時代・世代を超えて共有・共感する“音”と“モノ”
Sharing and sympathizing of “sound” and “mono” beyond times or generations
根津知佳子、松本金矢
三重大学教育学部
第8回日本感性工学会大会・総会(2006年9月13日〜15日)
1.はじめに
私たちは、ものづくりとセッションを組み合わせたさまざまなアート・プロジェクトを創出してきた(2004、2005)。最も重視しているのは、一般的な工業製品の設計・製造とは異なり、“場”の固有性、多義性、象徴性を重視したものづくりの過程である。有音程打楽器“かぐや”の製作とセッションの実践では、実践者と設計者が協働することにより、子どもを中心にした活動を展開することに意義があった(図1:略)。本稿では、人と材、材を介した人と人との関わり、さらには実践者と設計者の理論と実践との融合を具現化した“72時間”のプロジェクト“カマヤツ”について報告する。
2.“音楽=もの”その意味を伝える活動
プロジェクト“カマヤツ”とは、Williams Syndromeの子どもたち、きょうだい、保護者、学生スタッフ、教員の数十名で木製スピーカを製作し、36年前のLPレコード『Let it be』の音を再生する試みである。そのため、実践者は設計者に次のような条件を提示した。
@ 参加者全員が直接木材に関わる体験を重視する。
A 電動工具は使用しないで、各自が木材を切る時のテンポ、音色などを感じあえる場を創る。
B 設計図を提示せず、参加者には最後まで何ができるかをわからないようにする。
C 場(セッション)においては、演出も含めて実践者も設計者も対等に加わる。
D 全員で一つのものをつくるプロセスを重視する。
E 音の記録媒体の歴史を考えるきっかけを提供する。
F 音楽が再生される瞬間の期待・緊張感を共有する。
3.共有を実現するための製作過程を重視した設計
上記の条件を考慮し、小型で十分な低音を再生できるダブルバスレフ型スピーカの製作活動をデザインした。スピーカボックスに隙間ができないようにするため、子どもたちが板を切断しても寸法精度を維持できるように切断補助具を用いた。さらに、全ての部材の幅が一定となるように設計するとともに、板同士の接合において常に切断した木口が露出するように組み合わせることで、切断時の寸法誤差を吸収できる構造とした。材料に松の無垢集成材を用いることで、のこぎりによる切断を容易にするとともに、カンナによる修正を可能にした。
このように、製作者(子ども)の技術レベルに対応した設計を行うことで、全ての参加者が直接製作に携わることを可能とした。
4.“ものづくり”と“音づくり”の融合
実践においては、子どもたちも親たちも材との関わりを楽しみ、“ものづくり=音づくり”を共有し、“72時間”のダイナミクスは変容し続けた。一つの材から、参加者全員がその場を象徴する作品をつくり上げ、一曲の音楽(文化)を共有する過程は、従来の協働を基盤としながらも、それを融合・超越するものといってよいだろう。36年前のLPレコードに針を落とす瞬間、完成したスピーカからどんな音が出てくるのか、期待と緊張による沈黙が生まれた。ものづくりが音づくりに繋がる瞬間でもあった。
5.おわりに
本プロジェクトは、世代・時代を超越し、“もの”と“音”を共有することによる、文化の伝承を内包している。しかし、何よりも、ものづくりと音づくりが常に並行して実践された点に意義があると考える。
(2006年9月)
目次に戻る