ウイリアムス症候群とエルフィン関西



著者である富和さんから下記資料をいただきました。なお、下記シンポジウムの抄録が出版(臨床遺伝研究 Vol 22 No 1、2001年3月、109ページ)されています。

(2000年10月)(2006年4月 追記)

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日本臨床遺伝学会第24回大会 シンポジュウム

平成12年5月26日
富和清隆 大阪市立総合医療センター 小児神経内科(エルフィン関西顧問) 

ウイリアムス症候群は大動脈弁上狭窄など先天性の心血管系の異常といわゆる妖精様 顔貌を特徴とする症候群です。7番染色体長腕の微細欠失によることが明らかにされ、さ らに臨床検査会社によるFISH法検査が容易に利用出来るようになり、診断される患者の数 は急速に増えつつあります。本症は心疾患を契機に診断され、小児の循環器専門医の継続 診療を受けていることが多いのですが、心血管系の異常以外に発達発育上の問題や泌尿器 系、骨・結合織の異常など様々な健康上の問題を持ちうることが知られており、包括的な 健康管理、養育の支援が望まれます。とりわけ、音過敏や視覚空間認知障害、過度の社交 性、多動などに対して適切な理解と早期からの対応が重要です。又、就労についても当事 者や雇用者に対する適切な指導が必要です。

こうした支援を行うには小児科医による定期的な診療だけではなく、他科の医師、セ ラピスト、療育、教育関係者の参加を必要とします。又、当事者やその家族たち自身が同 じ疾患を持つ人やその家族の大きな支えになります。臨床遺伝医や発達を専門とする小児 科医の役割の一つは、それらの関係者に理解を深めて貰うよう、この症候群に関する情報 を提供することです。

「当事者やその家族自身による支援」を目標として平成6年9月に滋賀県下でウイリ アムス症候群の会が創られました。平成9年には東京、中部、東海、関西の4支部からな る日本ウイリアムス症候群の会として再編成されました。その1支部であるエルフィン関 西の会員は約50家族で、勉強会、親睦会の開催、機関誌の発行などを定期的に行ってい ます。

会員相互の情報交換は診療のことよりも、子育てや教育に関することが多く、年長者 の家族の経験が年少者の子育てに生かされています。会の運営上の問題としては、役員に 負担がかかる傾向があること、新入会員が少ないこと、広域にわたるため、全会員一緒の 活動が難しいことなどが挙げられます。

シンポジュウムに向けて、発育発達に関するアンケート調査、会の活動に関する意見 を集約しましたので、それらの結果についても報告します。

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以下は富和さんの講演会発表用のレジュメです。

心疾患と発達行動上の問題を持つ症候群の診断を行うことが家族にとってどのような 意味を持つのか。診断を真に患者や家族のために生かすにはどうすればよいか?患者や家 族が関係者に真に求めていることは何か? 関西地区のウイリアムス症候群のセルフサポ ートグループに関わって感じたことについてお話します。

ウイリアムス症候群は大動脈弁上狭窄など先天性の心血管系の異常といわゆる妖精様 顔貌を特徴とする症候群です。本症は従来から心雑音を契機に診断され、小児の循環器専 門医の継続診療を受けていることが多かったのですが、心血管系の異常以外に発達発育上 の問題や泌尿器系、骨・結合織の異常、又昨日発表があったように歯科口腔外科的問題な ど様々な健康上の問題を持ちうることが知られており、包括的な健康管理、養育の支援が 望まれます。

1993年に、本症が7番染色体長腕の微細欠失によることが明らかにされ、またそ の後まもなく日本では臨床検査会社によるFISH検査が利用出来るようになり、診断される 患者の数は急速に増えつつあります。出生児2万人に1人の頻度とされています。

発育発達の段階によって、スライドのごとく様々な問題が生じ得ます。とりわけ、音 過敏や視覚空間認知障害、過度の社交性、多動などに対して適切な理解と早期からの対応 が重要です。又、思春期以降は高血圧、関節拘縮、また便秘などの消化器症状の他、いわ ゆる老化が早いとされ、循環器・小児科医療の枠を越えた総合的な健康管理が望まれます。 就労についても当事者や雇用者に対する適切な指導が必要です。

医学的に注目された問題点を歴史的に見ますと、まず第2次大戦後のビタミンD強化 ミルクと高カルシュウム血症および発育不良との関連,特異な顔貌についての関心、そし て61年にウイリアムスらによる心疾患との関連が注目されました。79年に英国で乳児 高カルシュウム血症財団が親たちの努力で発足し、その財団の援助の下に、様々な医学上、 養育上、教育上あるいは社会的問題に対する研究、支援が行われるようになりました。そ して現在では先天性心疾患の原因疾患というよりも、発達障害としてとらえられています。 支援団体のHIS財団が出来、患者家族が真に必要とする様々な研究の成果がでました。
小児期の行動上の問題では、音過敏、多動注意欠陥、過度の社交性などは幼児期早期 から見られます。

いやな音を嫌う行動はしばしば耳ふさぎとして表れます。一方、音過敏は特異な音楽 的才能をも意味します。周囲を和やかにする才能、音楽的才能など本症のいわばプラス面 の特徴は、親の会を持って始めて学びました。

成人期でも乳児期からの発達課題を引き続きもつ人が多いと思われます。社交性と雄 弁は小児期では一方的に長所と見なされがちであるが、思春期以降の社会適応を難しくし ます。この点については早期からの対応が必要であることを家族も周囲も自覚することが 大切です。

世界各地にウイリアムス症候群の会がありnet上でも各種の情報を得ることが出来る。 日本でも午前中田中先生から発表があった鹿児島など、各地で親の会などがあると考えら れますが、エルフィン関西と関連して知るグループをあげました。93年滋賀県の子ども 病院の集団教室を出発点に94年にウイリアムス症候群の会が出来、全国的な親の会とし ての連携がはじまり、97年からは当事者の視点を重視した「日本ウイリアムス症候群の 会」として再出発しました。エルフィン関西は関西支部で約50組の家族が参加していま す。

平成11年度の活動を見ますと、学習会、家族一緒のお泊まり会、ハイキングや親睦 会そして子どもに関わっている保健婦、臨床心理士、訓練士、教師、医師などを交えたフ リートーキングなどが定期的にもたれています。また、機関誌の発行やパンフレットの作 成などが行われています。

シンポジュウムの発表への協力の意味で、医療、教育、会の運営などに対するアンケ ートを春休みに実施しました。結果の一部を紹介します。

そして、 アンケートでは養育上の様々な困難について聴きました。 専門家から独立したセルフサポートグループとして97年に再出発したエルフィン関 西ですが、それだけに役員の負担は大きいと言えます。診断後wsについてや、育て方に ついてもっとも知りたいのは、新たに診断された家族であるわけで、新会員を増やすこと が社会的使命とも言えます。また、成人期の本人たちの自主的な活動をどう援助するか、 又、アンケート最後にあった専門家との協力関係をどう育てていくかが課題と思われます。

最後にアンケートに協力いただいた会員の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。



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