とても特別な脳



WSFのホームページに紹介されていました。ウィリアムズ症候群を取り上げた米国CBSの人気番組(60 Minutes II:2004年1月7日放送)のスクリプトです。

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A Very Special Brain

Jan. 7, 2004 -- 60 Minutes II -- CBSNEWS.COM

最も複雑な臓器である脳はこれまでの予想以上に様々な方法で我々自身を規定している脳の中には35,000個以上の遺伝子があり、その中の数個が失われただけで破滅的にも魅惑的にもなる。

ウィリアムズ症候群は発生頻度が低い先天的な病気であり、およそ20個の遺伝子が欠けている。6年前に特派員のモーレイ・セイファー(Morley Safer)がウィリアムズ症候群と診断された人たちについての報告を行った。彼らの物語はとても魅力的であり、「60 Minutes II」でも彼らのその後についてテーマとして取り上げることにした。

まず1997年に放送された初代「60 Minutes」の番組を振り返ってみよう。



グロリア・レンホフ(Gloria Lenhoff)は1000曲以上の歌を歌えるが、5足す4の計算はできない。

マイケル・ウィリアムズ(Michael Williams)はほとんどな曲でも弾けるが、一歩家を出ると必ず迷子になる。

メーガン・フィン(Meghan Finn)は大学で音楽を学んでいるが、右と左がわからない。

「60 Minutes」は、マサチュセッツ州で行われた音楽キャンプでこれらの人々、すなわち難解な障害と同時に音楽への深い情熱を持った人々を取材した。彼らの多くは妖精に似たちょっと風変わりな特徴がある。平均的な知能指数は60代だが、「カクテルパーティ的な性格」と呼ばれるトークショーのホスト役を務められるような社会性がある。

初めて彼らに会った人は彼らが障害者であるというイメージがすぐに消えうせ、彼らの友好的かつ開放的な性格に圧倒される。

「音楽は私の人生の大きな部分を占めているの。私にとって音楽はスープのような物なのよ。音楽を飲みこむ。とてもあたたかい。だからスープなの。とても美味しいわ」とメーガンは言う。

グロリアは25ヶ国語で歌うことができる。「マケドニア語、韓国語、イディッシュ語で歌えるわ。どれでもどうぞ。」

ウィリアムズ症候群の人達に共通的に見られる特徴のひとつに、聴覚がとても敏感なことが挙げられる。そのレベルはすごい。ささやき声までも聞き取れる。

しかし敏感過ぎることが災いして、鋭敏な聴覚が大きな雑音に対する拒否的な反応につながることがある。例えば、メーガンは大砲のような雷鳴を聞くと、「隣の家に大砲の弾が落ちたようなの。その音が聞こえると激しく泣き出してしまうの。」

普段彼らはこれまでに出会ったなかで最も幸せな人々だと思える。笑顔を絶やさない。しかし、ほんとうに彼らは普段幸せなのだろうか?

「そうだよ」とボブ(Bob)は言う。「私も同じだ。」とジェイソン・デニス(Jason Dennis)が付け加える。



マイケル・ウィリアムズはこれまでずっと自分が回りの人と違っていることを知っていたが、去年初めて自分の症状に名前がついていることを知った。音楽キャンプに参加したときに初めて自分と同じような人に出会った。

「なんだか、自分には合っているような気がしています」とマイケルが語る。彼はピアノに向かっているときが一番落ちつく。しかし、彼がまだ小さかった時、両親はこの複雑な楽器を彼が弾きこなせるようなるとは夢にも思わなかった。

「兄弟にもピアノのレッスンを受けさせました。彼も、私たちも、彼がピアノを弾けるとは思いませんでした。兄弟が遊びに出かけた後も、彼は何時間も、何日も、ピアノの前にずっと座っていました。そしてある日突然曲を弾けるようになりました」と、フランク・ウィリアムズ(Frank Williams)が言う。フランクは、産まれた息子が明らかに普通ではないことがわかった時に荒れたことを認めている。

しかしそれも随分前に変った。「神の祝福でした」と、マイケルの父親は言う。

「ウィリアムズ症候群の人を研究できる機会があることはとてもすばらしいことです。そこには脳の発達をのぞき見られる窓があります」と、エール大学医学部(Yale University School of Medicine)でウィリアムズ症候群クリニックを開催しているバーバラ・ポーバー(Dr. Barbara Pober)博士が言う。「私たちはウィリアムズ症候群の人たちから、障害を持つことの意味をとてもたくさん学びました。」

そして他人から避けられることや孤立することがどういうことかも。昨年、メーガンは大学の学生寮に住むことに挑戦した。母親のリズ・コステロによれば、友達も何人かできたが、つらい日々だったようである。「娘は融け込めませんでした。融け込めないことを理解してもいました。それがつらいことなのです。」



前の番組が放送されて以来、我々はウィリアムズ症候群についてさらに多くのことを学んだ。この病気を持っている人のほとんどは、音楽を聴く場合普通の人とは違った部分の脳を使うだけでななく、我々に比べてその部分の使用量も多い。さらに彼らは感情ともつながりがある。

マイケル・ウィリアムズは今でもピアノに向かっているときがもっとも落ちつく。「60 Minutes II」は9月にニューヨーク州北部にある老人ホームで開催された彼のコンサートを取材した。

