ウィリアムズ症候群の子どもを持つ両親のためのハンドブック
チームを作る
このハンドブックはWSAのニュースレター "Heart to Heart" に掲載されていました。資
料番号2−1−22の後続の資料です。
(2000年6月作成)(2001年3月修正)
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WS PARENT HANDBOOK
BUILDING A TEAM
By Barbara Scheiber
"Heart to Heart" Volume 16 Number 4, December 1999, Page 5-11
9ヶ月になったベンジャミン(Benjamin)は早期教育(Early Intervention)プログラムに
参加しています。まだ顕在化していないものも含めて発達遅滞に対応する特別な療育を毎
週自宅で受けています。理学療法士は彼と遊びながら、徐々に運動機能を発達させる活動
に引き込んでいきます。手足を伸ばし、姿勢を変え、動きを追いたくなるようなおもちゃ
を使い、両方の手を使わせ、身体の中心軸を横切らせることなどが含まれています。言語
療法士は会話を構成する要素としての音をまねるように促します。
5才のピーター(Peter)は毎週2時間作業療法士といっしょに彼の「空間認知能力」を
向上させるためにスケートボードで障害物を置いたコースを通りぬけることを始めいろい
ろな運動をしています。「空間認知能力向上」とは、彼がつまずいたり転んだりしなくなる
こと、物にぶつかる回数をへらすことを意味しています。
6才のミッシェル(Michelle)は学校で理学療法士の訓練を受けています。平均台の上を
歩き、大きなボールをつき、ジャンプすることを覚え、それ以外にも彼女の課題になって
いる運動の練習をしています。
8年生のジョン(John)は週に一度言語療法士に来てもらって、会話の始めかた、一つの
話題を話しつづけること、他の子どもと言葉のやり取りを行うきっかけをさがすことなど
の訓練を受けています。
雷に関係することが怖くてしかたがない4年生のアリソン(Allison)は、リラクゼーショ
ンテープを聞きながら恐ろしい時間をやり過ごす練習をしています。これはアリソンの恐
怖を静めるために心理療法士が彼女の母親に勧めた方法のひとつです。
これらの子どもたちはウィリアムズ症候群を持っているためさまざまな障害がありますが、
全員に特定の療育が役に立っています。これらの事例は、変化に富んだウィリアムズ
症候群の人達に何が役に立つかを示しています。ウィリアムズ症候群協会によって最近行
われたウィリアムズ症候群の家族への調査によると、100%の家族が言語療法を受けていま
した。作業療法(Occupational Therapy:OT)は87%、理学療法(Physical Therapy:PT)
は71%です。これらのサービスを提供している専門家達、すなわち開業医・心理療法士・
学校の教師・栄養士・音楽療法士等がチームを組んで、子どもたちが健康を維持し、活力
を持ち、自信に満ち、人生を楽しめるように手助けをしています。
サポートチームへ出される要望にはウィリアムズ症候群の多面性が反映されています。程度
の違いはあるにしても、この症候群は身体面・精神面・感情面・社会面の発達に影響を与
えます。この10年ほどの間に、このようなジグソーパズルのさまざまな部品への対処方
法が大きな進歩をとげました。以前に比べればはるかに効果が期待できる努力方法を私たちは
手に入れました。生まれた後できるだけ早く始めれば効果が高いことを知りました。早期診断は、
以前には利用できなかったような早期療育の道を開き、よい結果につながります。
「目安:マイルストーン」の達成
親として私たちの多くは自分の子どもの発達が普通とは違っている事に気が付い
ています。ウィリアムズ症候群と診断されるより前に気付くことがほとんどです。きれいな
目をしたかわいい我が子が、期待する時期にはったり立ったり歩いたりしないこと、2才
になっても単語を話し始めないことに驚きます。「発達の目安」の遅れに気付くことの重要
な点は、子どもの将来をあきらめることではなく、子どもの発達順序に沿って発達を促す
方法や、持っている潜在能力を伸ばす方法を探すことです。さらに学校時代や成人した後
にも困難を克服し長所を伸ばすために何らかの援助が必要です。
援助すべき項目は相互に関連しています。この章では、子どもたちの発達を個々の要
素に分解し、子どもたちが必要とするひとつあるいは複数の分野の援助方法を紹介します。
しかし実際にはこれらの分野はからみあっています。あなたの子どものために働くチーム
の専門家たちも相互に関連があります。ある母親は、息子が大きな筋肉を使った運動の訓
練を理学療法士から集中的に受けていた時、言語能力も伸びたと報告しています。別の母
親は、作業療法士が言語療法士と組んでどうやって子どもに言葉を出させたかを報
告しています。ある心理学者と栄養士は、お互い協力くして別の子どもの摂食問題克服に
取り組みました。個々の部品はあなたの子どもがどのようにして学習し成長するかに関連
する大きな絵の一部です。
