学習という天分
「夢の実現 第2分冊」からの抜粋
この両親向けのハンドブックはWSAのニュースレター "Heart to Heart" に掲載されてい
ました。資料番号2-1-22、2-1-24、2-1-25の続編です。
(2001年3月)
−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−
The Gift of Learning
An excerpt from Fulfilling Dreams ?Book II
By Barbara Scheiber
Co-authored by Nancy Grejtak, M.A.Special Education, Resource Specialist Teacher,
Past President of the Williams Syndrome Association
"Heart to Heart" Volume 17 Number 4, December 2000, Page 6-15
学習は人生における大切な天分です。外の世界へのドアを開き、自分が持っている能
力を自覚させてくれます。勉強するにしたがって成長します。学習すればするほど、自分
の能力の限界に近づき、社会の一員としてよりよい貢献ができます。
そんなに遠い昔のことではなく、ほんの20年から30年前でも学習という概念は現在
に比べて狭いものでした。発達障害を持つ子どもたちは勉強などできないと広く信じられ
ていて、彼らには教育を受ける権利がありませんでした。20世紀最後の四半世紀になって
概念が変わり、新しい権利と機会を障害児に与えるように法律が改定されました。現在の
障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act(IDEA))です。その後すばらしい
進展を経て、今では全員に「無料で適切な」教育を提供するまでに至りました。IDEAに定
められた規定によれば、、どのような障害を持つ子どもでも、その子の個別の要望に合った
学習を支援するように公立学校の授業を計画する義務があります。
ウィリアムズ症候群の子どもは認知され支援すべき内容もよく理解されているので、
教室でうまくいく子どもたちの数が増え続けています。しかし全員が同じ達成レベルに到
達できるわけではありません。子どもたちの精神能力は皆異なっています。しかし、どの
子も独自の好奇心と学習意欲を持ち合わせています。我が子の言葉に耳を傾け、どんな風
に自分の世界を探検し、どのように自分のことを語るかをよく見ていれば、彼らの渇望と
好奇心をくみ取ってそれを実現さることができます。彼らが最善をつくせるように力を発
揮できる方法を見つけられます。
この資料の中核は、心理学者・教育者などの専門家から得られた経験の集積と、細や
かで献身的な両親の経験を融合させた情報から構成され、どのような能力レベルでも利用
できる学習方法が記載されています。この本で述べられている新しい智恵と知識に基いて
教えることで、私たちの子どもは学習という名の天分の恩恵を受けられます。
「学習プロフィール」を記述する
ウィリアムズ症候群の子どもを教えるにあたって最も大切なことは、彼らが持つ独特
の資質を受け入れ、彼らにとって何が困難かを理解することです。集団として見た場合、
ウィリアムズ症候群の子どもたちは同じような長所短所を持っていますが、この表現は常
に見直すことも必要です。子どもひとりひとりにかなり違っている部分があるからです。
各人に独自の性質・興味・能力が備わっています。動機や決心などの目に見えない要素が
学業成績に重要な役割を持ちます。違いがあることを理解していただいた上で、学校にお
ける効果的な学習計画作成のガイドとなる「典型的」な学習プロフィールを提示します。
知能指数(IQ)による評価は不完全である
ウィリアムズ症候群の子どもの多くは多かれ少なかれ学習障害があります。何人かは
平均レベル、大部分は境界付近、その他は軽度の精神遅滞で、ごく少数が重度の精神遅滞
レベルにあります。しかし、知能指数の数字は子どもの能力や問題点を適確に示す値より
はるかに低い値を示します。ウィリアムズ症候群の子どもに関して広範な研究を行った専
門家によれば、知能指数の値そのものはしばしば能力の山や谷の大部分を覆い隠して見え
なくします。
例えば、カレン・リバイン博士(Dr. Karen Levine)が書いたウィリアムズ症候群の
子どもの教育ガイドである「教師への情報」(ウィリアムズ症候群協会=WSA発行:
資料番号5-1-01
)には、「6才で同年令の子供と同じくらいの語彙と知識の貯えがありますが、
字を読んだり計算したりという能力は3才児程度しかない、ということがめずらしくあり
ません。」と書かれています。これらの事実は子どもたちにとって最適のクラスや授業計画
を作成する際に考慮する必要があります。どんな場合でも、資格を持った専門家による個
人評価を受けて、長所短所を見つけて教育計画の基礎にすることが必要です。
「長所を強調する」ことが好結果を生む
典型的なウィリアムズ症候群の学習プロフィールに見られる特徴には、学習に適する
可能性のある行動的・性格的・認知的長所が含まれます。一般的に言って、成功するため
には欠点をカバーするようにこれらの長所をうまく育成する対応ができるかどうかが鍵に
なります。
ウィリアムズ症候群の子どもの教育体験に関してWSAが行った調査で、両親が効果的
だったと感じた学校の教育プログラムや方針が調べられました。調査に応じた両親の意見
では、成功に至る最も重要な要素は、子どもの長所を理解し利用することに関する教師の
技能と感受性でした。「長所を強調」するノウハウを有し、長所を励まし育てられる教師が
存在することは、教育プログラムの内容とは無関係に重要です。
両親から見て有能な教師が持つ特質は、柔軟性・困難な目標に到達するために様々な
方法を見つけるやる気・創造性・優れたコミュニケーション能力・一貫性・「君ならやれる
よ」という態度・適切な規律・自己尊重精神の確立などです。
この章で取り上げる事項
この章ではウィリアムズ症候群の子どもの学習プロフィールとして頻繁に見られる特
徴を取り上げますが、子どもの特徴のすべては書ききれないことをご了解ください。彼ら
の長所や短所が読み書きや計算などの知的能力にどのように影響を及ぼすかを考察し、彼
ら自身の能力を最大限に発揮する有効な方法を紹介します。
次の章では、お子さんの学習要望に合った教育プログラムの提供を受けるためには、
どのように学校側と協力すればよいかを検討します。IDEAの規定下で適切なサービスを受
けるお子さんの権利、個人個人の長所・短所と学習パターンを適確にとらえた心理的かつ
教育的評価、お子さんの擁護者として最も効果的な対応方法などが含まれます。
お互いから学び合える
今現在でも学習パターンや教育方法が研究されています。正式な研究によって集めら
れ貴重な情報に加えて、私たちはお互いからも学び合うことができます。よいことでも悪
いことでも、自分の経験をインターネット(WSAオンラインのアドレスはこの章の最後をご
覧下さい)やWSAのニュースレターのページを使ってみんなで共有しましょう。子どもた
ちの特徴や成功事例をたくさん知れば知るほど、ひとりひとりの可能性が広がります。
学習に関する共通的な長所の概要
ウィリアムズ症候群の子どもの両親や担任としての教師たちが指摘する顕著な長所は
次のようなものです。
言語が好き:話し言葉に優れている点は、ウィリアムズ症候群の大部分の子どもに備わっ
ている大きな長所です。言葉が出る時期が遅いという事実にもかかわらず、語彙はとても
豊富であることが多く、多彩で叙述的な言葉や文章を使うことが目につきます。ほとんど
の子どもは正しい文法や文章構造を使い、文節の切れ目がわかるように明確に話します。
優れた言語能力が全般的な認知能力を反映していないことを認識しておくことも大切
です。一般的には他の機能は言語と同じ程高いレベルにはありません。
