Williams Syndromeの表現行為と感性
根津 知佳子(三重大学教育学部)
第40回日本芸術療法学会(2008年9月20日、21日)
1.はじめに
Williams Syndromeは、第7染色体の微小欠失による突発的な遺伝子疾患であり、10000〜20000人に一人の発症率と言われている。第39回大会で報告したように、医学領域におけるWilliams Syndromeの音楽能力に関する研究報告は多い。演者らは、Williams Syndromeの音楽的才能に着目した米国の芸術キャンプ(2002-2008)やアイルランドのキャンプ(2007-2008)を参考にしつつ、日本の文化や実情に即した“芸術プログラム(2002-2008)”の在り方を模索してきた。これらの実践を通して、カクテルパーティーマナーと関連した豊かな表出性および共感性をWilliams Syndromeの表現行為の特徴として捉えてきた。換言するならば、音楽への“親和性”が高いといえる。
本研究では、Williams Syndromeが空間的認知に課題を抱えながらも、音楽的空間での“間合い感覚”に敏感であることを“感性”という視座で論じるものである。
2.Williams Syndromeの表現行為
言語によるやりとりは、相手の言葉を受けとめ、聞き終わってから話し出すというルールに基づいて行われるが、“音楽的対話”は、相手の表現を受け止めると同時に、自らも表現するという構造をもつ。本研究は、ヒトに備わっている高等な能力である言語習得の基盤が“音楽的対話”に関わる“音楽知覚”であるという正高(1993、2001)らの論考に依拠している。
表現者の相互の“間合い”や聴衆の間に起こる交流などの“音楽的対話”の基盤は“感性情報処理”に基づいており、即興性の強い場では、他者や自分の音楽表現行為を受容し、認知・統合する“感性情報処理”が瞬時に要求されることになる。
演者は、Williams Syndromeの音楽的能力は、音楽的空間における“間合い感覚の鋭敏さ”と考える。
立体的空間把握に関する課題は、第7染色体の微小欠失に起因するものであるが、「聴覚的情報能力=視覚的情報能力」や「表出言語=理解言語能力」のバランスの特異性が、Williams Syndromeの表現の幅広さの要因になっているとも考えられる。
実践を通して、Williams Syndromeの表現行為の特徴は、次のようにまとめられる。
- リズムに対する親和性やメロディの記憶力が高く、能動的な音楽活動を発展させる力を持っている。
- 受動的な活動では、音楽的な文脈を読み取り、感情との関連を言語化する能力を持っている。
- 即興的な活動に対する不安や舞台恐怖が少ない。
- 創作活動では、イメージを音で象徴化する力があり、自分の作品のイメージを言語化することができる。ただし、読譜は困難である。
- 外界の音・音楽や既成の楽曲を再生する能力がある。
3.新しい感性の視座
以上、Williams Syndromeの表現行為における“感性”を理解するためには、その規定を桑子敏雄(2001)の言及する「履歴を持つ空間における身体の配置」という視点へと広げる必要がある。
その際、“身体の配置”を俎上に乗せるためには、第7染色体の欠失した情報と芸術(音楽)との関連性を追究することが不可欠になる。
(2008年9月)
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