子どものためのチームはひとつとして同じものはありません。この章の目的は、すべて
のサービスを一度に受けることが必要だと言うことではなく、どのような療育が役に立つ
かというアイデアを提供することです。環境が違えば療育の提供者も変わります。1人の
経験豊富で直観力がある療法士が両親に協力すれば、子どもが必要とするすべての援助を
提供することも可能でしょう。ここでは主に言語や身体発達のさまざまな面に関係する療
法士について述べます。次の章では、感情と社会性の発達を取り上げ、心理療法士やその
他の専門家が提供可能な援助を紹介します。それに続く章では学校の教室での教え方や学
校制度との協調について扱います。
医療チームのメンバー
ウィリアムズ症候群の医学的問題はとても気になるので、折を見ていろいろ
な分野の医者にかかることでしょう。(医学的検診については後の章で議論します)。医学
的問題がどんなものであっても、かかりつけの医師が看護と治療の中心的役割を担います。
子どもの年齢によっては、小児科医や内科医になるでしょう。いずれにしてもあなたが信
頼できる医者にこどもの健康と福祉を見てもらいます。心配ごとを気軽に話せることが大
切です。子どもの人生において度々必要になる特定の分野の医療専門家への橋渡しをして
くれるのがこの医師だからです。
サービスを見つける場所
大抵の場合大きな病院には外来患者に言語療法士や理学療法士、作業療法士を紹介す
るプログラムがあります。あなたが住んでいる州の健康保健所が地域診療所のスポンサーに
なっている場合もあります。大学の中にも評価や治療を行っているクリニックがあります。
大都市から遠く離れている場合は、定期的に子どもの状態を評価してもらいに行き、家庭
で行う活動の処方をもらってくることも可能です。
全米各州の早期療育プログラムには障害を持つ就学前や学童(3才から5才)に療
育を提供するサービスがあります。州によっては生後すぐにサービスを受けられます。こ
れらのプログラムは公立学校制度を通じても利用可能です。症状と必要になるサービスの
種類(法的・保険的要件を満たす)が記載された診断書を子どものかかり付けの医者に書いて
もらうことが必要になることが多いようです。言語療法士や作業療法士を紹介してくれる
組織の名前をこの章の終りにリストアップしました。理学療法士の場合は、かかりつけの
医師に小児臨床を専門とする理学療法士を紹介してもらってください。
あなたがチームの中心人物
どのような専門家から援助を受けようとも、あなたがチームの心臓部です。あなたは
他の誰よりも子どものことを良く知っています。あなたは子どもの福祉に最も責任があり、
こどもの長所短所に一番良く気が付きます。専門家達は週に1回か2回、時には3回子ど
もに接します。しかし、反復・練習・報償などによって子どもが最も進歩する場所は家庭です。
専門家達の仕事には、あなたが子どもの日常生活に織り込めるような活動のアイデアやお
手本を与える事が含まれています。
学校に通う年齢では、必要な療育サービスが教育プログラムに含まれるように気を配るべき
責任者の1人になります。ほとんどの場合、初め私たちは最初養護的役割(role of advocate)に違和
感を覚えますが、段々と私たちが必要としているもの、すなわち自分の子どもに最適なも
のに気付き始めます。次のような共通的原則を覚えておいてください。
- どの子もみんな違っている:
ウィリアムズ症候群が持つ共通的特徴があったとしても違いはあります。療育プ
ログラムを受ける前に個人評価を受ける事が大切です。(そして意味のある療育
にするために、評価を定期的に受け続けること)。自分のファイルに評価書類の写
しを綴じ込んでおいてください。
- 種々の活動が目的(ゴール)にかなっていることを確認する:
ゴールは小さなステップのひとつで、表面的には小さな変化にすぎません。しか
し、ゴールに到達することは成功体験であり、さらなる飛躍につながります。
- 活動を楽しむ:
あなたもお子さんも共に楽しみましょう。お子さんが取り組む療法は常に「遊び」
心を持つべきです。ある作家は「子どもの仕事は遊ぶこと」と言っています。
- 一度にたくさんの課題を子どもに与えて過負荷にしない:
ある母親は、息子の言語能力が非常に延びた時期には粗大運動や微細運動の能力
には進歩が見られないか、あってもわずかだったと回想しています。時間の経過
と共に、粗大運動や微細運動能力の進歩が始まりました。小さい頃はこのような
パターンが繰り返されました。この傾向はすべての子どもにはあてはまりません
が、子どもの適応状況(readiness)や学習パターンに敏感になることは良い事です。
- 地域社会のリクリエーション等を提供する組織:
これらの組織はあなたのゴールや療育チームの活動を補強してくれます。スポー
ツプログラム・キャンプ・音楽・ダンスなどあらゆるものが子どもの発達を促し
てくれます。
- 専門家達にウィリアムズ症候群の情報を伝えよう:
この症候群に関する知識は増えていますが、まだまだその情報を開業医の手元に
届ける必要があります。ウィリアムズ症候群の病名は聞いたことはあっても、ウ
ィリアムズ症候群患者を診るために必要な最新の研究結果や長所短所を知らない