情報の長期記憶:ウィリアムズ症候群の子どもは新しいことを覚えることは苦手ですが、
名前や出来事などを一度覚えると、その後長いあいだ記憶しています。この能力は、電話
番号やロッカー番号などの聴覚暗記情報で特に顕著に発揮されます。語彙や文法に優れて
いることにも関係があります。
敏感な聴覚:ウィリアムズ症候群の子どもは聴覚がとても敏感な傾向にあり、耳から情報
を得ることに優れています。教育には聴覚・視覚・運動知覚(kinesthetic)などのさまざまな
学習チャネルが存在します。ウィリアムズ症候群の子どもの聴覚チャネルが優れているこ
とは、彼らが学習する時、特に読み方を覚える時に重要な影響があります。大きな声で読
まれた物語を数回聞くだけで、一言一句間違いなく覚えてしまうことも珍しいことではあ
りません。単語を覚える能力を獲得するための準備段階としての文字の音を聞くことを基
礎とする音素手法(Phonetic Approach)は、その他の手法と組み合わせることでよい成果を
上げることが多いようです。(下記の「読み」の項参照)
絵から学ぶ:耳から聞くことに加えて、写真やイラストやビデオなどから情報を得て学習
効果が促進されることもあります。視覚は主要なチャネルではありませんが、ウィリアム
ズ症候群の子どもは臨場感のある視覚補助を楽しく感じて、そこから恩恵を受けることが
できます。
体験から学ぶ:私たちの子どもの多くにとっては運動知覚チャネルから学習する能力も大
切です。たいていの場合彼らはロールプレイや実生活体験などを通して物体に触ったり扱
うといった体験学習にとても前向きに取り組みます。
音楽を楽しむ:ウィリアムズ症候群の子どもに共通している音楽感覚が優れている(そして
すばらしい才能があることも多い)という点は、学習のあらゆる面の進歩に多大な貢献をし
ます。歌の助けを借りて算術計算や言語などの学科を学ぶことができます。音楽・リズム・
テンポ等の知識を使って算数の概念、特に私たちの子どもにとっては理解が難しい分数な
どを教えるという、期待できそうな研究も行われています。
私たちの子どもの多くにとって、音楽を好きになることは彼らの存在の核となるもの
です。バンドに参加しえ演奏する、楽器を習う、聖歌隊や合唱隊で歌う、ミュージカルに
出演するなどは学校生活の中でも最もすばらしい体験です。彼らが興味を示したときには、
音楽活動に参加する機会を積極的に与えることが学校における授業の大切な要素です。
個性の強み:社会性・共感・情熱、これらは学校活動への参加や前向きな取り組み姿勢に
つなげられます。ウィリアムズ症候群の子どもは他者と関わり合いたいという強い欲求が
あるため、特別な活動を小グループで行うと成功することが多いようです。
どんな障害が学習を妨げるか?
先に述べた長所は障害を乗り越えるための回り道になり得ます。しかし、学習プロセ
スを邪魔し、自信を損ねさせる原因をまず理解する必要があります。ウィリアムズ症候群
の子どもに見られるこのプロセスを知ることで、関連障害が微妙に入り組んで複合してい
ることがわかります。
微細運動及び目と手の協調動作:ウィリアムズ症候群の生徒の大部分にとって、指を巧み
に使うことが必要な技能には困難が伴います。文字や数字を書くことは、書くべき線から
鉛筆が外れたり、紙に穴をあけるなど強いストレスを生みます。はさみで正確に切ること、
線の内側に色を塗ることなどもストレスにつながります。多くの子どもが、くつの紐を結
ぶ、食べ物を切る、シャツや上着のボタンをはめるなどといった日常生活に必要とされる
技能にも困難を感じます。
運動能力の問題があるにもかかわらず、ピアノなどの楽器の演奏に必要な指使いを学
んで習得する人もたくさんいます。このような能力は必ずしも伝統的な微細運動能力評価
の項目には取り上げられていません。楽器を練習することが、文字を書くというような他
の技能に必要な運動能力の強化に役に立つ子どももいる可能性がありますが、この分野の
研究は進んでいません。
視覚処理技能:前にも書いたとおり、ウィリアムズ症候群の子どもは聴覚チャネルから入
ってきた情報を取りこみやすい傾向があります。つまり聞いたことは簡単に処理できます。
それに比較して視覚処理は難しいようです。(これは視力の問題ではなく、視覚から入力さ
れた情報を脳内で順序つけ解釈する方法に問題があるようです)。視覚処理の問題は次の述
べるように学習のつまずきの原因になります。
視覚運動協調:「見る」と「行う」を協調させることが必要な課題は特に難しいようです。
視覚運動統合課題の例としては、黒板や教科書の文字や数字を書き写すこと、物体を描く
こと、微細運動や粗大運動の組み合わせ課題を見てそれをまねること等が含まれます。
視空間技能(visual-spatial skills):この用語はウィリアムズ症候群の大部分の子どもに共通
して見られる特長的な問題に関連します。簡単に言うと、物体の空間的な位置を理解した
り分析する能力の問題です。距離・奥行き・形・大きさ・体積・前景と背景の違いなどに
関する感覚に影響を与えています。「木を見て森を見ず」という傾向が顕著で、部分や詳細
の集合として全体像を把握することが極めて困難です。
一例として、自転車の絵を描くように指示された9才児は、紙一面に散らばるハンド
ル・ペダル・シート・ハンドルバーなどの部品を描きました。(これはアースラ・ベルージ
博士(Dr. Ursula Belugi)の研究の一部です。彼女は同程度の認知レベルを呈する発達障害を
持つ他の同年代の子どもには、このような視空間障害がないことを報告しています。)
視空間技能の障害は算数のときにクロースアップされます。あなたのお子さんは、例
えば、アナログ式の時計を読めない、1ページに問題がたくさん書かれたドリルができない、
グラフや表を読めないことがあります。ある7年生は、母親にコップの半分の位置を正確
に指差してもらわなければ、どこまで水を入れればコップを一杯にできるかが「見え」ま
せん。日常生活においても視空間技能は次のようないろいろな問題の原因になります。階
段の上り下り、教室から体育館や食堂の方向、安全に道路を渡ること、野球やサッカーな
どのチームスポーツなどです。
組織構成:述べてきた問題が組み合さって、組織構成を創れないという新たな問題を生み
出します。順序つけ、つまり「論理的な順序で物事を考える」ことが問題になります。私
たちは目標に到達するためのたくさんの段階を明確にし(覚える)、それらを全体として順序
つけてイメージしたり見たりしなければいけません。ある10代の青年はファーストフード
店で放課後働いていますが、しばしば混乱します。彼はベーグルにクリームチーズを塗り
広げ、それを包み、紙袋に入れなければいけません。運動視覚協調技能・視空間能力・順
序つけの能力を必要とする課題です。ベッドメイキングや歯磨きなどの日常生活を心象イ
メージとして捉え、覚えることが難しいかもしれません。物事や課題や任務や日常的な仕
事を順番に行うために、両親・教師・教室補助員などの介助を必要とする子どもがたくさ
んいます。
高次思考能力:教育の専門家によれば、絵の全体像より細部を見る傾向がある場合は、高
次思考能力にも影響がある可能性が考えられるそうです。最初に細かいことを考えてしま
うと、原因と結果の関係・予想・推論・まとめ・結論を間違えたり、読んでいるものの主
題を見失う可能性があります。
意思の疎通:ウィリアムズ症候群の人の多くは、人の顔を記憶したり表情を読み取ること
が上手である一方、しぐさや姿勢などの非言語的な意思の疎通に問題があることも共通し
ています。意思の疎通の大部分は非言語的であるため、社会的能力に対する本質的な障壁
になる可能性があり、慎重に計画された療法を受けさせることが必要です。
意思の疎通に関してその他に注意すべき問題を次に掲げます。話しが長すぎること、
会話が一つのテーマに固執すること、お気に入りの話題を何度も繰り返すこと、語彙は豊
富であるにもかかわらず単語を思い出せない(適切な単語や質問への回答が出てこない)こ
