ウィリアムズ症候群の子どもを持つ両親のためのハンドブック
自立:夢がかなう
このハンドブックはWSAのニュースレター "Heart to Heart" に掲載されていました。資
料番号2-1-22、2-1-24に続く資料です。
(2000年7月)
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WS PARENT HANDBOOK
Independence:A Dream Come True
"Heart to Heart" Volume 17 Number 1, April 2000, Page 4-6
次の文章は現在作成中の「ウィリアムズ症候群の子どもを持つ両親のためのハンドブ
ック」に収録されます。この夏に開催予定の全米大会でこのハンドブックの第一部を販売
する予定にしています。
自立:夢がかなう
1999年にオーランド(フロリダ州)で開催されたウィリアムズ症候群の成人向けの集会
で夢が語られました。将来の夢・新しい目標に到達する夢・以前は無理だと思われたこと
を習う夢・幸せ一杯で完全に自立した生活をする夢などです。夢を追うためにはサポート
が問題になります。成人に達した人が夢を実現するために必要なサポートを、誰が・いつ・
どこで・どのように探して入手できるのでしょうか。
これらは問題が大きいので解答は一つではありません。これらの問題は成人に達した
息子や娘を持つ両親の心に残る永遠の課題です。オーランドに集まった両親たちの数人が、
彼らの成人した子どもが自立の夢を実現するために利用した援助提供源の情報を公開する
ことに同意しました。
自立には様々な側面があります。重要な共通点は、自分自身であることの自由、選択
を行う自由、満足できる方法で能力を使うことの自由などを持てることです。1人で生活
することを自立だと感じる人がいます。仕事や友だちを持ち、介護を受けながら暮してい
くことを自立だと思う人もいます。両親と同居しながらも、責任と挑戦と喜びを分担しな
がら自己実現を行うことを自立だと感じる人もいます。
次に書かれたいくつかの事例は、成人のウィリアムズ症候群の両親たちによって書か
れたさまざまな自立への道筋を示しています。異なるタイプのプログラムの例があり、よ
い参考になります。みなさんが夢を追求する手助けになることを期待しています。
近いうちに出される会報には、私たちに必要な援助を受けられる機関などを掲載する
予定ですので、自分たちひとりひとりで探し始める必要はありません。この「両親のため
のハンドブック」が完成すれば、自立に役立つ実践的なアドバイスになるとともに自立目
標につながる個々の道しるべとなるでしょう。
グループホームで暮らす
ケン・ギナッソ(Ken Guinasso)は、サンフランシスコからおよそ10マイル南のカリフ
ォルニア州サン・カルロス(San Carlos)にあるシーダーハウス(Cedar House)で暮しはじめ
て3年になります。彼の母親によれば、ケンはとてもそこが気に入っていて、週末に帰宅
する前も友達とグループホームで長い時間を過ごします。
男性4人女性4人向けに4つのベッドルームがあるそのグループホームは魅力的な環
境の中に建てられていて、公共交通機関や商店街へも歩いて行ける距離にあります。この
ホームはペニンスラ発達遅滞児者協会(the Peninsula Association for Retarded Children
and Adults(PARCA))が所有し運営しています。シーダーハウスで暮す成人たちは様々な障
害を持っていますが、昼間は働くことを求められます。(ケンはダブルツリーホテル
(Doubletree Hotel))で働いています。10人のカウンセラーがスタッフとして参加しており、
夕方には3名、週末は2〜3名、夜は毎晩1名が当直に当たります。カウンセラーたちは料
理・買い物・洗濯のような日々の日常生活スキルや、ケガの治療・緊急時の対応・お金の
管理のような生活スキルを教えます。必要に応じて銀行口座や小切手帳の開設・就職面接・
医者の診察予約(行き帰りの交通手段も含めて)に関する居住者のサポートも行います。とき