可能性があります。ウィリアムズ症候群協会は最新の研究報告を提供でき、専門
家達はこの資料をとても頼りにしています。
- 肯定的な見通しを持つ:
ある特定の障害だけに目を奪われて、私達の見通しが捻じ曲がる可能性があります。
つまり悪い点だけに注目してしまうことです。私達にとって大切なのは子ども自
身であって、決してあれやこれやの障害や特徴ではありません。私達にだって長
所短所があり、上手にできることもあれば、失敗することもあります。学習障害
は私達にもあります。子どもたち自身に、なぜ自分は他の子どもたちと違ってい
るところがあるのかを質問させることから、この説明を始めてもよいでしょう。
活動的で外向的な性格からして、私たちの子どもは援助をしてくれる専門家たちとす
ぐに仲良しになります。そして喜びがもたらされます。専門家たちの多くは、彼らが受け
持つウィリアムズ症候群の子どもが、喜びにあふれ、情熱的で、協力的で、敏感で、相手
を喜ばせる事に一生懸命なことに気が付きます。子どもたち自身が尊重され好意をもって
迎えられるチームの重要なメンバーです。
会話と言語
例外はありますが、言葉が非常に好きなことはウィリアムズ症候群の人々に共通する
目印です。彼らは言葉の意味に関して不思議な感覚を持っています。しかしこの特筆すべ
き才能にもかかわらず、私たちの子どもの多くは様々な理由から言語療法を受けることが
必要です。
ウィリアムズ症候群の子どもの場合、ほぼ全員が会話能力の発達が遅れます。幼少の
頃には、要求や意志をうまく伝えられず、回りの人もその内容が理解できないことがフラ
ストレーションになります。さらに、話し始めた時にも明瞭に発音できない子どもが多い
ようです。筋肉が弱いことなどが原因です。
成長するにつれて、コミュニケーションに関してはもっと微妙な問題が発生します。
語彙は豊富ですが、文章や物語や会話の文脈において正しい意味で単語を使えないことが
あります。彼らの会話は実際よりも知識があるように聞こえます。彼らは社会的刺激を求
めているにも関わらず、言葉のやり取りに問題があったり、話題を変えたり適切な受け答
えができなかったりします。聴覚処理能力の障害のために、上手に情報を把握したり、
言われたことを覚えていることができません。子どもの場合、知っている単語がのど元まで
出てきているのに思い出せないことにフラストレーションを感じることがあります。言語
療法はこれらの障害を乗り越える手助けになります。幼少の頃には言語の遅れを最小限に
留め、少し大きくなってからは、可能な限り会話の基礎能力を身に着けることに役立ち
ます。その後も両親や教師と力を合わせることで、言語療法士の助言は学習や社会性や自
己実現の確立に貢献するでしょう。
幼児期
子どもたちは幼児期のごく早い段階からコミュニケーションの練習を始めます。彼ら
の泣き声に対する反応、お腹が空いた赤ちゃんに食事を与えること、いらいらを慰めるこ
となど、両親のいろいろな行動から自然に学びます。片言を聞き喋り、微笑み、いないい
ないばあ等は、交互に会話をする初歩的な練習になります。この時期、言語療
法士は両親に楽しい遊びのレパートリーを教え、コミュニケーションの刺激につながる活
動に関する助言を与えます。
摂食障害
1才未満の時に多くの問題を抱えている子どもがいます。吸う力・噛む力・飲みこむ力
が弱いという摂食障害が多く見られます。低筋緊張や協調性が弱いことに関連していると
思われます。このような赤ん坊は抱く姿勢を変えなければいけないこともあります。口当
たりの悪い物を吐き出すような反応を克服するには忍耐と繊細さが必要です。裏に隠れて
いる可能性がある消化や呼吸の問題は、医療専門化による検査と適切な治療が必要です。
これらに関連した問題は初期の発語に影響を与えていることが最近になってわかってきま
した。言語療法士は構造的・機能的問題を発見し対応方法を指導することができます。
いくつかの提案
言語療法士が考案した、小さな子どものコミュニケーションの学習に役に立つ提案を紹介
します。あなたの「おもちゃ箱」に加えてください。
- 物体を指差して正確に名前を言う:
小さな子どもの大部分は、名前を言えない物が欲しい時には指差して示します。し
かしウィリアムズ症候群の子どもは指差しが遅れる傾向にあります。あなた自身が
指差すことで子どもたちに手本を示し、同時にその名前を聞かせてあげましょう。
何度も何度も繰り返すことをいやがらないでください。そのうちに反応があります。
- 正しい話し方の模範を示そう:
ウィリアムズ症候群の子どもの母親であるナンシー・グレジャック(Nancy Grejtak)
は、次のようなアドバイスをくれました。「私たちは言語療法士の助言を常に気にか
けたお蔭で、ピート(Pete)の言語問題の一部分にはとてもすばやく対処できたと考え
ています。すなわち、多少大げさでもかまわないので、正しい言葉に関して常に模
範を示したことです。例えば、私たちは彼が発した全てのフレーズを、正しい文法
や抑揚で繰り返し続けました。彼の間違いを正すような声ではなく、私たちは彼の
言うことに賛成であり、彼が言おうとしていることを繰り返す感じにに聞こえるよ
う気をつけました。ウィリアムズの子どもはものまねがとても上手なので、模範役のや