と、主題を明確にするように首尾一貫して話せないことなどです。
行動面の特徴:共通的に見られるある行動面の障害のため、教室では慎重に対応すること
が必要です。注意が長続きしないことや気が散りやすく衝動的であることから、指示にし
たがうこと、席に座りつづけること、課題を完成させることが難しくなります。さらに、
気分を調節することが上手でないため、楽しくて興奮しすぎたり、回りから見るとたいし
た混乱でもないのに涙や怒りを押さえられなくなります。予定などの変更や環境の変化に
対して極度の不安を持つこともよく見られます。
音に対する過敏さ:避難訓練や学校の始業ベルなどの音や騒音に対する過剰な反応がある
ので、学校生活の妨げになったり、学校へ行くことを怖がったりします。教師や親によっ
てこれらの反応を段階的にコントロールできる創造的な対応策があります。
効果的な教育戦略を見つけて利用する
先に述べた長所や障害は「教える」時の重要な手がかりになります。私たちの子ども
の多くは読書・算数・書き方など学問的な教科が不得意できらいですが、十分に考えられ
た指示をすれば大きな効果があります。彼らに必要な援助を与えながら教えると、子ども
たちは驚くほどの進歩を見せ、予想も出来なかったレベルに到達します。レベルは様々で
すが、個人の持つ潜在能力水準に到達できます。大人になって働いて充実した一人暮しが
できることにつながる技能を獲得できます。
後続のページで紹介する多くの戦略は、両親から効果的な教育方針を聞き出した教育
調査(前述)に基づいています。私たちの子どもとうまくやっている先生や心理学者からのヒ
ントも含まれています。これらのアイデアは絶対ではなく、現在行われている研究成果が
でらば、私たちにさらに確固たる情報を与えてくれるでしょう。しかし、本書のアイデア
もたいていの場合うまく機能します。ひとつの方法がすべての人に当てはまらないことも
事実ですが、わたしたち全員がこれらの成功体験から何かを得ることができるはずです。
読み方を学ぶ
WSAのニュースレター“Heart to Heart”に掲載された記事で、ナンシー・グレジタ
ック(Nancy Grejtak)が紹介するウィリアムズ症候群の子どもに読み方を教える方法には次
のように書いてあります。
読み方を覚えることは子どもの教育において最も重要な要素です。その子が持つ能力
レベルに関わらず、すべての子どもは一人暮しや大学進学などの可能性の扉を開ける才能
を持つ価値があります。たとえ認知能力が低くても、文字が読めれば世の中のサインにし
たがって暮していけます。メニューを読む、食品やクスリのラベルを読む、買い物をする、
週刊誌や新聞かの記事から内容を読み取ることが可能です。つまり、将来ある程度の一人
暮しを期待できます。少なくとも5年生レベルの文字を読める高い能力を持っている人は、
ある程度の技能を要する職業につくことを期待できます。彼らは労働者に必要と見なされ
ている基礎能力を身につけています。
子どもの能力を最大限に発揮して読み方を学ぶために、親として学校に何を求めるべ
きでしょうか? 子どもたちは書かれた文字という暗号を解読する方法をどのようにして
学ぶのでしょうか? どのように読み方を学習する意識付けや励ましを行えば良いのでし
ょうか? 単語を解読する方法を覚えた後、どのようにして書かれた文章に込められた考え
や意味を理解させれば良いのでしょうか?
あらゆる学問的な教科の中で、読み方はウィリアムズ症候群の子どもにとって最も学
習しやすく楽しい教科です。しかし、もしあなたのお子さんが読み方を覚えることに苦労
をしているならば、次に述べるような方法をチェックし、お子さんの先生に教えてあげる
ことを強く勧めます。あなたはお子さんの擁護者として、その子に最も適した教え方を採
用するように要請する権利を持っています。
音素を基礎とした読み方の勉強方法(Phonics-based approach to reading):ウィリアムズ症
候群の子どもの親や教師の経験によれば、読み方の基礎を学ぶには慎重に考慮された音素
を使った方法が成功への近道です。この方法は私たちの子どもにとって理にかなった自然
な教え方です。音への敏感さと、耳から覚える能力を利用しているからです。
ある技能を教える場合、私たちの子どもの大部分には相互に関連した段階的方法(直
接指示:direct instructionと呼ばれる)が効果的です。直接指示法においては、生徒たち
はひとつの能力を完全に獲得し終ってから次の新しい能力獲得に取り組みます。両親に対
するWSAの調査によれば、うまくいった直接指示法のプログラムとして“Reading
Mastery”と“Corrective Reading”が挙げられます。どちらもSRA/McGraw-Hillから出
版されています(価格が掲載されたパンフレットやカタログが必要な方は800-843-8855に
電話してください。あなたやお子さんの先生がもっと詳しく内容を知りたければ、プログ
ラム概要ガイドを取り寄せてください。)
音素を使った方法の主要なポイントは次のようなものです。
- 解読:第1段階。印刷された紙に書かれた文字を見せる前に、子どもたちには音(音
素:phonemes)を教えなければいけません。母音・子音、そして特別の音を持つ組
み合せ文字(sh、oi、ea)などです。音素の理解(phonetic awareness)は、音まねる
こと、韻を踏むこと、単語を音節に分解すること、単語を作るために音を組あわせ
ることが含まれています。家でお子さんと一緒に音素遊び(phonetic game)をしてあ
げることで、音や文字を組み合わせる練習になります。(電話帳の学習教材の項を調
べてみてください。) 音を出す遊びを行うことで、この基礎学習がぐっと楽しくな
ります。
- 音を組み合わせる。先生が音を組み合わせる方法をまねすることで、こどもは一連
の音が実際の単語として聞こえるようになります。一連の音とその音が示す単語を
覚えるためには練習することがとても重要です。
- 音と文字を結びつける。専門家の中には、私たちのこどもは文字の名前そのものを
覚えない方が良いと言う意見があります。それより、文字を見た時に正しい音を繰
り返せることのほうが大切だと言います。例えば“r”を見て“rrrrr”とか、
“m”を見て“mmmmm”のようにです。
- 他の感覚を利用する。ほとんどの子どもたちは、文字そのものを見た時にその文字
の持つ音を繰り返し発音することで文字と音を結び付けます。他の感覚を利用する
とでその関連付けを強めることが可能です。この多感覚戦略には、空中に文字を書
く、文字をなぞる、文字を感じる(文字の形に切り抜いた紙やすりに触るなど)、発音
しながら書くなどが含まれます。
- 単語を読む。次のステップは読みやすい文章や簡単なお話に含まれる単語を読むこ
とで、既に解読されている単語を組み合わせます。ここはとても不思議なステップ
で、印刷されたページが意味を持ちます。「ぼくにもできた!」という感覚が次なる
進展の刺激となり、声に出して読む練習を新しい能力へと変えていきます。直接指
示法を使って読み方の練習を始めた当初は、学習した文字だけを使った単語や文章
を使用します。練習に継ぐ練習が重要です。そして、うまくいったらほめてあげて
ください。
- 「見る」ことで単語を学習する。全ての単語を声に出して覚えるのではなく、単語
によっては目で見て覚えることが次のステップですが、これはさらに難しくなりま
す。単語と絵が描いてあるカードを使うlottoゲームをお子さんと一緒にすることも
効果があります。絵と関係がある単語を繰り返し発音すると、子どもたちの優れた
聴覚記憶能力が学習を促進してくれます。
始めて見る単語に手がかりを与える: “said”や“was”や“the”などは解読不可能な文
字ですが、読み方を覚え始めた子どもにとっても重要な単語です。そのような単語が文章
に表れたときには、「単語を見て!、単語を見て!」というように手がかりを与えるとよい
