ウィリアムズ症候群の青年から成人への移行
この資料はWSAのニュースレター “Heart to Heart” に掲載されていました。資料番号2-1-22、2-1-24、2-1-25、5-1-03の続編です。
(2002年4月)
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Transition to Adulthood for Adolescents with Williams Syndrome
By Barbara Scheiber
"Heart to Heart" Volume 19 Number 1, January 2002, Page 21-23
この資料は作成中の「Fulfilling Dreams - Part 2」に挿入された一連の章を抜粋したものです。
1.概要
ウィリアムズ症候群の子どもがまだ幼い時から、我々親はその子が大人になったときの人生に関してたくさんの心配があります。仕事はあるだろうか? 自宅から離れて自分のアパートやグループホームで一人暮しが出来るだろうか? それはどこにあるのだろう? 友達がいなくて寂しい毎日を過ごすのではなかろうか? それとも友達ができて必要に応じて援助を受けられるだろうか? 特別で暖かな関係を結べるだろうか? 安全は確保されているだろうか? 楽しい余暇活動に参加できるだろうか? 自分に誇りを持ち幸せを感じられるだろうか?
ウィリアムズ症候群の子どもに対して抱く希望や夢は、普通の子どもに対して望むことと大して違いはありません。しかし、現在いる場所からそこに至る道のり、安全な港としての家庭から働いて自立するための危険に満ちた外界への道のりは未知であり私たちにもよく理解できてはいません。私たちは取り組むべき新しい試練、挑戦すべき新しいアプローチ、探し出さなければいけない新しい資源に満ちた新たな領域にいるのです。
既製服のように既に確立された自立に至る形の決まった筋道は存在しません。障害のあるなしに関係無くすべての子どもがそうであるように、成功と失敗を繰り返しながら、複雑で変化に満ちた子どもの成長過程に取り組む必要があります。親としては、子どもの目を将来に向けさせ、同時に保護する手を緩めていくという難しい課題があります。少しずつ一人歩きをさせましょう。
これは大仕事であり、子どもが10代になって突然に始められるものではありません。事実、誰もがよく知っているように、人生常に成長を続けることが必要です。幼い頃の経験は子どもが大人になるための態度や能力を養成する基礎になります。愛されていると感じること、家族との一体感、興味を持ったことへの挑戦を応援されること、自信と自尊心を養うこと、これらのすべてがその人の人間性に織り込まれて大人になっていきます。
キーワードをお話しましょう。大人になる時期は安定した変化に乏しい時期ではありません。移ろいやすく変わりやすい時期です。10代が終わるまでずっと同じです。誰もが学び続け、成長を続け、だんだんと自分自身と人生の目的を理解できるようになります。私たちの子どもも同じです。
移行のペースに関してもゴールまで一定の速さで進めるわけではありません。私たちの子どもの学習能力には山谷があるため、速く進めることもあれば遅れるときもあります。ウィリアムズ症候群の人の発達が変化に富んでいるように、彼らの「自立の処方」も様々です。私たちの子どもの生活や職業について、すべての人に最適のたった一つの方法などありません。目標実現に関する定義も一つではありません。
移行プロセスは全人生に及びますが、子どもが10代の時点で先の目標についてしっかり見据えることが必要です。高校を卒業した後の将来像・自立・日常生活能力・就労能力・職業選択・住居タイプの選択・卒業後の教育プログラムなどを真剣に考えましょう。性にめざめる、その場にふさわしい行動を学ぶ、社会的な関係が変わる、さまざまな境界を意識する、新しい社会的活動を楽しむなど、社会的関係も変化します。子どもにはこれら全ての分野で成長するとともに安全を確保し結果として自分で自分の人生を守ることを学んでほしいと思います。
これは難しいことなので私たちが眠れぬ夜を過ごしたとしても不思議ではありません。この章とそれに続く2つの章は、大人になるために成長する私たちの子どもの手助けとなるように誰もが利用できる手段について書かれています。大人への移行期間に生じる疑問点を取り上げ、対応方法の事例を提供します。この章で取り上げる話題は青年期の心配事、すなわち行動・人間関係・性・医療などです。次の章では下記について述べます。
- 移行と法律:IDEA(特別教育を司る連邦法)に従って、子どもがまだ学校にいる時期から将来の計画を作成する援助手段
- 自己決定能力を伸ばし強化する方法
