特例子会社に就職



息子は今年高等専修学校を卒業して、四月に鉄道グループ会社の特例子会社に就職しました。仕事は宿泊施設のベッドメーキングやトイレ・風呂の掃除、ポスター張り合わせなどの軽作業です。障害者4から5人でチームを組み、サポート役のリーダーと一緒に点在する職場を回ります。9時半から16時半までの実働6時間で、週5日出勤します。

入社1年目は時給契約社員ですが、2年目以降正社員になれるようです。今は契約社員だとはいいながら、自分用の健康保険証(組合管掌)をもらい、雇用保険と厚生年金に入っています。厚生年金手帳も受け取りました。

初出勤から2ヵ月たち、慣れない作業でときどき「腰が痛い」と風呂上りにシップを張っていますが、毎日楽しそうに出勤しています。今の仕事先までは路線バスを使って通勤時間は30分ほどです。交通費が支払われますので定期を買いました。バスと電車を乗り継いで約1時間かかるところに出勤先が変る可能性もあります。

4月に初月給、5月には一月分の給料をもらいました。時給契約社員としての時給は地域の最低賃金(700円強)です。一日6時間、一月20日程度の出勤なので、給与は9万円程、そこから健康保険や厚生年金、諸経費などを引かれて、8万円程度が手取りになります。昼ごはんは食堂がある作業場所の場合はそこで、無いところではコンビなどに行って自分で弁当を買います。一月分の昼食代として給料の中から15,000円を割り当て、自分で出納用の帳面をつけて管理させています。「余ったら小遣いにしてもよい」と言ってあるので、いろいろ考えて使っているようです。さらに一部を小遣いにして残りは貯金しています。療育手帳を持っていると利息にかかる税金が無税になるマル優制度(ゆうちょ銀行など)が使えますのでそれを利用しています。

職場に趣味が合う友達ができました。プロレスの話で盛り上がっているようで、帰宅後にもよく電話しています。休みの日にプロレス関係のグッズを売っている店に一緒に買い物に行く計画もあるようです。



就職先は高等専修学校が見つけてくれました。この学校は自閉症児と健常児の統合教育を行っている学校法人(私立)に属していて、幼稚園・小・中学校もあります。息子は中学校から入りました。高等専修学校は卒業生全員に進路を与えることを方針にしていて、特例子会社や授産施設・福祉工場などと関わりを持ちながら、子供に合った職場を斡旋してくれます。

息子は2年生のときに2週間、3年生のときに3週間、今回就職した特例子会社で職場実習を受けました。子供と仕事の相性を見る事前チェックのようなものだったと思います。学校の就職担当の教師が時々実習の現場を見に行き、会社の担当者と意見交換をしていたようです。ただし、特例子会社と学校の間で直接就職を決めたのではなく、特例子会社は障害者求人情報をハローワークへ送り、息子は求職情報を障害者就労支援センター経由でハローワークに送り、障害者就労支援センターが双方を斡旋する形で就職が決まったことになっています。働き始めてからは、学校の就職担当の教師だけではなく、障害者就労支援センターのケースワーカも職場を見に来て、サポートをしてくれています。



働く際に役に立ったことがいくつかあります。

バス通勤については、中学校代にバスと電車を乗り継いで通学していたこと、あるいは学校の友達と遊ぶために電車で別の町まで出かけていたことがよい経験だったと思います。学校には健常児の子供を世話係に指名して障害児とペアを作るバディー制度があったので、息子たちをカラオケやゲームなどに誘い出してくれました。

社会生活については、中学校時代に授業の一環としてマクドナルドに出かけて自分で注文して昼ごはんを食べ、図書館やスーパーに出かけて本の借り出しや買い物をする経験を積みました。課外授業でボーリングなどに出かけることもありました。親が横にいると、いろいろな事情から本人にさせずについ親が手を出すことが多いので、これらの活動は有意義だったと思います。

挨拶は中学・高校を通じて厳しくしつけられました。職員室に入るときなどにも「失礼します」と言わないとやり直しを命じられたようです。授業参観に行ったときも、廊下ですれ違うとみんな礼儀正しく挨拶をします。

作業実習は高等専修学校に入ってから経験しました。1年生のときの実習は学校内で行われますが、タイムカードで出勤退勤の管理を行い、実習中は作業服に着替え、私語禁止で教材のコピーや製本、郵便物の封入などを行います。残業もありました。勤務評価も行われ、息子は計数系が散々でした。集中して数を数えることが苦手なので、郵便物の封入枚数を間違えて居残り作業を命じられました。

学校の卓球部での活動、音楽キャンプでの経験、家での手伝い(風呂洗い、食べ終わった食器を下げる、洗濯機から出した洗濯物のしわをのばすために畳む)なども少しは役に立っているようです。ちなみに、就職してからは家での風呂洗い当番を拒否しています。仕事場で散々やっているので、しかたがないでしょうね。



  よい職場が見つかって親としてとても喜んでいます。長く続けて欲しいと思います。



杉本雅彦

(2008年6月)



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