でしょう。彼らがちょっと立ち止まって既に習った単語を思い出せるならば、これと似た
信号を使ってもいいでしょう。
音素と「総合言語」教育(“Whole Language” teaching)を結合させる
読み方を覚えるための総合言語教育は、子どもたちをまだ読んだことのない本に触れ
させ、自ら文学作品の中の単語を学ばせることが基本です。教育者の間で、音素アプロー
チと総合言語アプローチについて長年議論が行われてきました。しかし、両者は二者択一
の関係ではありません。音素法で単語の解読能力を身につけた子どもも、豊かな子ども向
けの文学作品を読むべきです。
お子さんに本を読み聞かせることはとてもすばらしい経験を与えることになります。
図書館に出かけて新しい本を探してきて一緒に読むことは、自分たちのために読む楽しみ
を獲得できるお金がかからない方法です。大きな声で本を読み聞かせてもらうことで子ど
もの語彙は豊富になり、単語を解読して意味を覚えていきます。たいていの学校には「本
読みセンター(reading centers)」があり、子どもたちが小人数のグループに分かれてテープ
に録音された物語を聞き、そのあと印刷された文章を受取ります。年齢や興味のレベルに
合わせて選ばれた本は、構造的教育を補完し自分のいる世界に対する子どもたちの理解を
深めてくれます。
プリシラ・ベイル(Priscilla L.Vail)が書いてModern Learning Press社(Rosemont, NJ)
から発行されている“Common Ground”というすばらしい本では、幼稚園から4年生まで
の範囲で総合言語と音素を一緒に教える方法が記述されています。この本には、子どもた
ちの興味を引き出して、読む能力を段階的に発達させる練習につながる物語や本に関する
貴重な洞察が書かれています。
動機
動機が見えてこない子どもたちがいます。彼らは読み方を覚えるために必要な課題の
重要ポイントが見えていないのでしょう。カリフォルニア州立ポモナ大学(Pomona College
in California)で読書技能プログラム(Reading Skills Program)の責任者を務めるキャロ
ル・コンフォート(Carol Comfort)は、動機は子どもが読むことに情熱を傾けるのに必要不
可欠であると感じています。
「私自身の娘は本に囲まれそれを読む環境で育ちました。それでも、娘に本を読ませ
る方法は見つけられませんでした。読み方を教えるいろいろな方法を試しましたが、どれ
もうまくきませんでした。しかし、娘が10才か11才のとき突然に読むことが「必要」だ
と悟ったようです。ポップミュージシャンのThe Backstreet Boysに熱を上げたことが読
むことへの興味をかきたてました。読むことへの興味をさらに強めたいと思い、人気バン
ドの記事が掲載されている雑誌や本を見つけられる限り買い与えるました。その結果は期
待を裏切りませんでした。」とキャロルは書いています。
娘の読む力は優れてはいないけれども、かなり上達したとキャロル・コンフォートは
報告しています。「面白いことに、学校の教材を読むよりティーンエージャー向けの雑誌の
方が読みやすそうです。多くの研究者の報告によれば、子どもも大人も読む本を自分で選
んだ場合のほうが、よく本を読み困難も感じないそうです」。
その他の親も、上手に本を選ぶことで、そこに書いてあったことと自分自身の経験を
結びつけることができて、子どもの理解力向上に結びつくとに気がついています。私たち
の子どもの多くが、消防車や芝刈機さらには列車や楽器などお気に入りの記事が掲載され
た雑誌やパンフレットのコレクションから読むことを覚え始めます。
自分で選んだ本に集中するよう励ますことは、自分で読む練習をすることにもつなが
ります。自習することはしっかりした読む力を身につけるためには大切なことです。
私たちの子どもは創造的な物語を語れる子どもたちです。読む興味をかきたてるアイ
デアとして、子どもの話す物語を書き取って、それを声に出して読んであげる方法があり
ます。自分自身が話した言葉を見るので活字を容易に理解でき、もっと読んでみようとい
う気にさせます。
理解
活字が印刷されたページには単語が集められているだけではありません。書かれてい
る意味を理解することが読むことの本質です。私たちの子どもの多くは、この「理解」す
ることにおいて手助けを必要としています。前に述べた「とるにたらない細部ではなく概
観を把握」できないことが困難さの原因の一つです。主題を見つけ出す、出来事の順番を
理解する、物語の中で細部がどのように配置されているか理解する、などには直接的な指
示を必要とします。
次に掲げる事例は理解や読む楽しみを与える方法です。(子どもたちの理解力や読む
力はそれぞれ異なっていることに注意してください。)
話させる: 子どもが音読している途中で、しばしば中断させて文章の中で何が起こってい
るかを質問してください。これは子どもの話ずきな言語能力を利用した方法です。ひとつ
かふたつの段落を読み終った時に、理解しているかどうか確認してください。考えを大き
な声で話させてください。次ように質問してみてください。「なぜ彼はそう言ったのか
な?」とか「次はどうなると思う?」。教師や親は普通の人が読んだ時の考え方の例を示し
てあげてください。これは「原因と結果」や「影響と予想」など高次思考能力の訓練にも
なります。
補助的な読み方の練習方法に「Think-Alongs」があります。物語とワークブックを使
って読みながら考えるさまざまな方法を提供します。この教材について詳しく知りたい方
は、「Steck-Vaughn Company, P.O.Box 690789, Orlando, Florida 32819 (800-531-5015)
www.steck-vaughn.com」に手紙を出してください。
心象(visualization)の手助け: ウィリアムズ症候群の子どもたちは心象を創ることに問題が
あり、これが文章の理解を邪魔することがあります。あなたの子どもに備わっている言語
能力が読んでいる内容を「見る」ことの手助けになります。心の中にイメージを描く能力
を向上させるために、次のような質問をして下さい。「この物語の女の子はどのな様子をし
ていると思う?」とか「彼女の髪は何色かな?」とか「彼女の背は高いかな、低いかな?」。
心象イメージは子どもたちが描いた場面を思い出して理解を深める時の役に立ちます。
注意:キャロル・コンフォートは自書の中で、文章の中に述べられている事実と矛盾する
場面を「見て」いる子どもたちがいることを報告しています。あなたのお子さんは自分が
読んだ物語を正確に思い描いているかどうか確認が必要になることがあります。
心象(visualization)を教える方法
ナンシー・ベル(Nanci Bell)が書いた「心象と話し言葉:Visualizing and Verbalizing」
(Gander Educational Publishing, 412 Higuera Street, suite 200, San Luis Obispo,
California 93401 (800-554-1819))という系統的な指導プログラムには、明確な質問に大き
な声で答えるという手法を使って心象を「見る」学習方法の詳細なガイドが記述されてい
ます。このプログラムは、読者の心の中にばらばらになった細部だけではなく全体像を作
り上げるように設計されています。「対象物」「大きさ」「色」「個数」「形」「場所」などの
観点から生徒たちが物事を描けるように主要な質問が準備されています。生徒たちがこれ
らのイメージの基本要素から離れることを求める質問もあります。心象を描こうとしてい
る子どもに対して出される重要な指示は、「あなたが見ているものを私にも見せてくださ
い?」です。学習が進んでくると、心象を使って、文章や段落を要約する、主題を読み取
る、今読んだ内容を深く考える、などを行えるようになります。この手法は段階的なので、