どき週末には社会的あるいは余暇的活動もあります。
食事と部屋代で月に731ドル必要です。居住者の女性も男性も仕事の収入に応じた社
会保障費(SSI:Supplemental Security Income)を受取っていて、月々の生活費用を補って
います。
グループホームはカリフォルニア地域センターのネットワークから援助を受けていま
す。このネットワークは州の援助で設置された21箇所のセンターから構成され、精神遅滞・
自閉症・脳性麻痺・てんかんの子どもや成人をサポートしています。ゴールデンゲート地
域センター(Golden Gate Regional Center)を通じてシーダーハウスに住む人たち1人1人
に対してカウンセラーが選任され、年間計画作成打ち合わせに同席したり、擁護者
(advocate)になったり、必要なサービスを受ける手伝いなどをしてくれます。例えばケンが
若くて自宅に住んでいた頃、ゴールデンゲートセンターは1週間のサマーキャンプやそれ
以外の時期に開催される週末キャンプの費用を提供していました。地域センターは自活に
必要な技術を含めた日常スキル獲得の援助も行っています。
シーダーハウスを出てルームメイトと一緒に近くのアパートに住み始める人もいます。
他の人たちも活気にあふれ居心地の良いハウスの楽しい暮しと援助が気に入っています。
彼らにとっての自立という夢は活気あふれる現実です。
地域毎にさまざまな援助サービス付きのグループホームを運営する団体があります。
それらの多くはARC支部によって運営されていますが、他の非営利団体も同じようなプロ
グラムを提供しています。州の発達障害/精神遅滞部門(State Department of
Development Disability and/or Mental Retardation)があなたの住む地域にあるプログラ
ムへの参加を手助けしてくれます。郡の人事部門(County Human Resources departments)
はグループホームや関連施設の情報を提供してくれます。視察を行い、あなたと子どもた
ちで居住者やその家族を訪問して話しを聞き、スタッフと打ち合わせを行うことが、その
プログラムが適切かどうかの重要な判断材料になります。
介護付き地域社会(Caring community)での暮し
次の自立モデルは、地域社会に住んでいる成人たちに様々なサービスを提供する施設
を利用することで実現しています。ミシシッピ州セナトビア(Senatobia)にあるこのような
プログラムの一つ非営利団体バッドア・センター(Baddour Center)は、保護された環境内
での自立への挑戦と満足を提供しています。
ジュリア・タトル(Julia Tuttle)とリズ・ミラー(Liz Miller)は、140エーカーあまりの
広大なバッドアの敷地内に、175人以上の男女と友に幸せに暮しています。リズの母親、マ
リアン(Marian)・ミラーはここの雰囲気を「小さな町のご近所どうしのよう」だと言いま
す。彼女が少女だった頃に見た、歩道に沿って家が立ち並ぶ気のおけない安全な町のよう
です。
敷地内で仕事の機会も得られます。職業訓練や典型的な組み立て作業や授産施設から、
道路整備やフェデラルエクスプレスのような配達業務まであります。
居住者は必要や好みに応じていろいろなレベルの監督を受けることができます。日中1
人、夜間1人の計2人の「ホームコーディネータ」と一緒に住んで、料理・買い物・洗濯・
お金の管理などを監督してもらっている人もいます。1人の監督者に午後から来てもらって
ものごとがうまくいっていることを確認してもらい、夜もいっしょに泊まってもらう人も
います。24時間介護が必要な人から、ルームメイトと一緒に自立して暮しながら自分で選
択ができる人までいます。年齢の高い人向けの介護ホームもあります。ジュリアとリズは
それぞれ10人の女性達と家事を分担しながら別々の家で暮しています。自分の部屋の管理
責任は各人が負っています。
このセンターには音楽・演劇・芸術・域内スポーツなどの活動的なリクリエーション
や余暇活動があります。ジュリアとリズは個人別フィットネスプログラムに基づいて週に
