ウィリアムズ症候群児の音楽的才能と音楽療法
聖徳大学音楽文化学科音楽療法コースで学ばれた佐々木祥子さんが書かれた卒論の要旨です。佐々木さんのご好意でウィリアムズノートに収録させていただきました。
(2005年5月)
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【卒業論文要旨】
音楽文化学科 音楽療法コース
氏名:佐々木 祥子
指導教員:村井 満恵
〈目的と方法〉
ウィリアムズ症候群の人々には、精神遅滞を伴った認知障害や運動機能障害があるにもかかわらず、音楽に対して特別な才能があるという。そこで私は、なぜそのような才能がウィリアムズ症候群の人にはあるのか、また彼らは音楽をどのように感じているのか知りたいと思うようになった。そしてそれには一体どのような背景があるのか調べることで、この特殊な能力を持った発達障害であるウィリアムズ症候群の理解に役立てられると思うのである。また、彼らの音楽療法について考えることで、音楽療法の可能性がさらに広がるのではないだろうか。
本論文の研究方法は、主に文献研究と、ウィリアムズ症候群児の行動特徴や音楽的才能といった事例研究である。
〈研究内容〉
ウィリアムズ症候群を理解するためには、まず発達障害を知ることが必要だと思い、第1章では最初に発達障害の概念や要因、種類について調べた。発達障害は、発達期に障害が出現した者を示し、その要因としては遺伝要因や環境要因などがある。そしてウィリアムズ症候群の発症原因は、遺伝要因のうちの多因子遺伝疾患であることが分かった。
発達障害の次に、ウィリアムズ症候群のさらに詳しい発症原因について調べ、また彼らの身体的特徴と行動的特徴や、知的能力について調べた。発症原因については、ウィリアムズ症候群は多因子遺伝疾患であることは先に述べたが、そのなかでも第7染色体に含まれる遺伝子の一部欠失によるものであることが分かった。そしてその原因により、ウィリアムズ症候群は大動脈弁上部狭窄症を伴いやすいようである。そして身体的特徴としては、ウィリアムズ症候群は共通して妖精顔貌といわれる独特な容貌をしており、協調運動や微細協調運動に障害があることが分かった。また、行動的特徴では言語表出は特に優れているが、言語理解は劣っているということや、非常に社交的であるということ、視知覚認知に障害があり、聴覚過敏症でもあるということが分かった。さらに知的能力は軽度から中度の精神遅滞と診断されることが分かった。
第2章では、ウィリアムズ症候群児の治療教育についてどのようなものが有効であるのかを調べた。まず発達障害としてのウィリアムズ症候群には、行動療法が有効であることが分かった。これはトイレや食事、着衣などの基礎的な生活技術と、発語、言語あるいは非言語のコミュニケーション技術といった行動を対象に、オペラント技法を用いて訓練するもので、これらの行動を改善することに効果があることが分かった。また、ウィリアムズ症候群には不安が強く心配性であるという特徴があり、これを改善するためには脱感作法が有効であることも分かった。さらに、ウィリアムズ症候群児の視知覚認知の障害や運動機能の障害を維持、回復させるために作業療法が有効であることも、ウィリアムズ症候群の5歳女児に対する作業療法の症例によって知ることができた。
第3章では、事例をもとにウィリアムズ症候群児の音楽的才能について調べた。ウィリアムズ症候群の音楽の才能については、解剖学的な研究もされており、これまでに調べられた数人のウィリアムズ症候群の脳は、言語や音楽的感覚に関係があるとされている部分が肥大していたということが分かった。そして実際の音楽能力については、カリフォルニア大学のレンホッフ教授が、絶対音感を調べるテストをウィリアムズ症候群である5人に行った結果、5人全員が絶対音感を持っていることが判明した。また、彼らは一般の人よりも絶対音感を獲得できる期間が長く、それは無制限である可能性があることも分かった。しかしこれは、テストを行ったのがたった5人であり、ウィリアムズ症候群の人全員にそのような能力があるとはいえないようである。また、ウィリアムズ症候群児が聴覚過敏症であるということは先に述べたが、これは音楽に対してもいえるようで、彼らはその敏感な聴力を生かして音楽を耳から記憶し、時間が経ってからも歌やピアノなどでその音楽を再生することができるようである。その他の能力としては、和声的にも問題なく作曲することや、優れたリズム感を持つことが分かった。
第4章では、アメリカで行われているウィリアムズ症候群のための音楽芸術キャンプについても含め、ウィリアムズ症候群の音楽療法に関して調べた。まず音楽芸術キャンプとは、ウィリアムズ症候群の人たちが音楽、絵、ダンス、水泳、焼き物などの指導を受けることができ、彼らの才能を見つけ、伸ばすことが目的のキャンプである。また、それが彼らにとって大きな自信につながっていることが分かった。次に、ウィリアムズ症候群児に対して行われている音楽療法の症例をもとに、その有効性を検討した。ウィリアムズ症候群児にとって、興味のある楽器を習うことだけではなく、音楽療法として組み立てられたプログラムを行うことも、行動の改善、言語や運動機能の能力の発達に役立てられることが分かった。
〈考察〉
第5章の考察として、これまでウィリアムズ症候群に関連することを様々な角度から調べ、その発症原因や症状などについて知ることができた。
ウィリアムズ症候群児は他の発達障害児と比べて、音楽に対する感受性が強く、特殊な能力を発揮することが多い。それは、彼らが周囲のサポートにより自身の才能を引き出され、“自信”と“居場所”を得ることができているといえる。そして、そのサポートこそが彼らの心理的な治療につながっており、他のすべての障害児にとっても、同様なサポートと治療が最も大切なことであると考えられる。
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