りがいがあります。」
- 学校時代の言語問題:
成長過程にあるこの時期、学業の進歩と同様に言語が社会的成功に強く関連してい
ます。実用主義(Pragmatics)は、社会的会話など実生活の場面における言葉の使い方
を記述した言葉です。ウィリアムズの子どもは相互関係を持つことが好きですが、
一方で他の子どもなら簡単に身につけられる基本的なルールを学ぶことも必要です。
一般的に彼らは人の顔に関する優れた記憶力を持ち相手の感情を理解で
きますが、ボディランゲージを読み取ることが不得意で、私たちのほとんどが当然
と考える手がかりについて教えこむことが必要です。ひとりひとりの必要性に応じ
て、あなたや療法士が、交互に話すこと、意見を話すきっかけ、適切なあいづちな
ど社会的関係を勉強させてください。(社会的関係を学ぶこれ以外の方法は次章で
紹介します)。
その他の問題も学生時代に前面に出てきます。耳から得た情報を理解し、聞いたこと
を覚えておく聴覚処理能力もその一つです。ウィリアムズの人の多くが持つ注意が散漫に
なる傾向も聞き取り能力の邪魔をします。(ある教師は、「彼は自分の先生だけでなく、隣
りの教室にいる先生の声も聞いています」と言っています)。正確な発音も引き続き課題に
なることがあります。子どもが成長するにつれて、言語にはもっと複雑な課題が現れてき
ます。小さな子どもは直感的に言葉の意味を「知って」いるかもしれませんが、本当の意
味や正確な使い方を理解していません。同意語や反意語はやっかいです。前後・場所・時
制・理由などの概念にも混乱しがちです。まるでスポンジのように文法を覚える子どもも
いますが、動詞の使い方や文法規則に苦労する子どももいます。新しい単語・新しい概念・
新しい分野の情報を覚えるには、階段を一段ずつ着実に上るような指導が必要で、小グル
ープあるいは個人指導が向いています。
言語の2つの面を考えることが重要です。理解(receptive)(入力:聞いたこと、見たこ
と、読んだこと、理解したこと)と表現(Expressive)(出力:話すこと、書くこと)です。言語
療法士は子どもの長所短所とこの両面に関する問題を観察します。、言語療法士は子どもの
個性に応じて家庭や学校で使える具体的な目標や方法を提案します。可能な限り静かで最
適な学習環境を作り出せるように、こどもの教育に関わる人達全員がこの目標や方法を徹
底的に議論し理解することが重要です。次に掲載する方法は、小学校時代の子どもたちの
何人かに効果があったものです。これらはあらゆる子どもにそのまま適用できるわけでは
ありません。しかしこれらは何らかの効果が得られる手法の一例です。
聴覚処理
ある療法士が次のような提案をしています。
- 聴力を補強するために他の感覚を利用する:
聞く・触れる・匂いをかぐ・動かす・見ることで情報を得るようにさせましょう。
情報を描写したビデオ・音楽・絵画・劇を利用しましょう。
- 繰り返す:
情報・指示・説明を伝えたら、別の方法で言いなおしましょう。複数の事例を提示
してください。きちんと理解するために、子ども自身で指示を何回か復唱させるよ
うに教えてください。
- きちんと情報を処理し続けていることを確認する:
途中で止めて、聞いたことを繰り返すか中間のまとめ結果を訊ねてください。彼が
まだ「あなたの指示の下にいる」ことを確認するためです。
- 新しい情報は一度に多く与え過ぎない:
小さなステップに分解し、ステップはひとつずつ。
注意力不足に対処する
集中力は聴覚能力に密接に関連しているので、次のようなヒントが役に立ちます。
- 子どもを教師や介護員の近くに座らせましょう。そうすればその子が注目すべきこと
に集中できる枠組ができます。
- 話し始める前に、子どもが聞いていると同時にあなたを見ていることを確認しましょ
う。
- 子どもが注意を向けていない時、そのことを本人にわからせる「合図」を作り実行し
ましょう。
- 課題を変えるときや新しい情報を与えるときには、子どもの注意をそれに向けさせま
しょう。例えば、最初にトピックスに関するちょっとした話題を提供するといいでしょう。
母親の1人は、「ベン、さあ『読書の帽子』をかぶる時間よ」と言います。
- 無関係な教材などを子どもが触らないようにしまっておきましょう。
単語を思い出す
短期記憶の問題に対処するヒント:
- 覚えやすくする目的で新しい単語をカードにしましょう。
- 子どもに単語の先頭の文字などの手がかりを与えましょう。
- 年長の子どもには多面的な定義を利用しましょう。特徴・機能・分類で記述する、同
義語や関連する単語を使う、ジェスチャーや視覚的な手がかりで関連する単語を示す
などです。
教室における修正
普通、次の事例は高校で適用されます。
- 可能ならばノートを取ってあげる人(講義ノートを共有してもいいと考える生徒など)
を指名します。聴覚処理に問題がある生徒にとっては、聞くこととノートを取ること
を同時に行うのは非常に困難です。
- 口頭による指示には補助情報を提供します。この問題は引き続きフラストレーション
になります。前に述べた例の中には、引き続き有益な「ヒント」があります。例えば、
単語につまったときには、手がかりとして絵が有効です。繰り返し指示を出しますが、