利用する場合は一貫して1ステップ進んでいくことで良い結果が期待できます。
流暢さ(fluency): 単語一つ一つの発音につまってしまった結果読む速度が遅すぎると、意
味を読み取ることが難しくなります。テープの録音を聞きながら文章を音読すると読む速
度や流暢さが向上します。二人でいっしょに読むことも良い方法です。簡単な文章から始
めて、交互に読んで行くとお子さんの流暢さが増していきます。(彼らが持っている社交性
を利用します)。お子さんと同時に読む方法(斉読:Choral Readingとも呼ばれます)をゲー
ム感覚で行っても良いでしょう。あなたと同じスピードで読むように指示してください。
ただし、お子さんがついてくるだけで精一杯にならないように、スピードを充分に落す必
要があります。
一対一で教える: その子の持つペースやスタイルに合わせるために、一対一で教えること
が必要な子どももいます。 学校の授業に加えて、子どもの学習方法に適合した読書塾・大
学の読書プログラム・その他様々な教育法を利用している親もいます。指導者との交流は
頼りにもなり、励ましも受けられます。指導の専門家を見つけるには、大学の特殊教育学
部、学習障害者協会(Learning Disability Association)や教育セラピスト協会(Association of
Educational Therapists, 1804 West Burbank Blvd, Burbank, CA 91506(818-843-1183))
などの支部に問い合わせてください。教育を受け経験を積んだ信頼できる読み方の指導者
であるかどうか資格証明書を確認することを薦めます。
読み方の障害を克服するためにお子さんの指導をしてくれる専門家の替わりとして、
親戚や友達や経験豊かなベビーシッターなどが非専門家としての候補になります。彼らに
本を読み聞かせてもらったり、斉読などの課題の手伝いを頼めます。
便宜をはかる: 高学年になると、歴史や科学などの教科についていくために、お子さんに
対してなんらかの便宜をはかる必要がでてくる可能性があります。(連邦法によれば、お子
さんには学習に必要な便宜を受ける権利があります。次章ではこれらの権利に関する情報、
そしてお子さんのために権利をどうやって行使するかについて詳しく述べます)。例えば、
- 教室補助員の助けを借りて、読書課題を簡単なものに変更したり再作成する。
- 子どもが家庭で予習・復習を行う機会を得られるように、学校に補助図書教材を準
備させる。
- 印刷された教材の替わりにテープに録音された教材を使用する。録音教材の主要な
提供者は、“Recording for the Blind and Dyslexia:RFBD”(20 Roszel Road,
Princeton, New Jersey, 08540. (609-452-0606))です。National NPOであるRFBは
視覚障害・精神障害・認知障害などを持つ人向けに録音教材を提供しています。適
格者(専門家による認定が必要)にはテープが無料で貸し出されます。利用できるテー
プが無い場合は、教材を録音するように依頼することも可能です。録音には時間が
かかるので、時間的に余裕を持って事前に依頼してください。利用方法についても
っと詳しくお知りになりたい方は、RFBに手紙を書くかホームページ
(www.rfbd.org)にアクセスしてください。
小説・詩・雑誌などを録音したテープである「聞く本」(Talking Books)が、National Library
Service for Blind and Physically HandicappedやThe Library of Congress (NLS)から提供
されています。(お探しの本が利用可能かどうか、どちらかに確認してみてください)。こ
のサービスを利用する場合も専門家による認定が必要です。詳しくお知りになりたい場合、
あるいは「聞く本」を貸し出しているNLSの支所を見つけるためには、NLS, 1291 Taylor
Street N.W. Washington, D,C, 20542に手紙を書くか、202-707-5100に電話を掛けてくだ
さい。(ホームページは www.loc.gov/nls です)。
算数
算数は私たちの子どもの大部分にとって、読むことよりもっと難しい傾向があります。
まず量に関するしっかりした概念を身に着けてから記号処理に進み、その後で概念的問題
を解くという順序で慎重に計画を立てることが大切です。触る・見る・聞くなど、子ども
の五感をできるだけ使うように心がけてください。色・ゲーム・おもしろい事例・日常生
活に出てくる物などを利用すると算数が身近に感じられます。算数の能力を身に着けるた
めにたくさんのプログラムが提供されています。TouchMath(Innovative Learning
Concepts, 6760 Corporate Drive, Colorado Springs, Co 80919. www.touchmath.com
800-888-9191)は、触る・見る・聞く・興味を引きやる気を引き出す・グラフを楽しむな
どの手法を使うことに主眼を置いた学習方法で、全学年向けに算数教材を提供しています。
IntelliToolsは障害児が学校の教室で使うためのソフトウェアを開発しています。(1720
Corporate Circle, Petaluma California 94954)。その他にもTeaching Math to Student
with LDがProEd, 8700 Shoal Creek Blvd., Austin Texas, 78757から発刊されています。
教え方
これから述べる方法はウィリアムズ症候群の子どもに効果があった教え方の一例です。
これらは算数を教える厳密な方法ではありませんが、親や教師が実際にやってみてうまく
いったというノウハウです。
物体を取り扱う:実物を見ること、あるいは手で扱わせることによって数の概念を教えや
すくなります。ポーカーのチップ・タイル・サイコロ・小さなブロック(色形が同じ)などど
んな物でもかまいません。運動知覚(kinesthtic sense)を利用することで、具体的な意味を
伴った数の視覚的概念が作り上げられます。ある子どもは、かばん一杯の小さなクマの人
形を使った数を数える練習がとても楽しかったと言います。クマを一列に並べたり、ペア
にしたり、別のグループするなど、いろいろな形態にする行動を通して、その子は数量保
存の概念、すなわち4個の物体はどんな形に配置しても4個でありつづけることを学びま
した。
具象物の扱いから数字(記号)を書くことへ:数の基本概念を身につけたら、具象物の数を記
号に置きかえるという次の段階に進みます。例えば、子どもが2個のサイコロを手に取り、
次に2という数字を見て、それを声に出して発音し、紙にその数字を書きます。経験豊か
な教師は自然数の視覚イメージを作るために色を使うことを薦めています。その他、紙に
数字を書く前に手で空中に文字を書かかせるという提案もあります。
数学定理を学ぶ:数学の定理は私たちの子どもにとっては拷問にも等しいものです。イメ
ージしやすい具体的な物を使うことが理解と熟達への鍵となります。例えばタイルを使う
と、2枚のタイルにあと何枚加えれば4枚になるかという問題を目で見て数えることができ
ます。その後で言葉で計算過程を説明し数字を書いてみます。「記号を使う」というレベル
への跳躍には時間がかかります。一回の勉強は短時間で楽しいことが大切で、常に成功体
験を与えることを忘れないで下さい。
引き算は同じ方法で教えられます。1行に並んだ物を一度に加える(例えば1行に2
個ずつの物を3行)ことで掛け算の基礎概念を学べます。
数字列を使う:数字列、すなわちページの最上部に一列に並べて書かれた数字はとても役
に立ちます。生徒が指を使って列の数字を上がり下がりするだけで、算数の簡単な真理を
理解できます。前向きに数えて足し、後ろ向きに数えて引くというこの手法は、計算をう
