幼児のための楽器開発



根津 知佳子、松本金矢
日本女子大学、三重大学
音楽心理学音楽療法研究年報 No47 47-54 2018



6.Ombutsuを活用した実践

筆者らは、2001年よりWilliams Syndromeを対象とした音楽活動を継続している。Williams Syndrome(以下、ウィリアムズとする)は、1961年にニュージーランドの医師Williams,J.C.Pによって発見され、1993年に第7染色体の微小欠失であることが明らかにされた神経発生疾患である。我が国では、2015年7月1日施行の指定難病(179)として告示されている。

実践から明らかにされたウィリアムズのパフォーマンスの特性は、以下の通りである(根津2005)

@リズムに対する親和性やメロディの記憶力が高く、能動的な音楽活動を展開する力を持っている。
A受動的な活動では、音楽的な文脈を読み取り、感情との関連を言語化する能力を持っている。
B即興的な活動に対する不安や舞台恐怖が少ない。
C創作活動では、イメージを音で象徴化する力があり、自分の作品のイメージを言語化することができる。ただし、読譜は困難である。
D外界の音・音楽や既成の楽曲を再生する能力がある。

一方で、染色体の部分欠失に起因する視空間認知に課題がある。筆者らは、ウィリアムズ特有の社交性を保障しつつも視空間認知の弱さに焦点を当てた活動を創出してきた。例えば、根津・下垣・榊ら(2006)では、江洲義英(2005)に依拠した表現分析を通して、参加者全員に同一の方向性(アイデンティティ)を持つときに、音楽的場が”Fantasy”の場になり「実践複合体」として位置づけられることが可能であるという結論を得た。特に、記録の分析を通して図11の「Reality(現実)」と「Fantasy (ファンタジー)」の融合において、ウィリアムズの言語能力とその特性が作用し「Inspiration(着想)」「Imagination(想像)」が引き出されるというウィリアムズのパフォーマンスの特性を明らかにした。

さらに、根津・後藤・川見(2016)では、第7染色体q11.23領域における約20の遺伝子情報の欠失と身体表現の特性を解決するために、「Expression(表現)」から「Creation(創造)」のプロセスに焦点を当て、動作(所作)を可視化するパフォーマンス評価を開発した。

また、根津(2018)では、合奏活動におけるウィリアムズ同士に音楽的対話の特徴(図2C)を検討した結果、リーダー的な存在や音楽的に主となるパートに合わせるのではなく、相互に「情動調律」をしつつ、パフォーマンスを遂行するプロセスを可視化した。

これらを基盤とし、本研究では、開発した『Ombutsu』を用い、以下のような音楽活動を実施した。



(2019年10月)


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