一度にたくさんはだめです。
- リハーサル。例えば、青年が就職面接を受ける場合は、想定質問や模範
解答を使った面接練習を行うことが役に立ちます。
身体発達
ウィリアムズ症候群は子どもの体力・耐久力・効率的な運動能力に影響を与えること
があります。影響が軽微な子どもがいる一方で、重篤な影響を受ける人がいます。全員に
理学療法が必要なわけではありません。しかし、お子さんに何か弱点があるとすれば、次
に掲げることが役に立つかもしれません。
お子さんの身体的な能力と弱点の現状レベルを評価してもらい、すぐに治療が必要か、
または将来必要になる可能性があるかを知ることが大切です。言語に関しても、理学療法
士に見てもらうのが早ければ早いほど結果が良くなります。生後1年以内に小児臨床
専門家の療法士による検査を受けることで効果的な療育が期待できます。その後も継
続的な評価を受けることで深刻な問題の発生を予防できます。
定期的スクリーニングの価値
ウィリアムズ症候群協会のニュースレター(1995年春)に掲載された記事で、カリフォ
ルニアに住む理学療法士のマイク・ドッジ(Mike Dodge)は、3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月・
2才・3才の時点で詳細な発達スクリーニングを受けることを勧めています。これらは過
渡的な能力発達に重要な時期だからです。3才になった時に詳細がつ全般的な評価を受け、
適切な学校プログラムや必要な援助サービスを決めることを勧めています。
子どもが成長するにつれて、理学療法士は動きの幅・姿勢・バランス・歩調(歩き方)
など子どもの筋骨格の発達状態を調べ、時間経過に伴う変化を観察します。指導が必要な
部分が決まると、療法士は適切な目標を達成するための訓練などを含んだプログラムを
作成します。日常生活の一環として、あなたや家族の誰かがお子さんといっしょにその訓
練の多くを実施することができます。課題が重荷になっていると感じたら、楽にしてあげ
るように適切な判断をしてください。楽しむことは杓子定規に計画を実行することよりは
るかに大切です。
赤ちゃんや小さな子どもを助ける
ウィリアムズ症候群の赤ちゃんや小さな子どもたちは低筋緊張(hypotonia:緊張減退)
を伴うことが多く、しまりのない身体をしています。その結果、他の子どもたちと同じ速
度で物事を行えません。運動発達のめやすが影響を受けることが多く、私たちの子どもに
共通して、寝返り・お座り・はいはい・手でささえた立ちあがり・歩きはじめなどが平均
より遅くなります。(平均すると、ウィリアムズ症候群の子どもは2才から3才の間に1人
で歩けるようになりますが、4才まで歩けない子もいます)。生後1才までの赤ちゃん向け
に療法士が作成する訓練を行えば、筋力・持久力・姿勢・動きの滑らかさを改善し、発達
のめやすを実現する手助けになります。
あなたにもできる簡単なこと
お子さんが初期発達のめやすに遅れていることが判明した後、努力を続けるには忍耐
力が必要です。「首が座る」というような何かが初めてできた時のわくわくするような感動
を想像してください。一度何かができれば、もう一度できるように励ましてください。首
を持ち上げやすい姿勢、例えば腹ばいにしてみるとか、背中をやさしくたたいてあげまし
ょう。腕や胸の下に小さくて硬い枕を入れてみてください。そして注意を引くように頭の
上で鈴を鳴らしてみます。
次に掲げる提案は、同じような発達遅延を伴うプラダ・ウィリー症候群(Prader-Willi
syndrome)の子どもを持つ親のためのハンドブックから引用しました。
- 筋緊張を刺激する方法の一つは、ひざの上で体幹をささえながら赤ちゃんをバウンド
させることです。
- 真っ直ぐな姿勢になれてきたら、赤ちゃんの両手を持って身体が緊張するまで後ろの
方へゆっくり倒していき、またもとの真っ直ぐな姿勢に戻します。
- 身体は、内側から外側へ、頭から下へ、という方向に発達することを覚えておいてく
ださい。支え無しにお座りをさせる前には、赤ちゃんの首の筋肉を十分鍛えておきま
しょう。
- 頭を支えられるようになれば、足の筋肉を作るために歩行器(jump seat)が役立ちます。
子どもの訓練で重要なことは、お子さん自身で覚えることです。
寝返りを助けてあげているうちに、赤ちゃんは1人でできるようになります。筋肉を鍛え
る特別な訓練を行って這う方法を教えれば、1人でできるようになります。このようにこれ
らのステップはお子さんの自己実現の幅を広げ、自立に向けて積み木を積んでいるのです。
大きな子どもや成人に必要なこと
定期的に検査を行うことで、ウィリアムズ症候群の人々の多く(全員ではありません)
に見られる障害を予防したり軽減することが可能です。
- 姿勢
筋肉を鍛える運動を行うことでウィリアムズ症候群の子どもの姿勢を改善できます。
この訓練を行わないと私たちの子どもは背中が少し丸くなります。膝や腰に悪影響
があり、筋肉拘縮につながることもあります。
- 筋肉拘縮
これは筋肉や腱が短くなる生理学的変化で、あちこちの関節の稼動範囲が狭まりま
す。青年期や成人してから起こりやすく、主として膝や腰や足首に影響を与えます。