まく覚えられない時に利用できて、TouchMathの替わりになります。
10より大きい数を教える:1から10までの数を扱う初期段階が過ぎると、もっと大きな数
を学ぶための新しい道具を使います。例えば、大きなタイルやチップやブロックは10を示
すものとして利用できます。10個の小さなチップを大きなチップと交換することで、10が
何を意味するか具体的に理解できます。「10を示す部品」に数個の小さな部品を加えること
で、11や12や13などといった大きな数字を構築することができます。この方法は、皆が
同じように苦労するお金の概念やお金の数えかたを教える方法にもなります。
計算練習では1ページの問題の数を減らそう:問題が満載されたページはやる気を無くさ
せます。子どもによっては、計算ドリルの問題をコピーして1ページにある計算問題の数
を減らすことが必要です。あるいは、1度に一問ずつ取り組めるように白紙でページを覆い、
他の問題が目に入って気が散らないようにするのもいいでしょう。
紙を横に置こう:罫線が入った紙を横向きに置くと、数字の桁合わせが簡単になります。
数字の位置合わせのために普通に使われる桝目の入った用紙を使うと、視空間処理に問題
のある私たちの子どもは混乱することがあります。
長さや量・時間・お金などの概念には実例を使おう:難しい概念も普段の生活に結び付け
ると理解できるようになります。ピザを切り分けたり、レシピに沿って料理を作りケーキ
を焼くことが量を測る(半分や4分の1という分数など)ことのよい演習になります。
お店屋さんごっこは楽しくお金の価値の基本を教えられる遊びです。いろいろな商品
の値札を見ながら本物に近いおもちゃのお札を使うことで、子どもは1ドル札でどれくら
いの物が買えるかを学ぶことができます。実際のお金を使ってお菓子やおもちゃの購入の
ような簡単な取引を行うともっと現実的です。一方で、カレン・リバイン(Karen Levine)
はお金の概念を獲得できない子供が存在することを指摘しています。彼らがもっと簡単に
理解できるように先に次の段階に進むことを教師が認めることも必要です。
便宜をはかる:大きな数の割り算や掛け算を習得できるウィリアムズ症候群の子どもはた
くさんいますが、覚えられない子どもも存在します。そのような場合は、算数課題を解く
ために電卓の使い方を教えると非常に役立ちます。特別な教育が必要だと認定された子ど
もには、教室で様々な便宜(accommodations:計算機など)をはかることが必要です。
音楽と算数:音楽を利用して算数を教える方法がすばらしい可能性を見せてくれます。音
楽と算数を教えているスコット・ビオール(Scott Beall)が、
Heart To Heartの2000年9月号の記事
でこの可能性について語っています。彼は著名な編集者で、複数の知性(Multiple
Intelligences)を唱えるハワード・ガードナー(Howard Gardner)の示唆にとんだ書物からヒ
ントを得ました。教育とは知的発達だけに注目することではなく、音楽的才能・手先の器
用さ・身体能力などの知性(intelligences)に気が付くべきだとガードナーは言います。この
理論に基いてビオールは音楽と算数を統合した教え方を捜し求め、自書(Functional
Melodies ? Finding Mathematical Relationship in Music(Key Curriculum Press))の中で
革新的な高校のカリキュラムを書き記しています。1999年にビオールはコネチカット大学
(University of Connecticut)で開催されたウィリアムズ症候群の人を対象する9日間
の"Music and Mind program"において算数の授業を行いました。彼の目標は、ウィリアム
ズ症候群の人の著しい弱点である算数を教える際に、典型的な長所である音楽的才能を利
用する方法を見つけることでした。新しい学習方法につながる興味深い結果が得られまし
た。
ビオールは足し算・引き算・掛け算・割り算などの算数の技術をリズムパターンによ
って教えようとしました。その成果は小学校の生徒を対象とした新著の基礎になっていま
す。(彼の活動についてもっと知りたい方は、www.scottbeall.comをご覧下さい)。
先進的なポスト中等教育プログラムであるバークシャー音楽アカデミー(Berkshire
Music Academy)は教育過程のあらゆる面に音楽を組みこんでいます。同アカデミーはウィ
リアムズ症候群基金(Williams Syndrome Foundation)によってマサチューセッツ州サウ
ス・ハドレイ(South Hadley, Massachusetts)に創設されました。(アカデミーの教育課程に
ついて知りたい場合は、berkshirehill@org のホームページをご覧下さい)。
歌とリズムを使おう:算数的な事実を補強するために歌とリズムを利用しましょう。「ゼロ
は何を掛けてもゼロ」などの規則は、自分だけの歌を作って覚えるように助言してくださ
い。リズム感と韻を踏んだパターンを使うと九九のような数字の規則を覚えるのに役立ち
ます。覚えやすい言葉と音楽を使って算数を教える教材(Rock'N LearnのテープやCDな
ど)が売られており、これを使うと楽しく勉強が出来ます。(Rock'N Learn, P.O.Box 3595,
Conroe, Texas 77305, 1-800-348-8445. www.rocknlean.com)
書く
書くことは自分の考えや感情を表現し他人と意思疎通を行うためのすばらしい手段で
す。学校や職場でも必須の技術です。しかし、視覚と運動の協調や視空間能力に問題があ
るウィリアムズ症候群の人々の多くにとって字を手書きすることはつまずきのもとです。
字を書くことの初歩を教える際には、上手に励まして、フラストレーションを溜めたり、
うまくいかないという思いにとらわれないように注意深く教えることが大切です。
全体的に見て、紙と鉛筆を使う課題は最小限に抑える、練習は短時間で楽しくする、
成功体験を増やしてたくさん褒める、必要な便宜をはかることが大切です。これから述べ
る手法は、ウィリアムズ症候群の子どもに字の書き方を教える戦略や作文で自分自身を表
現させる方法の一例です。
鉛筆の持ち方を覚える:字を書くために、微細運動能力を強化する、鉛筆の持ち方と使い
方を覚える、正しい姿勢を保つ方法を教えるためには多くの場合作業療法を受けることが
必要です。あなたのお子さんが鉛筆などの筆記用具を持つ微細運動能力を身につける際に、
同じクラスの他の子どもたちより時間がかかったとしても気にしないで下さい。字の形を
初めて覚えるためには別の方法もあります。あまり微細運動能力を必要としない方法、例
えば絵筆やチョークを使う、砂の上に指で書く、フィンガーペイントなどを利用しましょ
う。
多感覚アプローチを使う:愉快で効果がある段階的な方法を記述した「Handwriting
Without Tears(distributed by Fred Sammons, Inc. Box 32, Brookfield, IL 60513, 800-
323-7305」という本には、たくさんの実践的な学習方法が紹介されています。例えば、水
でぬらした小さなスポンジで粘土板に字を書くことで文字の形を覚えることができます
(粘土板の四角い形が文字を書く範囲を覚える目安になります)。同じ経路をたどってペー
パータオルで字を消すことで、字を書く動きを強化できます。作業療法士であり献身的な
教師でもある著者のジャン・オルセン(Jan Z. Olsen)は、半円や四角いブロックを使って生
徒に字の輪郭形状を教えています。このような多感覚を利用したアイデアの他にも、この
本には、たくさんの効果的な方法が教育の初心者向けに詳しく紹介されています。
言語能力に頼る:私たちの子どもは言語能力が高いので、文字を書く時でも言葉による指
