音楽療法:ある母親の物語



アメリカのウィリアムズ症候群協会(WSA)の会報に掲載されていた記事です。オリジナ ルはミネソタ州ブレイン市乳児局の会報“News for Networking”に掲載されていたようで す。

(2001年12月)

−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−

Music Therapy : One Mom's Story

Originally Reprinted in "News for Networking" an early childhood interagency newsletter in Blaine, MN
"Heart to Heart", Volume 18 Number 3, September 2001, Page 14-15

4年前、神から最大の試練が与えられました。1才の息子エリック(Erich)がウィリア ムズ症候群と診断されたのです。障害児を抱えた他の家族と同じように、私の人生もまっ たく変わってしまいました。しかし、暮しやすく創造的な人生をエリックに与える道を探 すことが私の課題だと考えることにしました。そのおかげでエリックは他の子どもより多 く早期援助を受け、才能が花開きました。

1998年の夏には、口腔運動療法(Oral motor Therapy)・作業療法・理学療法・言語療 法をエリックに受けさせました。家族も専門家の助言に従ってあらゆる努力を行いました が、裏に潜む認知や発達の遅滞を回復させることはできませんでした。1998年7月、ここ ミネソタ州ミネアポリスで開催されたウィリアムズ症候群協会の全米大会の音楽療法ワー クショップに参加しました。このワークショップはウィリアムズ症候群の成人に焦点が当 てられていました。音楽療法は成人の恐怖感を静め日々の暮しを楽にするために使われま す。エリックの役に立ちそうなことは何ひとつ学べなかったと思いながらワークショップ を後にしました。しかし、エリックは音楽を聞き分ける耳を持っているきざしを見せ始め ました。エリックは自分の回りの世界に興味を示すようになりました。

学校区当局と何度も話し合ったすえ、私と夫は学校区担当の音楽療法士が週に1回20 分から30分エリックの就学前教室を訪問することを認めさせました。この活動はこれまで 2年間続いています。音楽療法士はエリックに合わせた療法を就学前教室の生徒全員に対し て実施します。エリックのクラス全体がこの早期教育の恩恵を受けています。クラスメー トは新しい学習方法に触れることができました。先生や療法士たち(作業療法・理学療法・ 言語療法)もエリックのような子どもへの新しい対応方法を学びました。その結果、エリ ックの認知や発達能力は目に見えて進歩しました。1999年4月、私の友人が15年以上の実 績を持つポーラ・シーツナ(Paula Sceituna:P.S. Music)を紹介してくれました。最近 の2年間、エリックはポーラの音楽療法の個人レッスンを毎週1回45分間受けています。 この音楽療法を休んだことはほとんどありません。

最初の内エリックは気まぐれでした。頭にくることにレッスンが始まっていくらもた たないうちに教室を出なければならないこともあれば、とても有意義な時間を過ごせて満 足感にひたったこともあります。ポーラはエリックの気分や集中度に合わせてレッスン内 容や目標を変えていき、すばらしい成果が出ました。ポーラはエリックに教えこむ機会を 逃さず、エリックがポーラへの応答をしくじったこともほとんどありません。二人はよい コンビになり、音楽を通してエリックの発達機能全般を着実に向上させていきました。

さまざまな手法をからみあわせている療法は音楽療法だけです。豊かな発想力と才能 を持ったポーラは、疲れをしらないかのようにエリックの潜在能力を高めてくれました。 しかし、ポーラも常に強調しているように、音楽療法は何にでも効果がある魔法の薬では ありません。音楽療法はほんの数週間で効果がでるものではなく、長い時間をかけて成果 を確認する継続的なプロセスです。音楽療法に反応を示す子どもがいる一方で、適用が難 しい子どもも存在します。子どもひとりひとりが異なっていることを忘れず、各人に適し たペースで学ぶことが大切です。

音楽療法から学んだ技能を普段の生活に活かせるようになるには2年近くの時間が必 要でした。数週間や数ヶ月ではありません。エリックはいろいろなことができるようにな りました。最初のころ、歌は歌えず、ポーラに自分の名前を言うことさえできませんでし た。今では歌を歌えるだけではなく、ポーラが歌詞から意図的に省いた単語を補うことも できます。音楽に合わせても合わせなくても、自分の名前を書くことがきます。物語の初 め途中と最後を理解し、物語の重要な部分をわざと抜くとそれに気がついて指摘すること ができます。音楽を使うと2〜3段階の手順を含む指示に従えますが、音楽無しでは失敗 することもあります。音楽の助けを借りることで集中できる時間が長くなり、他のことに も応用できています。おもちゃの笛についているぜんまいを伸ばすことができるし、簡単 に正しいキーを区別できます。歩く・走る・飛びあがることは今では自信をもってできるよ うになりました。色を識別することはまだ難しいようですが、音楽を使わない時より音楽 を使ったほうが上手にできます。たいていの場合、まず音楽を使って技能を覚え、その後 音楽無しで同じことができるようにします。

初めてポーラの所に連れて行った時、エリックは他の障害児が持っていない能力を持 っていたことは否定できません。エリックには優れた社会的能力が常に備わっています。 私はよく冗談で「意地悪遺伝子」も欠失しているのよと言います。エリックは人が好きで、 相手も自然に対応してくれます。めずらしいことですが音楽的才能も持ち合わせています。 並外れたリズム感を持っているし、絶対音階もあるような気がします。ウィリアムズ症候 群の子どもたちは優れた言語能力を発揮しますが、エリックもこの2〜3年で目覚しい進 歩を見せています。しかし、彼の進歩や成長の陰に音楽療法の影響があることも同じよう に否定はできません。

親や教育関係の研究者の中に音楽療法の効果に疑問を持っている懐疑論者がいます。 この懐疑論者たちの多くは、音楽療法が子どもの人生に与える効果や影響を知らないか実 際に見たことが無いのです。エリックは音楽療法で学んだことを普段の生活に利用する方 法を毎日発見しています。

音楽療法は、あらゆる認知障害を克服するための万能の回答を与えてはくれませんが、 エリックの人生に欠けている穴を埋める手助けにはなります。エリックは音楽療法から恩 恵を受けています。音楽療法を欠いたエリックの人生kなど想像できません。

−=−=−

WSA本部には子どもに音楽療法を受けさせることに関して記事や資料の請求が継続的に来 ています。“今のところ”ウィリアムズ症候群の子どもの教育には音楽療法が不可欠である と述べた記事は見当たりません。しかし、ウィリアムズ症候群の子どもの多くが豊かな音 楽性を持っていること、そして音楽を取り入れた活動には高い集中力があることを示唆す る逸話や予備的な臨床研究が増えてきています。このため、幼いウィリアムズ症候群の子 どもが遅滞を克服するために、成長した子どもは学習やストレスを減らすために、音楽療 法が役に立つ可能性が高いと思われます。音楽療法とウィリアムズ症候群に関する詳しい 資料が必要な方は、WSAに連絡を取って「音楽パケット」を入手してください。



目次に戻る