凸凹した地面を滑らかに歩けなくなり、段差や階段や曲がり道が苦手になります。
この場合も理学療法を受けると効果があります。この種の障害が見られたら
主治医に相談してみましょう。主治医は問題の関節のレントゲン写真を撮り必要な
治療を受けるために整形外科医を紹介してくれます。
- 歩調
つっぱったような不器用な歩き方はウィリアムズ症候群の人に少なからず見られま
す。理由を考えてみましょう。姿勢やバランスの問題が不器用さにつながっていま
す。いくつかの事例、特に学童期の子どもの場合、下肢の裏側やかかとにあるふく
らはぎの筋肉やアキレス腱に拘縮があります。その結果、つま先だって歩いたり、
足裏の外側を転がすような歩き方になり、捻挫しやすくなります。先に述べた理学
療法プログラムを通じて筋肉を鍛えて歩き方を直していけば、障害の悪化を防止で
きます。
- 背骨の障害
ウィリアムズ症候群で姿勢が悪い人の中には、筋肉が弱いことと共に脊柱の障害を
持つ(脊柱側彎症)人がいます。脊柱側彎症の中でウィリアムズ症候群の人に最も多い
形態は脊柱前彎症で背中がくぼみます。青年期の後期に起きることがあります。背
骨に障害がある場合やその可能性が考えられる場合は、よく観察して、整形外科医
の助言を得て適切な理学療法を始めてください。ヒント:背骨を守るためには、筋
力の弱い子どもに背もたれの無い状態で長時間座らせてはいけません。
常に注意しよう
筋肉のはりや関節の可動域が減少する徴候にいつも注意しておき、主治医や必要に応
じて整形外科医よる定期的検査を受け続けましょう。理学療法士に3種類程度の運動を処
方してもらい毎日実行していると、簡単に良い姿勢や背中の筋肉の強化ができます。前に
述べたとおり、家族(兄弟も含めて)の誰かが息子や娘と一緒に運動してあげることも良いア
イデアです。長く続けるために音楽をかけることも忘れないでください。
健康でいることは家族全員の課題
特別に配慮された運動は必要なことのほんの一部です。健康でいることはライススタイルで
あり、長く続けるべき生活習慣です。ウィリアムズ症候群の子どもは、家族みんなで楽し
むハイキングや水泳やサイクリングやキャンプやボール遊びなどの余暇活動に参加できる
し、参加しなければいけません。小さいうちに始めれば運動好きは大人になっても続くで
しょう。各地の地域社会が様々な活動を提供しています。スペシャルオリンピックは8才
以上の子どもが参加できます。障害を持つ小さな子ども向けの一日キャンプは、就学前の
子どもも参加できます。(町や地域の厚生担当部門や学校やKiwanisやライオンズクラブ
などの市民組織にも相談してください)。ボーイスカウトやガールスカウトも活動メンバーに
障害児を含めることの重要さに気がついています。
年長の子どもや成人にはフィットネスプログラムがいいようです。トレッドミル・自
転車こぎなどのトレーニング機器はトレーナーの監視の下で使ってください。YMCAやコ
ミュニティカレッジなどが提供するリクリエーションプログラムには、水泳教室・フィッ
トネス・運動やダンス教室があります。スペシャルオリンピックはウィリアムズ症候群の
青年や成人に人気があり、競技会でたくさんのメダルを獲得しています。障害を持つ若者
に門戸を開いている滞在型のキャンプもあり、参加しやすいように様々なスポーツのルー
ルを変更しています。(詳しくは機会提供にふれた後の章で述べます)。あなたのお子さん
は何が好きかを見つけてください。楽しむことと成功体験を重ねることが、やる気と一生
続けられる有意義な活動につながります。
日常生活のスキルを学ぶ
ウィリアムズ症候群の人の多くは、他の人にとって当たり前のことが上手にでき
ないことがあります。例えば、階段を上る、歯を磨く、靴の紐を結ぶ、右と左を区別する、
公園の滑り台やブランコで遊ぶ、自転車に乗る、などです。この特徴が全員に存在するわ
けではありませんが、このような簡単な日常生活のスキルに問題を抱えている人は個別に
指導を受けるとよいでしょう。
作業療法(Occupation Therapy:OT)
作業療法は生活に根ざしたスキルを獲得することに役立ちます。療法士は、同じ年齢
の正常な発達をした子どものスキルの何割くらいをその子が実行できるかを観察し、子ど
もの能力を高めるための個人プログラムを作成します。作業療法の目的は、特定の作業、
例えば鉛筆を使うとかボールを受けるという特定のスキルを獲得するための訓練を行うこ
とではありません。どちらかと言えば、スキルを習得する妨げとなっている問題を克服す
る、あるいは補うことに焦点を当てます。つまり子どもが自信と自立につながる基礎能力
を学べるようにすることが目的です。これはごく幼い幼児に対しても同じです。赤ちゃん
が癇癪持ちであれば、作業療法士は赤ちゃんを落ち着かせるアイデアを提供します。光量
を落し、ゆったりとした音楽をかけ、赤ちゃんマッサージを行い、しっかりと抱きしめる
ことで安心感を与えるなどの方法です。他の方法と同じく、これは幼児の「自己規律:
self-regulation」につながる第一歩です。
感覚を磨く
風鈴の音、両親の笑顔、陽だまりの感覚などは、感覚を通じて最初の印象が伝わりま