示を与えるとたいへん効果的です。Sensible Pencil:リンダ・ベクト著 (Linda Becht:
EBSCO Curriculum Materials. P.O.Box 1943, Birmingham Alabama 35201))というプロ
グラムガイドには、「下ろす」「円く」「上げる」などの鉛筆の動きを言葉で指示する方法が
記されています。字を書く前の練習として、ワークシートに基本的な線や形を書き、その
後これらの要素を組み合わせてアルファベット文字を書く練習方法もあります。ウィリア
ムズ症候群の子どもには、言葉で指示だす方法は非常に効果的です。
傾斜板が役立つ:傾斜板は合成樹脂ガラスで作られたクリップボードで、机の面に対して
20度程傾けて設置するだけの単純な補助具です。この角度は字を書くために頭と体と目を
適正な位置に保ちます。傾斜板を使うと、手を正しい姿勢にすることが容易で、傾斜面上
に手を置くことが簡単になります。
字が浮き上がる紙(“Raised line” paper):この紙は文字通り印刷された線が盛り上がり、
どこに文字が書かれているか正確に感じ取れます。この文字が浮き上がる紙を使って練習
すれば、初めての生徒でも、いらいらせずに失敗することもなく字を書く際に良い習慣を
身に付けられます。
口述をする:WSニュースレターに掲載された記事の中で、ナンシー・グレジタックは親や
教師が書いた文章を読み上げさせることを薦めています。その後、その子に同じ文章をす
ぐ下の行に書き写させます。「必要に応じて、その課題の最中に子どもに語りかけてくださ
い。例えば、『あなたが今書いた“a”の字はすてきよ。形が良くて、丸みがあって、きれ
いなしっぽがあるわ』。全部書き終えたら、子どもに一文字ずつ評価させてください。お子
さんとあなたの両方とも基準に達していると判断した字に丸をつけてください。上手に書
けた字の数を数え、いろいろなマイルストーン毎にある種の褒美をあげてください」と、
彼女は書いています。書き写す際には、すぐ上の行(あるいは同じ紙の上)の字か、親か教師
が同じ机の面に置いた用紙から書き写させなさいと彼女は指摘しています。難しくはない
と本人が言わない限り、ウィリアムズ症候群の子どもには黒板に書かれた文字を書き写さ
せてはいけません。
たとえ字を書き写すことができなくても、口述はその子の考えを表現するすばらしい
方法です。文字を書く能力に制限がある子どもでも、口述によって物語を「書く」ことは
すばらしい喜びにつながります。キャロル・コンフォートは、娘のハイジ(Heidi)が5年生
の時に話したパンダの物語を、キャロルがタイプして読んで聞かせたと語っています。ハ
イジは視空間認知や視覚微細運動協調に問題があったため、文字を書き写すことができま
せんでしたが、自分自身で「たのしいお話」を創り上げたことに満足していました。この
事例は小さな文章を作りあげるための効果的な練習方法です。
ワープロの使い方を子どもに教える:私たちの子どもの大半にとって、ワープロは自由を
与える道具、すなわち字を書くことが下手でも文章によって意思疎通を行えるようにする
道具です。基礎的技能の一つとして字を書く能力を身に着けることは重要ですが、小学校
に通っている間にキーボードの使い方をマスターすることも役立ちます。忍耐強く、進む
速度にも注意をはらった個人指導が必要ですが、必ず報われます。
マサチューセッツ州ニュートン市(Newton, Massachusetts)の教育センター
(Educational Department Center)に務める教育者で技術専門家であるロバート・フォラン
スビー(Robert Follansbee)は、ウィリアムズ症候群の子どもはできるだけ早い時期、その
子に合わせて2年生か3年生でキーボードの使い方を習うことを薦めています。しかし、
「この子どもたちを教室のような環境に入れることはやめたほうがいいでしょう。彼らは
自分の上達具合を他の子どもたちと比べがちだからです」、と記しています。そして、キー
ボードを練習している時は、コンピュータに向かって自分の好きな方法で「書く」ことを
認めてあげてください。
書くことをできるだけ減らすよう便宜をはかることもその子の教育方針の一部です。:コン
ピュータを利用することは不得意な文字の手書きを補う方法の一つです。普通学級に通う
ウィリアムズ症候群の子どもたちには、次のような便宜をはかることも考えてください。
- 宿題の量を減らすことが簡単にできる第1ステップです。視覚−微細運動協調に問
題を抱える生徒は、字を書くのに時間がかかることを考慮してください。
- レポートを書く替わりに、与えられた課題に関する面接を行ったり、歌を作って歌
ったり、口頭で質問に答ることを許可してください。
- 筆記ではなく口頭でも試験を実施できます。微細運動の問題がある生徒が通常のテ
ストを受ける場合には、穴埋め問題ではなく、丸をつけるだけの選択問題にしてく
ださい。
- 生徒が授業に集中できるように、ノートを取る替わりに教室でテープレコーダを使
させることも一案です。
作文の基礎を学ぶためのヒント
文章表現を身に付けるためのヒントを次に掲げます。忍耐強くあせらないことと、た
とえどんなに小さな進歩でも見つけたら誉めることを忘れないでください。
「心象と言葉」を利用しましょう:「読む」の章を参考にしてください。お子さんが頭の中
にイメージを描きそれを言葉で表現できれば、このイメージを文章で表現することが容易
になります。
単文から始めよう:読み取ったことを確認する場合と同じような質問を利用しましょう。
「そんれは何ですか?」とか「誰のことを書こうとしているの?」のように。「彼女はどん
な女のこ?」「何をしているの?」「どこにいるの?」などの質問もいいでしょう。
絵を使おう:雑誌や絵葉書などを利用しましょう。その絵に関するお話を作らせてくださ
い。絵の登場人物を表す次のような質問をしてください。「何をしているのかな?」「何を
しゃべっているかな?」とか「何を考えているのかな?」などです。
5Wを使おう:誰が(who)・何を(what)・どこで(where)・いつ(when)・なぜ(why)という
問いかけは、情報を表現するよいきっかけになります。これらのうち最低4つを入れて段
落の最初の文を作るように助言してください。この文は主題を表現する「スーパー・セン
テンス(super sentence)」と呼ばれます。
コンピュータ技術
字を書くことが不得手な生徒を援助する際に、豊富に出まわっているコンピュータソ
フトウェアが利用できます。誰にでも適用できるわけではありませんが、「しゃべるワープ
ロ」のような双方向プログラムは、生徒が自分の考えを文章に表現できるように適切なフ
ィードバックを与えてくれます。スペルチェック機能がついた「しゃべるワープロ」の一
種の「Write:Outloud」を使うと、自分が書いた文章を目で見るだけではなく、耳で聞く
こともできます。
「Co:Writer」という別のソフトウェアは、年齢を問わず適切な単語や文章を思いつけ
ない人に最適です。この種のソフトウェア(単語予測:word predictionと呼ばれる)を使う
と、一文字か二文字入力するだけで可能性のある単語リストを目で見たり耳で聞いたりす
ることができます。(自分のお気に入りの話題に関する単語辞書を使うことも可能です)。
このソフトウェアは「文法組込型(grammar smart)」と呼ばれ、入力された文章に適合し
た文法とつづりを選択します。「Co:Writer」と「Write:Outloud」は共に、ドン・ジョン
ストン(Don Johnston:26799 West Commerce Drive, Volo, Illinois, 60073, 800-999-4660)
が開発した「reading and writing solution for struggling student」グループに含まれてい
ます。
教室でウィリアムズ症候群の子どもがこれらのソフトウェアを使えるようになったと
