(1999年11月)
WS PARENT HANDBOOK
Chapter 1 FAMILY LIFE:CHALLENGE and REWARDS
By Barbara Scheiber
"Heart to Heart" Volume 16 Number 3, September 1999, Page 5-8
バランスが必要
その課題の難しさに関わらず、たいていの家族はただ生き延びるだけではなく、うま
くやっています。「その課題の難しさに関わらず」という句は間違っているかもしれません。
正しくは「困難であるがゆえに」かもしれません。両親達が通る道筋に存在する苦闘・落
胆・努力・大成功そのものが、家族の力になり強い結束を作ります。しかし、ものごとが
たとえうまくいっていなくでも、あなたがストレスに打ちのめされていても、家族が結束
していなかったり相互に協力していなくても、恥ずかしがる事はありません。多くの人達
は同じ道のりを歩んできているので、助言や洞察を与えることができるし、最後は理解し
共感することができます。
別の方法でも親同士のネットワークができつつあります。インターネットを通じて他
の親とコミュニケーションする人がどんどん増えています。WSAが運営するメーリングリ
ストは世界中の何百人もの両親達が経験や専門的情報を共有するサポートグループであり、
皆が孤独ではないことを確認できることで心の安定をもたらしています。
あなたが住んでいる地域社会にも、学校や親の会を通じて他の障害を持つ子ども達へ
の心配をお互いに相談する集まりがあるかもしれません。(あなたが住む地域であなた自
身が、可能な限り頻繁に集まれるようなサポートグループを作ってもいいでしょう)。WSA
がスポンサーになって地域毎あるいは州毎に開催される勉強会・ピクニック等の社会的イ
ベントを通じても、ずっと付き合える家族を見つることができます。
対処方法を身につけると、これまではあると思わなかったような強い力を持ち、今よ
りももっと深く意味とつながりを理解できます。これはPollyanna的な見方(a Pollyanna
view)ではなく、涙と苦悩の末にもぎ取った価値のある見通しです。ヘレン・フェザースト
ーンは著書の中で、障害を持った子どもはすべての家族の経験を変えるだけではなく、普
通ではない問題に関する特別な機会を提供することを的確に指摘しています。
嘆き悲しむ方法はひとりひとり違っています。こうすればいいという画一的な方法は
ありません。ある段階から次の段階へと明確に移れるわけではありませんが、悲嘆のいろ
いろな段階を識別することが必要です。流した涙は、否定・怒り・落胆など悲嘆のすべて
の場面に焦点を当てます。私達は無意識のうちに運命と取引をするかもしれません。つま
り私達の人生を変えることだけが唯一残ったとしたら、それと引き換えに。実際には無関
な事がらすべてに対して我々は罪の意識を感じるかもしれません。私達は悲嘆のいろいろ
な段階を進んだり戻ったり、あるいはある段階に留まるかもしれません。そして、受容や
対応方法や別の希望やよろこびのイメージを作る方法を学んで長い時間が経過した後、悲
嘆を再度感じることがあるかもしれません。学校の問題、同年代の子どもとのつきあい、
健康問題、一人暮らしなど新しいく対応しなければならない事柄に出会うと、やっと克服
したと思った感情がまた湧き上がってきます。
私達ひとりひとりが自分の道を前に進んで行きます。私達は誰一人として、完璧な親・
完璧な問題解決者・寛大さや忍耐や受容の完璧なモデルにはなれないし、なることを望む
ことすらできないことは覚えておくと良いでしょう。しかし、現実を受け入れる、あるい
は受け入れられるようになることは可能です。子どもから与えられる物・彼らのエネルギ
ー・人生を愛する事・家族や世間で彼らが占める生き生きとした役割を、私達は見て、受
け入れて、感謝します。
最も気になることは両親の間でも違っています。父親や母親は、悪い所はどこで、ど
うすれば直せるかについて正反対の意見を持つかもしれません。両親のどちらかは障害を
否定し、「子どもはいつか普通になる」と考えたり、寛大さより厳しいしつけが必要だと思
うこともあります。ストレスに対処しやわらげる方法が2人で違っているかもしれません。
よくあるのは、母親は倍の努力をして子どもが背負った責任をすべて引き受け、荷が重過
ぎると感じ、孤独感を持ちます。父親は心配や頭の痛い問題を避けて仕事に没頭し、家に
帰っても母親より冷静で問題から身を引いていますが、家族から疎外されていると感じる
ことが多いようです。収入や家事を分担できたとしても、衝突は残ります。両親はお互い
を傷つけあい、いやいやながら、未熟さ・恐怖・罪の意識を共有することもあります。疲
れてしまって、相手の要望に応えられないかもしれません。
コミュニケーションは技術です。学習する事が可能です。努力が必要です。練習すれ
ば習慣になります。両親が最もつらい状況でも相互理解とユーモアを持って対処すること
を可能にする習慣です。図書館の書架は夫婦間や家族間のコミュニケーション方法を書い
た本にあふれています。一緒に読むといい本もあります。これらの本の多くは、非難せず
に心を開き愛情を持って二人が話し合う練習方法を含んでいます。生涯教育や大学の社会
人教育プログラムなどには、自分の要望や希望を主張し相手の要望を聞く方法についての
セミナーがあります。親の会なども2人が共に成長する機会を提供してくれます。多くの
教会がカウンセリングを行っています。結婚生活の専門的カウンセラーやセラピストは親
密さを作り上げるコミュニケーション方法を教えてくれます。
もし子どもの世話を頼む費用をすぐに払えなければ、家族や教会のメンバーが喜んで