何回かフィットネスセンターで運動をしています。「ミラクルズ(The Miracles)」という名
前の聖歌隊は、ホワイトハウスを初めとして全米を演奏旅行していてもっとも有名です。
ジュリアはこの聖歌隊の演奏に時々バイオリンで参加するし、リズはいろいろな町の病院
や学校や芸術センターでこの聖歌隊の一員として歌うことに喜びを感じています。彼女は
午前中働いた後、午後には他の活動にも加わりながら週3〜4回は聖歌隊の練習に参加し
ます。
年1回開かれるスタッフミーティングには居住者も参加し、彼らの両親や保護者が招
かれます。この場で管理責任者や居住サービス管理者(及びアシスタント)・ケースワーカ
ー・監督者など年間を通じて居住者と関わり合う人々からレビューや報告が行われます。
さらに、医療・職業・居住状態を含む詳細な報告書が家族の元に毎月送られます。1ヶ月の
費用は1420ドルでSSIやSSAの給付(バッドアに直接支払われます)以下の金額です。こ
れ以外に衣料費や休日の交通費などが必要です。
ジュリアの両親、ジムとプリシラ・タトル(Jim & Priscilla)は、「管理者やスタッフは
献身的で、世話好きな人たちです。これ以上喜ばしく自信を持てることはないでしょう。」
と記しています。この幸福感は2人の若い女性の口からも述べられています。一言で言え
ば、彼女たちはそこが気にいっています。
バッドアはアメリカ中にたくさんある居住型施設の一つです。他の施設のプログラム
に参加している人たちの声も聞いてみたいものです。再度言いますが、施設を見学し、そ
こに暮す人と話し合ってみることが絶対に必要です。
監督を受けながらの地域社会での暮し
さまざまなレベルの監督を受けながら、アパートやマンションや賃貸住宅など地域社
会の真ん中でさまざまな住居に住みながら働くという選択をしているウィリアムズ症候群
の成人もいます。多くの都市や町には、まさにこのための制度が準備されています。例え
ば、ニューヨーク州マウントキスコ(Mt.Kisco)にあるコミュニティ・リビング・コーポレー
ション(The Community Living Corporation:CLC)はさまざまなタイプの居住施設を所有
し運営しています。またウエストチェスター郡(Westchester County)内の発達障害の成人向
けにいろいろな援助サービスも提供しています。
ウィリアムズ症候群を持つ若い女性のエイビー(Abby)はCLC所有の住宅の一つに住ん
でいます。他のプログラム参加者と同じように、エイビーには2人の同居人がいて、お金
の管理、銀行とのやりとり、洗濯・食品雑貨の買い物・栄養豊かな食事の予定とクッキン
グなどの一人暮しのさまざまな雑用の際に援助を受けています。さらに、グループ内の問
題解決や意志決定の援助をスタッフが行っています。
その機関とは無関係の「サービス・コーディネータ」がエイビーの後見人として、彼
女が必要なサービスを受けたり、地域社会にある援助やプログラムを探す手助けをしてい
ます。コーディネータは彼女と定期的に会い、半年に一度は彼女の「個人サービス計画」
を見直し、家族やCLCのスタッフや他の機関が計画をうまく実施するための連絡役を務め
ています。
エイビーは活動的な人生を送っています。友達・音楽・仕事・休暇旅行・自立レベル
の向上に満ちた日々です。彼女は歌とダンスレッスンを中心とした地方版「隠れた才能
(Hidden Treasures)」プログラムに参加してウェストチェスター芸術センターでピアノの勉
強するするなど、地域社会が提供するプログラムを通じて彼女は自分の趣味を深めていま
す。職業訓練と就職はウェストチェスター遅滞市民協会(Westchester Association for
Retarded Citizens)を通じて斡旋されます。CLCは40年程前に、発達障害の人たちも個々
のレベルの応じた援助を受ければ地域社会の中で自立し生産的に暮していける能力を持っ
ていると信じた先人たちによって設立されました。同協会は現在44箇所で173人に援助を
しています。プログラムは寄付で運営されています。審査をパスしてサービスを必要と認
