ウィリアムス症候群の子どもへのピアノ指導に関する研究 ―「ぼくにもできる」という自信の獲得に向けて―



井本 麻衣子(愛知県立ひいらぎ養護学校)
船橋 篤彦(愛知教育大学障害児教育講座)
障害者教育・福祉学研究 第5巻、pp 21〜28、(2009年2月)

要約

子ども達の自己効力感や自尊心を育むことは、教育の大きな目的である。これは、障害のある子ども達の教育・支援においても同等のものである。しかし、子ども達の中には、自分の周囲の子どもとの比較や苦手なことへの直面によって、否定的な自己概念を持つに至ることも少なくない。そこで、本研究では、「自分にもできる」という肯定的な自己効力感をはぐくむことを目的とした、ウィリアムス症候群の子どもに対するピアノ指導例を取り上げた。

指導においては、子供の実態に応じて、スモールステップアップとバリエーションを重視した指導プログラムを実施した。その結果、対象児のピアノ操作の向上だけでなく、「ひとりでやってみたい」という発話(主体性の萌芽)が確認された。この結果を受けて、障がいのある子ども達への音楽教育・指導の意義や肯定的な自己概念を育む為の指導方法について考察を行った。

I 問題と目的
 
中略

そこで本研究では、通常学校の特別支援学級に在籍するウィリアムス症候群(第7染色体に以上が見られる症候群。音楽への関心が高いものが多いとされている)の男児1名を対象として、キーボードを利用し、簡単な曲を弾けるように指導方法や支援方法を考え、実践した事例を通して、個の教育ニーズに応じた音楽教育について検討する。とりわけ、曲を弾く楽しさを知り、自分に自信を持って活動に意欲的になるには、どのような支援が効果的であるかについて考究することとしたい。

  1.研究方法 − 事例研究

対象児:A(小学校4年生、男児) B小学校特別支援学級在籍
医学的診断−ウィリアムス症候群
期間:X年10月〜12月
時間と指導携帯:1回あたり45分間・Aと筆者の個別ピアノレッスン(小学校の音楽室)

Aのこれまでの音楽とのかかわり:テレビなどで流れる音楽を聞き、歌う。何度か曲を聞けば、上手に歌うことができる。動物の鳴き声や、先生の声を、忠実に再現しようとする。休み時間に、キーボードで音色を変え、それを聞いて遊ぶことが好きである。C市が主催する音楽療法に参加している。小3からピアノを習い始める。現在ピアノ教室では、ドレミの3音を使って弾く練習をしているが、それよりも自分で自由に鍵盤をたたくことを好み、課題を2回ほどやり終えると「好きなように弾いていい?」と先生に問い、思うように弾き始める姿がある。習って1年ほど経った現在は、ドとレの位置がわかってきた程度である。ピアノ教室では、ピアノ以外の活動も行っている。リコーダーで、同じ指でリズムを変えて吹いたり、手でリズムをたたいたり、先生のエレクトーンの伴奏に合わせて歌ったりという活動である。

以下略

(2010年1月)



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