す。私たちの多くは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚から実に多くのことを学んでいることに気
がついています。しかし他の感覚器官からのメッセージには気が付いていないかもしれま
せん。例えば触覚や動きや体位の刺激は、私たちが生まれてからずっと脳に大切な情報を
送り続けています。私たちが成長するに従い、感覚器からの情報は同化され、無意識に蓄
えられた知識の一部になっています。私たちは感覚を通じて蓄えられた経験に基づいて周
囲の世界を理解しています。私たちの持っている様々な感覚器からの信号を組み合わせ、
それに反応する能力を感覚統合(sensory integration)と呼んでいます。
ウィリアムズ症候群の若者を受け持っている作業療法士にとっては、感覚統合が療育
に関して重要な課題のひとつです。私たちの子どもは感覚器からの刺激に反応し、取り入
るシステムに障害があることが多いようです。例えば音に対する過剰反応はその一例です。
私たちは親として、雷・サイレン・消防車をはじめ、掃除機やトイレを流す音までが、子
どもたちに制御しきれない感情発作を起こさせることを見てきました。ある種の生地に耐
えられない、ブランコに乗ると動転する、高所恐怖症があるという子どももいます。作業
療法士や時には理学療法士は、「感覚を磨く」ための様々な活動を組み合わせることができ
ます。著名な作業療法士であるジェーン・エアーズ博士(Dr. Jean Ayres)が開発した感覚統合
理論によれば、感覚器官の働きが良ければ良いほど身体的・社会的・学業的技能を学ぶ能
力が高くなります。
3つの基本的感覚
感覚統合では3つの基本的感覚の関係に焦点を当てています。これらの感覚はこれま
であまり注目されてきませんでした。それぞれの簡単な説明を述べます。
- 触ったこと、圧力や生地、温度に関する感覚
触覚と呼ばれます。この感覚に問題があると、ある種の食べ物をいやがったり、触
られることや特定の服地に過敏になります。触られることに絶えられない人がいる
一方、抱きしめられることや特定の生地に熱狂する人もいます。
- 頭の位置の変化や動きの認識
前庭感覚(vestibular sense:内耳に存在します)と呼ばれます。この感覚が正常に働
いていると、空間内のどの位置にいるかについて安定感のある感覚を持てます。動きや位置
の変化に対する感覚に過剰反応する子どもは、滑り台やぶらんこに乗ることを怖が
る、階段の上り下りが危なっかしい、ボールを蹴るのに必要な時間片足で立ってい
られないなどの症状を示すことがあります。感覚統合分野の研究者たちは、前庭感覚
への反応の鈍い子どもに、体を回したり、ひねったり、ゆらしたりする経験
をさせることで感覚を補えると考えています。
- 筋肉や関節、腱から送られる無意識の感覚
この刺激を使って、脳は自分の体が空間内でどの位置にあるか無意識に認識します。
深部感覚(proprioceptive sense)と呼ばれ、体の各部分がどういう位置関係にあるか
を脳に知らせ続けています。例えば、この感覚のお蔭で私たちはいすから落ちない
ように体の位置を調節しながら座ることができます。縁石につまずかないように歩
道に上がったり下りたりするとき、バランスを取って自転車に乗るとき、歯ブラシ
やくしを滑らかに動かすとき、ボタンをはめるときなど様々な微細運動を行う際に
のもこの感覚を使います。
特定の援助の必要性
作業療法士によれば、感覚統合を必要とする子どもはいろいろな面に徴候が見られる
ようです。例えば、お子さんが、
- 衝動的で気が散りやすく、学校で課題に集中できないとか、新しい状況に適応できな
い場合
- 極端に活動的過ぎる、あるいはすぐに疲れる場合
- 協調運動が必要な課題に取り組めない場合
などです。身体運動を伴う課題への取り組み方を見つけ出す能力は運動企図(motor
planning)と呼ばれます。おもちゃの車を見つけて1人で乗ったり降りたりできる幼児は自
然に運動企図能力を使っています。さらに、はさみを使う、結び目をほどく、鉛筆でしっ
かり字を書くときにも運動企図能力が必要です。このように日常生活に必要なスキルを身
に着けるためには、意識的な企図と感覚器から入ってくる無意識の情報を複雑に統合する
ことが必要です。つまり、どうやって動かすか、体をどのように使うか、自分の体が空間
内でどの位置にあるのかなどです。
感覚器への刺激提供(A "Sensory Diet")
活動計画を立てるときに、療法士はバランスの取れた刺激を子どもの感覚器に与える
ように考慮します。ゆらしたり、ジャンプしたり、関節や筋肉への圧力をかけたりなどで
す。大切なことは、子ども自身が様々な感覚への反応を制御し自己統制できることを学ぶ
ことです。これらの活動は楽しく自宅でも簡単にできます。療育センターやオフィスや学
校で実施できる活動もあります。子どもの感覚の敏感さには個人差があるので、プログラ
ムを作成する際には個人個人の刺激に対する反応を正確に知ることがとても重要です。
成功体験
ウィリアムズ症候群の息子を持つスーザン・B・ホール(Susan B. Hall)は息子のシェ
―ン(Shane)が受けた感覚統合訓練の経験について手記を書いています。その活動は彼の発
