Julie R. Korenberg, M.D.
Cedas-Sinai Medical Center, Los Angeles, CA
"Heart to Heart" Volume 16, Number 2 , June 1999, Page 4-5
Bellugi U, Lichtenberger L, Mills D, Galaburda A, Korenberg JR
The Salk Institute for Biological Studies, La Jolla, CA 92037, USA.
Trends Neurosci 1999 May;22(5):197-207
現在進んでいるゲノム分析から得られた7q11.2バンドの特徴や他の物理マップと合わ
せて見ると、この領域にはいろいろな繰り返し配列や遺伝子や偽遺伝子によって特徴つけ
られる非常によく似ている染色体複製部分が存在する事がわかる。エラスチンや他の欠失
遺伝子が含まれるユニークな領域の周囲を、入れ子になった繰り返し構造が取り囲んでい
るという全体構造をしている(図8A)。このことは、ウィアムズ症候群の患者で欠失してい
るDNA領域は第7染色体の単一コピー領域の中に存在し、それを一連の複製遺伝子が取り
囲んでいる事を示している。複製の一部分は最近複製され、他の部分は霊長類の進化の初
期の過程で複製されたに違いない。巨大な複製配列の一部が減数分裂時に配置ミスを起す
事が欠失に決定的に関与している。このため、ウィリアムズ症候群の欠失の切断位置は共
通領域で無意味に発生しているわけではなく、すべてではないが大部分のウィリアムズ症
候群の患者は同じ遺伝子群を欠失している。
← 動原体 7q11.23 テロメア → ============++++++++++++++-------------------++++++++++++++============ G P D F S E L W R G D P T M 7 Z T L I S F T 7 M F S 4 D X N M C C F S S 2 2 8 3 1 K R 2 2 4 2 i P 9 A 1 1 I 8 P P U 9 L 上図の ============ と ++++++++++++++ の部分が複製領域しかし、稀に小さな欠失を持つ人の研究からウィリアムズ症候群の一部の特徴に関連 する遺伝子への手がかりが入手できた。例えば、エラスチン遺伝子だけの欠失や突然変異 になった人からは、片方の遺伝子の欠損がウィリアムズ症候群の典型的な症状である心臓 疾患SVASに責任があるらしいことが判明した。しかし、LIMK1コピーの片方の欠損がウィ リアムズ症候群の特徴である空間認知障害に関系がありそうだと言われているが、最近の 研究ではこの遺伝子及び同じ領域に存在する別の複数の遺伝子が欠失しても正常な機能を 果たせるという予期せぬ結果が明らかになった。さらに、ウィリアムズ症候群特有の顔貌・ 心臓・精神遅滞という特徴を持っているが、欠失領域の小さかった患者の予備的な分析結 果からは、FZD3遺伝子がある領域はこれらの典型的な臨床的特徴には重要な役目を果たし ていない可能性があることが判明した。結果的に、これらの方法によって表現型プロフィ ール(特定の認知機能、顔貌、社会性、空間認知障害)と遺伝子起因を結びつける事ができ るようになってきた。
共通欠失領域にある残りの遺伝子の定義に関しては、ある意味で重要な問題が含まれ
ている。さらに、ウィリアムズ症候群の認知機能をより深く解明し、欠失領域にある個々
の遺伝子やそれらの相互作用が、ウィリアムズ症候群の認知能力や、発生学的・神経解剖
学的・生理学的・機能的な典型的特徴への貢献度を決定し、同時にこれらの表現型変動の
遺伝子的原因を明らかにする事が肝心である。今後の研究は、この領域にマップされ、欠
失が発生すると正常な表現型を示さず、ウィリアムズ症候群で関心が持たれている特定の
症状を引き起こす遺伝子に焦点が当てられる。ウィリアムズ症候群の欠失の動物モデルは
有用だと考えられるが、ヒトの認知やそれを支える遺伝子的基礎に関する大部分の側面を
解明するにはヒトを研究する事が必須である。このようなヒトに関する研究の成否は、ウ
ィリアムズ症候群の特徴を持っているが欠失領域の小さかった患者を特定し、神経認知
的・行動的表現型の的確な理解と遺伝子の分子構造を結びつけることにかかっている。数
多くの遺伝子が精神遅滞にかかわっていると思われるが、どの遺伝子が過度の社会性や空
間認知障害やウィリアムズ症候群として特色のあるERPに貢献しているかを決定すること
に注目が集まっている事は疑いが無い。この新しい研究はヒトの進化研究に対する新しい
手段を提供すると共に、最終的にはウィリアムズ症候群の認知特徴とその下敷きとなって
いるヒトの認知を理解することにつながる筋道への手がかりを与えてくれるだろう。
結言
脳と認知を理解することへの偉大な挑戦の一つは、神経科学の原理とのつながりを探
す事である。現在までこの目標はまだ達成されていない。高次皮質機能に通常見られない
解離を示すこの遺伝病に関する研究は、認知機能を脳組織に、そして最終的にはヒトゲノ
ムに結びつける認知神経科学の中心的命題群を探索する機会を提供している。
謝辞
著者らの研究は国立保健研究所(the National Institute of Health)からベルージ
(U.Bellugi)に与えられた研究資金(PO1 HD33113、P50 NS22343, P50 DC01289)の一部、ジ
ェームズ・マクダネル基金(James McDonnell Foundation)、オークツリー・フィランソロ
フィー基金(Oak Tree Philanthrophy Foundation)に支えられている。著者らはウィリアム
ズ症候群協会の全国組織と地域組織に感謝する。著者らはこの研究に参加してくれた患者
とその家族に感謝の意を示す。