- 子どもが就労・一人暮し・社会人教育・地域社会への参加などを選んでスタートするための援助を行う公共機関や援助組織との関係を作りあげる方法
- SSI・健康保険・後見などその他の重要な関心事項
どのような時期でも同じですが、子どもの青年期も親同士で情報交換を行い、経験豊かなカウンセラーや関連する専門家たちから学ぶことが大切です。援助組織や公共機関・勉強会・講習会・親のグループなどから情報や貴重なサービスが得られます。ウィリアムズ症候群協会の全国大会や地域集会でも、将来親や子どもが直面するであろう課題を取り上げ、自信を持ってその課題を克服するための援助を提供するさまざまなセッションがあります。
将来計画を作成する時に役に立つすばらしく包括的なワークブック兼ガイド「Full Life Ahead, by Judy Barclay and Jan Cobb」は大人への移行を考える手助けになります。まだ若い子ども自身が使えるように、家族の視点に立った親によって書かれたこの本は計画立案の参考になる傑出した道具です。(これ以外の情報は章末をご覧下さい。)
子どもの個性を尊重する
子どもが外の世界に踏み出して行く時に、私たちが与えられる最大の贈り物は個性を認めることです。それは、どんな夢を実現するか、どんな根源的目的意識を持つか、自分の人としての価値をどこに見出すか、などという内面的に重要な事柄です。子どもの考えや理想・願望と選択を尊重し、それらを実現することを親としての義務の中心にしなければいけません。
確かに、私たちは援助を与え、理解し、将来を見とおし続けています。できる限り子どもの要望を満たせるように養護し続けます。しかし、徐々に手元から離していきながら、「あなたならできるよ。自分のことは自分で責任を持ちなさい。」と子どもに言いましょう。
これが私たちの目標です。
2.青年期における変化
複雑な時期
移行期の人生はたくさんあるプリズムの面のように様々な顔を見せる。ウィリアムズ症候群の人にとってどの面が最も大切かを決めることはとても難しく、ほとんど不可能です。感情面の成長、社会的生活、就労や一人暮しの計画などすべての要素が絡み合い相互に依存する関係にあります。
この時期に我々が直面するさまざまな心配に共通することは「変化」です。学校を卒業して社会に出る変化、学問への集中から人生の目標に対する疑問への変化、親の庇護から自分で決めることへの変化などです。
ウィリアムズ症候群の人はほとんどがアンバランスな発達をするために、我々が移行期として考えるべき年齢は14才から25,6歳までとかなり広くなります。実際にひとりひとり異なっているため、何歳で移行を開始し何歳で終了できるかは決められません。大人としての人生というだれにでも当てはまる完全な定義など存在しません。一人一人の人生にはその人なりの到達点と挑戦があります。
人生がどうなるかを予測することはできません。しかし、子どもが前に進むために一緒に努力し援助をすることはできます。子どもが興味を示せば励まし、一人暮しを促し、夢を見つける援助をすることはできます。
逃避
普通の子どもが自立することを主張し始める青年期の年齢に到達しても、ウィリアムズ症候群の子どもは自らそれを言い出さないことがほとんどです。親から離れることに関する精神的葛藤が見られる時期も遅れます。とくに女のこは遅れる傾向にあり、18歳、20歳、22歳、あるいはもっと後になることもあります。
葛藤の強さは人それぞれですが、家族には直接的な影響を与えます。親は青年期の子どもの自立心とこれまで通りの依存心のバランスをとることが求められます。
これは親にとっても青年にとっても難しい舵取りになります。この混乱は普通の家庭にも存在しますが、私たちのグループでは期間が長く解決することも難しくなります。それには機転と正しい見方が必要です。たいていの場合、同じような状況におかれた家族を支援した経験を持つカウンセラーや療法士の指導を受けることが役に立ちます。
気分のゆれ
子どもが小さい時は、興奮しやすい傾向・変化に対する過剰反応・不安・にこにこと笑い歌っていたと思ったら突然泣き出すなどの気分のゆれがよく見られました。カレン・リバイン博士(Dr. Karen Levine)とロバート・ワートン博士(Dr. Robert Wharton)は著書の中で、「ウィリアムズ症候群の子どもは『間違って設定されたサーモスタットスイッチ』を持っいて、すぐに興奮したり不安になる設定になっている」と書いています。
このような性格は青年期になっても消えることはありませんが、強い感情的反応を引き起こす原因は子どもの頃とは異なります。ウィリアムズ症候群に共通して見られる極端に不安に弱い面は依然として残りますが、それは違った種類の出来事によってもたらされます。大人になるとうつ傾向が共通的に見られるようになりますが、青年期にも起こります。