達にとてもよい影響がありました。シェ―ンは2才から学校に通う頃までずっと作業療法
士・理学療法士・言語療法士のチームから指導を受けました。毎日彼が学校に行く前に、
重い物を押したり引いたり、登ったり揺れたりする粗大運動を行い、続いて微細運動を行
ったことを回想しています。彼女によれば、これらのおかげで彼はクラスに参加し課題に
集中することが可能になりました。現在10代の後半になったシェ―ン自身が、毎朝勉強
を始める前に精力的な運動をすることの必要性に気がついています。雷の音を聞いても静
かにしていられるほど彼の感覚システムは向上しました。彼は新しい状況に対処すること
に自信も見せます。刺激が強すぎるときは、自分で"タイムアウト"できる感覚的に落ち着
ける楽しい場所を探します。
活動の事例
周囲の世界を住みやすく変える方法を学ぶための簡単な活動事例をいくつか挙げます。
(これらが全てではありません。あなたのお子さんに合うアイデアは専門家に相談してく
ださい)。
- 体に触れたり、動かしてあげることが赤ちゃんにとって非常に重要であることを覚え
ておいてください。抱きしめ、ゆすり、移動させ、赤ちゃん用のゆりかごを使い、い
ろいろな場所に寝せることなどすべてが子どもにとって有益です。
- 簡単な迷路を作ると就学前の子どもの空間認識能力向上に役立ちます。シェ―ンの母
親は枕やクッションで山やトンネルを作り、トンネルの出口にはシェーンの好きなお
もちゃを置きました。迷路は高低・上下・周囲などの概念や運動画図能力を伸ばしま
す。
- もう少し年齢が進めば、登り、ジャンプし、バランスを取り、這って進むことを要求
するもっと複雑な傷害物を置いたコースに挑戦することができます。(このコースを
シェ―ンはスケートボード上に腹ばいになって通りぬけるのが好きでした)。
- 音楽に合わせて「銅像」のまねをしてみます。音楽が止まったら、その時の姿勢と位
置のままにして静止します。手拍子をとる、足を踏み鳴らす、ホップする、ひねるな
どを音楽に合わせて行ってもよいでしょう。これらの活動の他にも、音楽に合わせて
体を動かす、トランポリン上で飛ぶ、ハンモックで揺れるなどを行うと筋肉や関節や
腱からの情報を把握する能力が向上します。
- 触覚を発達させる。いろいろな手触りの物体を紙の袋に入れて、子どもに中を見ない
でその物体を表現させるのもひとつの方法です。子どもをいろいろな感触の物体の上
を歩かせるという療法士が使う方法もあります。ウレタンや紙やすり、お米、髭剃り
クリームなどの上を裸足で歩かせます。
- お米の中の「宝さがし」も触覚を発達させる方法の一つです。(スーザン・ホールは学
校に上がる前にシェ―ンにさせていました。彼が掘り出したおもちゃの名前を言わせ
ることで言語訓練としても利用していました)。もう少し大きい子どもには、らせん状
のパスタ(料理していないもの)の中から硬貨を掘り出すのもいいでしょう。硬貨の合計
金額を正確に計算できたらお小遣いとして与えましょう。
- 微妙な感触をいやがる子どもがいます。軽くたたいたり、こすったり、強く抱きしめ
るなどの強い圧力を与えることで落ち着くこともありますが、全ての子どもに必要な
訳ではありません。強く抱きしめるようなしっかりした圧力をお子さんが常に求める場
合は、綱引きや重いリュックを背負って近所をハイキングしたり、大きな枕の下での
鬼ごっこのようなゲームも効果があります。
この提言を療法を記した参考書として読んではいけません。私たちは自分の子ども
を観察して、動き・視覚・音・感触などの障害の程度を認識することが大切です。時間や
場所が違うと子どもたちの反応も変わります。速い動きは子どもたちに警戒心を起こさせ、
次からは怖がったりパニックになったりします。反応のしかたも子どもによってまちまち
です。やり過ぎは禁物です。子どもにとって良いことでも、それらすべてを一日に積め込
むことは不可能です。活動全体は一度に賞味できるバイキング料理ではありません。ア
イデアがある、ただそれだけです。フィットするものもあればしないものもあります。
過密スケジュールの活動に固執したり、消耗してしまわないでください。子どもたちの成
長や勉学を援助する時に、楽しい、笑う、褒める、愛情と友情を確かめることを子どもと
いっしょに行うことが、こどもに与えられる私たちからの最高の贈り物なのです。
この章に貴重な情報を寄せてくれた人に心からお礼を言います。ナンシー・グレジャック:
養護教育の教師、WSAの前会長でありウィリアムズ症候群を持っているピーター(Peter)
の母親。スーザン・ホール:養護教育の教師でありウィリアムズ症候群を持っているシェ
―ンの母親。また、ボストンこども病院のウィリアムズ症候群プログラムと療育チームの
メンバーに感謝の意を表します。カーラ・ケリー・コーレイ(Kara Kelly Corley):言語療
法士。ヘレン・ホーレイ(Helen Howley):作業療法士。アリス・シー(Alice Shea)とキャサ
リン・リチャーズ(Kathleen Richards):理学療法士。
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