前回の番組取材の際、マサチューセッツ州で開催された音楽キャンプで出会ったウィリアムズ症候群の友人たちに会いに行った。成長して17歳になったベン(Ben)はドラムを演奏する。グロリアはCDを2枚出し、今では30ヶ国語で歌うことができる。ジェイソンはドラムを演奏し、パートタイムでビデオ店に勤めている。

また、メーガンはカリフォルニアに住んでいて、地域の大学の普通クラスに通い、彼女をからかう人たちを無視する方法を学んでいる。「私は押しのけられたり、遠ざけられたりなどしないわ。だって、私を無視することはできないからよ。私は強い女性なのよ」と、彼女は言う。

さらに、新しいメンバーが2人加わった。22歳のトーリ(Tori)と18歳のアレック(Alec)で、二人ともピアノを弾き作曲もする。アレックの母親のローリ・スウィージ(Lori Swaezey)が息子を隣に座らせてピアノでジャズを演奏したのはアレックが生後2ヶ月になったばかりのときだった。

「曲の中のある全音符の部分を演奏すると、息子は音程を合わせて歌いました。『まあ!』と彼を見ると、とてもうれしそうに笑って足でけっていました」と、スウィージは振り返る。「信じられませんでした。この時、音楽とのちょっと変ったつながりがあることがわかりました。」



20個の遺伝子が失われとことでウィリアムズ症候群の人々の人生が破滅的な影響を受けていることは事実だが、一方で彼らの間にまぎれもない絆が作られているようにも思える。

「今私の回りにいるような人たちと一緒にいるととても落ち着くよ」とトーリは言う。「安らぎを感じるよ。ぼくに向かって誰一人として否定的なことを言わないもの。とても幸せな気分だよ」

彼らは大変な逆境にあっても前向きである。まだ長いとはいえないベンの人生において、彼は心臓や脊髄を治療するためにすでに5回もの大手術を受けた。症状はウィリアムズ症候群の人たちに共通したものである。母親であるテリー・モンケイバ(Terry Monkaba)は、幼い息子のつらい人生を通じて音楽が息子の心を捉えたとセイファーに語った。

「まだ小さかった時、息子は音楽を聴くと静かになりました。そして歩ける様になったのも音楽のお蔭です。歩けなかったのに、4歳半になって音楽に合わせて行進できるようになりました」と、モンケイバは語る。彼女は家族がひとつにまとまるのは難しかったとも言う。「ベンジャミン(Benjamin)には2歳年下の弟がいますが、彼は普通の兄がいないことに長い間腹を立てていました。このようなことが家族の人生を難しいくしています。」

前回我々がポーバー博士に会ったとき、彼女はエール大学でウィリアムズ症候群クリニックを運営していた。6月には新たな遺伝子に関する研究を行うためにそこを離れたが、彼女は今でもウィリアムズ症候群と強く結びついている。最初の番組が放送された頃に始まったヒトゲノムプロジェクトは完了した。遺伝子の専門家はウィリアムズ症候群の人から20個の遺伝子が共通的に決失していることを知っている。そしてウィリアムズ症候群の人たちがなぜ音楽にそれほどまでにのめりこむのかについても理解できたと考えている。

「つい最近行われた研究で、ウィリアムズ症候群の人と対照群の人が音楽を聞いているときに、脳のどの部分が活動しているかを比較調査しました」と、ポーバーが語る。「ウィリアムズ症候群の人たちの脳で最もよく活動する領域は私やあなたの活動部分とは異なります。そして、全体的な活動レベルも高いです。この基本的な差異によってウィリアムズ症候群の人たちが音楽ととても強く結びついていることを説明できる可能性があります。音楽への反応方法が異なっているように思えます。」



ウィリアムズ症候群の人たちにとって最もつらいことは、自分が病気であることを知っていることである。「彼らは自分が他人と異なっていることを理解するだけの知能があります。そして、そのことが青年や成人にとって最もつらいことなのです」と、ポーバーは言う。

メーガンの場合だと、母親が言うには、メーガンは自分が子どもを持てないことを受け入れはいるが、将来一人ぼっちになることをとても心配しているそうである。

「娘は数年前、私に次のように言いました。『ねえ、お母さん、私も年をとったときにいっしょにいられる人が欲しいの。誰かいい人を見つけてくれない?』」と、リズ・コステロ(Liz Costello)が語る。「そして今、娘には結婚の約束をしているウィリアムズ症候群の友達がいます。娘は言います。『私にはとても幸せな部分があるわ。でもそれ以外はとても悲しいの。だって、子どもが持てないから。でもね、将来がどうなるかは誰にもわからないのよね。誰にも。』」

昨年の夏、メーガンは母親に見守られながら一枚のオリジナルCDに歌を録音した。「なぜこのCD録音のような経験をしているのだろうか、と時々自問してみます。不思議です。ただ単に不思議です」と、メーガンの母は言う。

「娘は障害者です。でもサバンではありません。娘にはできないこと、できるとは思えないことがたくさんあります。でも、娘が歌い人々がその歌をよろこんで聞いてくれることを考えると、娘には何か別のものがあると思えます。」

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