やっかいな質問
子どもが大きくなるに連れて、回りの世界に対する知識が増え危険や損失の可能性も高まります。移行は不確実性をもたらします。ウィリアムズ症候群の10代の青年は、自分の兄やテレビで見た人たちのような「ほんものの人生」を経験できるのだろうかと自問するかもしれません。もっと自己信頼できる人間になりたいと願いながら、挫折感を感じるかもしれません。高すぎる期待は明確に意識されていない限界との間で矛盾を起こします。
「なぜぼくはみんなと違うの?」
私たちの子どもの多くはウィリアムズ症候群をぼんやりと自覚し、「なぜぼくはみんなと違うの?」という疑問にとまどうかもしれません。外交的な性格や社交的な資質にもかかわらず、孤独で友達がいないので「どうしてだろう」と悩む子どももいるでしょう。小さい頃から何度も入院し、検査を受け、度々手術を受けた経験は、常に自分の健康を不安に思う傾向を作る可能性があります。祖母などの家族が亡くなると、死への恐怖が芽生えることもあります。子どもが大きくなるに連れて、「両親が死んだ後は誰が自分の面倒を見てくれるのだろう」と考える頻度と真剣さが増します。
子どもがきちんと3ヶ月おきに歯医者にかかっていることを確認すること
歯科治療の前に抗生物質(亜急性細菌性心膜炎の予防)を短期間服用する必要があるかもしれません。かかりつけの心臓医のアドバイスを受けてください。
健康であることを学ぶ
必要な治療や処置を受けるために医師(場合によっては特定の専門医)の診察を受けるだけでなく、10代の子ども自らが自分の健康に責任を持つことを教え始めなければいけません。丈夫で健康な体を保つ習慣を持ち選択を行うように励ましましょう。
日常生活に運動を取り入れる
水泳が好きな若者もいるでしょう。エアロビクスが好きかもしれません。トレーニングやトレーニングマシンやトレッドミルがが好きな人もいるでしょう。エレベータの替わりに階段を使う、(可能ならば)バスや車を使わず歩いて買い物に行くなどといった、ちょっとした運動でも良い体型を維持できます。10代の青年や若手の大人の人が、1回20分程度の運動を週3回以上行うことを習慣にすることはとてもよいことです。(その活動を行っても大丈夫かどうかは主治医に確認をしてください)。
いっしょに活動してくれる人がいること、あるいは励ましを与えることで、これらの活動が楽しくなります。皆さんご存知のように、リクリエーションプログラムやスペシャルオリンピックのような様々な団体が障害者にスポーツや運動の機会を提供しています。
正しい食生活
普通の若者と同じように私たちの子どもも加工食品や脂肪と糖分が多い食べ物の誘惑に負けることがあります。正しい食習慣を身に付けることは簡単なことではありません。大人になって年月が経つと、ウィリアムズ症候群の人の多くが体重増加の問題を抱え、栄養が偏ることで健康状態に影響が出ます。正しい食生活の重要性を心に刻み込む年齢は若ければ若いほど効果が期待できます。「体にわるい食べ物」を口にしないことに注目するのではなく、どのような食べ物が健康とエネルギーに貢献するかを学ぶことが大切です。そして、正しい食事習慣を日常生活に取り入れましょう。
先に述べたように、小麦粒・野菜・果物・玄米・ぬか入りのシリアルなど食物繊維に富んだ食べ物はとても大切です。そして水分(特に水)が重要です(毎日コップ8杯飲むことが推奨されています。レモンやオレンジやアップルなどのジュースを少し加えて香りをつけて飲みやすくすることで推奨量を取りやすくなる人もいます)。医師や栄養士に相談してお子さんの毎日の食事に含むべき食べ物に関する助言を得ると良いでしょう。
将来を見据えて
若者がどのような課題や変化に直面していたとしても、将来に関する問題は青年期にその重要性を増します。高校を卒業すれば何が待っていますか? 誰にでも職業選択と自立の問題が立ち現れます。次に続く章ではあなたとお子さんに適用できるアイデアを述べます。お子さんが通っている学校で準備され行うべき移行への援助方法、IDEA(the Individuals with Disabilities Education Act:障害者の教育に関する法律)が提供できること、地域社会で利用できるサービスなどです。このような情報を得ることで、それぞれ独自の将来設計を開始するにあたって必要となるサービスや資源に関する一覧表を作成できると思います。
この章を書くにあたって貴重な助言を頂いたバーバラ・ポーバー博士(Barbara Pober、M.D)にこころから感謝いたします。
(「その他の情報源」は、米国内の情報なのでこの訳文からは割愛)
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