教育・療育的活動が発展しているとは言いがたい状況である。
カリフォルニア大学のDr.Lenhoffらを中心に発展した米国のキャンプがサポート団体による“音楽教育”であるのに対して、本研究は“心理臨床的(地域援助的)な音楽教育の継続”に力点をおいている。これはWSの“個”を重視しながら、WSという“属性”を理解することを目指すものである。
そこで、平成14年度は、WSの医学的・心理学的特徴に関する基礎研究をし、その結果を基盤として『音楽・芸術プログラム』を開発することを目的とした。平行してネットワークをつくり、日本におけるWSの調査を行い、“プログラム(キャンプ)”を実施するうえでの準備を整え、第1回本プログラムを実施するところまでを期間内に進めることとした。
(2003年7月)
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