ボランティアをしてくれないか探してみてください。祖父母が助けてくれるかもしれませ
ん。母親クラブはベビーシッターを交互に行っています。地域によっては、発達障害の人
がいる家族に関心をもつ親の会がショートステイサービスを提供しています。政府機関が
この種のサービスを提供していることもあります。忍耐と強い意思を持てば、貴方の家族
が望む要望は理解され、誰かが世話をしてくれることでその場を離れて心の平和を得るこ
とができます。
子どもを育てるという現実を見つめているうちに、その子が持っている独特の能力や
才能の開花を楽しめるようになります。彼らは子どもが必要としている教育プログラムや
介護サービスの擁護者になることを学びます。両親は医者や他の専門家たちに、ウィリア
ムズ症候群とはこういうものだとたびたび教えなければいけません。気晴らしや才能を伸
ばし成長するための機会を増やすよう努力します。いろいろな障害を持つ子どもや成人が、
学校・地域・職場の中心にいられるように、地域社会の人の態度を変えさせます。変化を
起こす出発点は家庭です。家族のひとりひとりが自分に求められている役割をこなしなが
ら成長する方法を見つけなければいけません。
両親同様、兄弟や姉妹達もしばしば疎外感を感じます。特にウィリアムズの同胞が近
所の子どもにいじめられたときなどです。男の子ならウィリアムズの同胞を守る為に飛び
かかるかもしれませんが、行動に反して受け入れてあげて欲しいという気持ちも持ってい
ます。悲しさや怒りを両親に見せない子どももいます。彼らはその重荷を背負いたくない、
あるいは家族思いではないと見られるのがいやなのです。障害を持った同胞が同年代の友
達の前でその場にふさわしくない事をしたり言ったりすることで当惑することもあります。
両親同様に彼らも喪失感を持ち、その兄弟や姉妹が自分といっしょに何かしたり同じ経験
を共有してほしいと願い、ウィリアムズ症候群の子どもに注がれる愛情とエネルギーの量
に嫉妬し、その否定的な感情に罪の意識を感じます。
過去を振り返ってみると、多くの大人達は自分がりっぱな兄や姉になろうとしたこと
を思い出します。同胞にボール遊びを教えたり、誕生パーティを盛り上げる手伝いをしま
した。幼い頃から利他主義を学ぶことはとてもプラスになります。さらに同胞達は特別な
感動、つまりウィリアムズ症候群を持つ彼らの兄弟姉妹がやれたことに対する純粋な誇り
についても語ります。それはスペシャルオリンピック競技で走ったこと、学校のバンドで
ドラムを演奏した事、仕事を見つけ働き続ける事などいろいろです。
両親同様、同胞も自分の否定的な感情を認め、それが普通であると思えなければいけ
ません。自分の感情を吐き出し、苦痛を引き起こす状況に対処する具体的な方法を学ぶ機
会が必要です。両親とのコミュニケーションのパイプを持ち続けることは大切ですが、家
族以外の人と心配を共有することも役に立ちます。親たちの会合同様、同年代の子ども達
の集まりも価値があります。特別につらい時には個人的カウンセリングもいいでしょう。
あるすばらしい団体:「障害児の兄弟姉妹と暮す児童生徒の集まり"Special clubs for
school-age siblings of kids with special needs"」が多くの州にあります。シブショップ
(SibShop)と呼ばれるグループは、同年代の子どもが集まって自分の経験した「いい事、悪
い事」を話し合います。同胞支援プロジェクト(Sibling Support Project)に手紙を書くこと
で、ニュースレターを送ってもらったり、近くの団体を教えてもらったり、自分で似たよ
うな集まりを開催する方法を教えてもらえます。
憤慨が蓄積する可能性もあります。障害児の出現で私達の親戚も夢を壊されているか
もしれないし、彼ら自身の悲嘆に苦しんでいるかもしれません。再度言いますが、努力と
強い意思があれば、心が通い合い感情を共有できます。家族のメンバーにウィリアムズ症
候群に関する出来る限りの情報を与え、あなたの子どもに良い影響を与えるような状況を
作れるように親戚や友人達も教育することが重要です。あなたやあなたの家族が親しくな
ればなるほど、たくさんの援助を受けられます。
このような行動は、ひとびとの考え方や行動を変える為にいろいろな場面で利用でき
ます。家族の他の局面と同様に、困難は私達の価値を確認し、彼らと効果的にコミュニケ
ーションする方法を見つけ、私達の暮し方を学んでもらう良い機会です。
「子どもによって変えられた(Changed by a Child)」の著者でありダウン症の子どもの
母親でもあるバーバラ・ギル(Barbara Gill)は、私達の選択について語ります。私達ひとり
ひとりは障害について「錨、祝福、あるいは重荷…」と見ています。「このような出来事の
もとでそれを良い機会だととらえられないこと、すなわち集中し、意味を理解し、学習し、
成長し、私達の住む世界に影響を与えられない事は、天が私達に与えた経験を得る機会を
逃しているのです。」
子どもによって変えられた両親は、自分たちが住む世界を変えているのです。転職し
て子どもや両親を教えカウンセリングしている人もいます。自治体の方針をよりよいもの
にするために学校の理事会や法規委員会で証言を行った人もいます。ウィリアムズ症候群
協会などの組織を率いている人もいます。
しかし、両親に起こったもっとも大きな変化は親自身の中にあります。つまり不確か
さと恐れの状態から、予期せぬ高み、すなわち子どもひとりひとりの個性を見て、かわい
がり、大切に育てる、ことへと変わります。このような家族は私達の社会の模範であり、
違いがあるどんな人でも人類の家族として歓迎するモデルでもあります。