芸術プログラムの包含する意味 〜創造的退行の視点から〜



下垣温子
三重大学 教育学研究科
第6回日本音楽療法学会学術大会(2006年8月25日〜7日)

【研究の目的】 【方法】 【結果】
  1. 海岸で感じたことを1.0×2.0mの白い紙の上に自由に描き、「スクウィグル技法」のようにひとつの作品を作り上げることを目的とする美術科スタッフの考案した活動を行った。その直後、対象者の気持ちを言葉にし、メロディーを創る活動を行った。その結果、海での活動で言語化されないまま抑圧されていたAさん(中学生)の悩みが、無意識の活性化と意識化を繰り返したことで、言葉(歌詞)と音楽という形となり、「相対化」された。さらに、翌日のミニ・コンサートで家族やスタッフの前で表現(歌唱)し、共有・受容される体験により自己肯定感が満たされる場を設定した。
  2. このとき生まれた音楽は「同質の音楽」であったが、日常の世界に戻ったときに「異質への転導」が必要となった。そこで男性スタッフBが、Aさんの作った歌詞は変えずに、異なるアレンジの曲を創った。最初の曲がAさんに同調する同質の音楽だったのに対し、この曲はAさんを力強く応援する異質の音楽であった。この曲の影響に加え、new objectである大学生の男性と関わることで、Aさんは自分の成長を音楽に投影させた。翌年の彼女は悩みを克服して別人のように明るくなっており、APのリーダー的役割を果たすようになった。
  3. 美術を専門とするBは、@では周辺的参加だったが、WSの家族らに存在や活動が認められることにより、自然にAPの中心的役割となり、APの方向性を展望する企画を考え実践した。また音楽的活動のリーダーも担うようになった。
  4. ミニ・コンサートの際、内向的なCさん(小学校高学年)をスタッフが支援して家族の前で表現(歌唱、演奏)し、受容される場を設定した。Cさんの父親にとってその曲は思い入れのあるものでもあり、涙する。その後Cさんの進学について積極的に検討する力となった。
【考察】 【結語】 (2006年9月)



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