められた人は、全員収入にかかわらず費用はいっさいかかりません。この非営利団体は人
件費をかけずに高いサービス品質を提供することに専念しています。
サービスを受ける人の要望は多岐にわたります。24時間のサポートを必要とする人も
います。エイビーのように日に1時間程度の手助けでうまくやっていける人もいます。「サ
ービス・コーディネータ」は、職業訓練や仕事の配置にはじまってカウンセリングや療法・
医療や歯科診療・余暇や自己啓発プログラムに至るさまざまなプログラムやサービスに参
加する手助けをします。
この団体のキャッチコピーは「統合、個性、自立そして生産性(Integration,
Individualization, Independence and Productivuty)」です。エイビーや仲間達が幸せな大
人の生活を求める中では、この言葉は彼ら自身の変化や成長そして充実という意味を持っ
ています。
ジーン・アン・ダークス(Jean Ann Dirks)の家族は違ったルートで自立を目指していま
す。3種類の居住型の経験を経て、テキサス州ブライアン(Bryan)にあるクレストビュー・
メソジスト・リタイアメント・コミュニティ(Crestview Methodist Retirement
Community )を試した結果、ここがジーン・アンにはとても居心地のいいことがわかりま
した。彼女は50才ですが、回りの住人はほとんど彼女より年上です。それでも回りの人々
から温かいサポートともてなしを受け、住みこみの管理者からは効率性や感情に関する援
助を受けています。彼女はとても生き生きとしてアパートでくらし、自分自身をコントロ
ールできています。望めば誰でも牧師やソーシャルワーカーあるいは訪問心理カウンセラ
ーの援助を受けられます。
スーパーマーケットまで定期的にバンが往復し、個人毎に薬局から薬の配達がありま
す。希望すれば医者の往診も可能です。各アパートの寝室やトイレには緊急時にひっぱる
ための連絡用の紐が設置されています。隣近所の人がお互いに助け合います。
カフェテリアで昼食をとることが居住者の義務になっています。他の食事は自分たち
で用意します。ジーン・アンは、コンロは使いませんが電子レンジは使いこなせます。時々
お隣りといっしょに食事をすることもあります。また病気のときや気分が進まないときに
は昼食が彼女の元に運ばれてきます。
ボランティア活動や社会活動は人生の重要な一部分です。彼女はさまざまな場面で老
人ホームの女性達を助けたり、共和党事務所でボランティア活動ををしています。テキサ
ス農工大学(Texas A&M University)のキャンパスで活動しているベスト・バディ活動(Best
Buddy program)の「仲間たち(Buddies)」が、彼女といっしょに映画やボーリングや夕食
に出かけたり、特別な用事がなくても定期的に彼女と会っています。
ジーン・アン自身の資力は経済的に余裕があります。障害者年金(Social Security
Disability)や社会保障費(SSI)で彼女の生活費の大半をまかない、個人的な費用は自分自身
の小切手口座から支払っています。
「ジーン・アンには安全で信頼できる環境を提供してくれ、私たちには『心の安らぎ』
を与えてくれるとてもすばらしい所です。メソジスト教会がここを設立したので、ずっと
このまま続くと安心していられます。」と、彼女の両親がコメントしています。ここに住む
に当たって、メソジスト派であることは必要ありません。
「このような場所をずっと探していました。クレストビューの地にひざまづて祈りた
い気持ちです。ここの電話番号は電話帳(イエローページ)で見つけました。」彼らが電話を
かけたときの応答は、「急いで今すぐにいらっしゃい」でした。
ジーン・アンの母親と父親はクレストビューの近くに引っ越したので、娘に確実で愛
情のこもった援助をすることが可能です。2人の姉妹も定期的に訪れ、ワシントン州に住
む兄だけが離れているので電話で連絡をとります。ジーン・アンの幸せと安全と自立は彼
ら全員の喜びの源です。
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