しても、忍耐強く教えることが肝心です。ロバート・フォランスビーは、重度の微細運動
障害・注意障害・非難に敏感な子どもたちを援助するためにコンピュータソフトウェアが
使われる現場を見てきました。彼によれば、コンピュータソフトウェアを使う計画を立て
る際には、教育と技術の専門家によって生徒の障害の程度と到達目標を評価し適切なソフ
トウェアを(必要に応じて適切なハードウェアも)選択してもらうことを薦めています。また、
教師自身の訓練と統合技術における問題解決方法を学ぶために、フォローアップ講習を学
校で開催することも提案しています。
「ウィリアムズ症候群の子どもに適する魔法のようなソフトウェアはありません」、と
ロバート・フォランスビーは指摘しています。しかし、リストアップされた中から次のよ
うなソフトウェアを推奨しています。
- 簡便なワードプロセッサーにマルチメディア機能(絵・音・音声など)がついたもの。
学年に応じてスペルチェッカーや類語辞典をつける。
- 低学年向けには、「カラフルな本」(黒い線でかこまれた中が色で塗られている)のよ
うなソフトウェア。
- 高学年向けには、下書き・スケジュール・予定表などの組合せソフトウェア。
- 厳しい時間制限のない教育的ゲーム。
- 合成音声フィードバックや単語予測機能(上述の例参照)など文字入力の修正・適応機
能を持ったプログラム
社会的・行動的課題を取り扱う
次に挙げるのは、子どもたちが社会的・行動的問題に取り組む手助けとして教室うま
く機能した実践的アイデアです。これらのアイデアはカレン・リバイン(Karen Levine)の
「教師への情報:Information for Teachers」を基にしています。
注意力散漫と気の散りやすさ:効果的な方法として、課題にかける時間に融通をきかせる、
たびたび休憩する、課題に取り組み続ければほめる、小さなグループで教える、自ら活動
の選択をさせるなどがあります。行動管理手法を利用する際には心理学者などの専門家に
相談して助言を受けてください。教室補助員(多くのケースでは子どものIEPに含まれる)
を付けると、注意を向ける・集中する・グループで行動するなどを学ぶ際に、その子に合
ったサポートを行うことが可能になります。
お気に入りの話題にこだわる:消防車・列車・ロックミュージックなどどんな話題でも1
日の中でそれについて話し合う機会を設けることも一つの方法です。前に述べたように、
その話題は文章を読むための主要な動機になります。お子さんが同じ質問を何度も繰り返
すことをやめられない場合は、「最初の質問に対する答えで充分に説明をして、子どもが納
得したかどうかを確認します(お子さんに同じ質問をしてみると確認ができます)」。その後
同じ質問を繰り返しても無視して、別の話題や活動をするように仕向けましょう。
不安感:授業予定が変更されることに対する不安感を軽減するためには、事前に予定を教
える、掃除の時間の数分前にきまった音楽をかけるなど日常活動の開始を示すサインを提
供して変化を教えるなどの方法があります。特別なイベントを記入したカレンダーや日程
表を与えると、子どもが自分自身で予定をコントロールできるという感じをつかめます。
音への過敏さに起因する不安感:始業ベルや非難訓練などの音を出す前に注意を喚起する
方法があります。子どもが不安になる音をテープに録音して、子ども自身にそのテープの
音を大きくしたり小さくしたり、付けたり消したりさせるという減感作(de-sensitization)
手法も利用できます。
感情の調節ができない:フラストレーションがたまることを予測させることは良いアイデ
アです。そしてできるならば、こどもが自らその状況から離れ、別の活動を行うように助
言するといいでしょう。ロールプレイやお話は、その子が不安感を引き起こす状況を自分
で演じ、対応を取る練習になります。
教育過程に社会的技能を組みこむ:ボディーランゲージ・しぐさ・身体的距離を尊重する(会
話をしているときに近づきすぎない)などという非言語的コミュニケーションを教えましょ
う。ビデオで模範を見せる、典型的な社会的状況を取り扱った「社会的物語」、自分の行動
が相手からどのように思われるかを感じるために役割を交替して行うロールプレイ、など
の手法を利用しましょう。子どもの教育プログラムの一環として、友情を育てることを薦
めてください。(このハンドブックのBook Iでは、短い集中力・こだわり・不安・音への
過敏性・社会性への対応方法が第5章の「Happiness, Our Children's Brightness」に詳し
く述べられています。
違っていることを認めて誉めましょう。
私たちひとりひとりが自分自身の学習方法や長所を持っています。誰にでも覚えるこ
とが難しい分野があります。問題と感じるか価値があると感じるかは、私たちの物の見方
次第です。例えば、ウィリアムズ症候群の子どもが見せる過度の興奮と情熱を、混乱をま
ねく原因だと教師は考えるかもしれません。しかし、その子の感情の豊かさがクラス全体
のやる気のレベルを向上させるかもしれません。彼の同情心は他には見られない暖かい人
間性につながり、他人の模範となることもあるでしょう。特定の話題への驚くべき集中力
が、クラスで行われる議論を活発にするかもしれません。
私たちはみなひとりひとりの違いを尊重されて育ってきました。複数の知性があると
いう考え方はだれにでも当てはまります。社会的交わりが好きで、音楽に情熱を傾けるこ
とが知性ではない、あるいは学習ではないと誰が言えるのでしょう。私たちの子どもの学
習方法を尊重し、彼らの能力に敬意を払いながら教え育てていくことを通じて、すべての
子どもに適用できる新しい教え方を発見できるかもしれません。
−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−
キャロライン・メルビス(Carolyn B. Mervis, Department of Psychological and Brain
Science, University of Louisville, Louisville, Kentucky)とボニータ・クライン−タスマン
(Bonita P Klein-Tasman, Department of Psychology, Emory University, Atlanta,
Georgia)に協力をいただきました。 ウィリアムズ症候群の人が持つ認知・正確・行動面の
特徴については、次に掲げる彼らの論文で確認しました。「Williams Syndrome:Cognition,
Personality, and Adaptive Behavior, [Mental Retardation And Developmental
Disabilities Research Reviews 6:148-158(2000)]」。
洞察力と知識を頂いたキャロル・コンフォート(Carol Comfort, Director of the College
Reading Skills Program/Faculty Association at California State Polytechnic University,
Pomona、同時にウィリアムズ症候群の娘の母親)と、ウィリアムズ症候群の子どもたちの
教育に多大な貢献をしているカレン・リバイン(Karen Levine Ph.D., Co-Director of
NEST(Neuroevaluation and Service Team), Williams Syndrome Program, Spaulding
Hospital, Boston, Massachusetts)に特別に感謝します。ウィリアムズ症候群協会から発行
されたリバイン著の小冊子「教師への情報:Information for Teachers」から得た多くの情
報がこの章に掲載されています。
前の章に戻る
次の章に進む
目次に戻る