長期生存したWilliams症候群患者の一剖検例
鵜沼 香奈、原田 一樹、中嶋 信、小林 貴、永井 恒志、黒田 亮平、吉田 謙一
東大
日本法医学雑誌 64巻2号 149ページ 2010年12月
【概要】
乳児期より発達遅延があった72歳女性。62歳時にFISH法にてWilliams症候群と診断された。平成21年初め頃から不穏が強く出現、同年6月に介護していた弟と共に出火した車両内で死亡しているのを発見された。現場からガソリンタンクが発見され、状況からは無理心中が疑われた。
【主要部剖検所見】
身長139p。体重22.7s。背面を除く全身にW度熱傷。背面にV度熱傷を認める。冠状動脈三枝の硬化は軽度。アテローム班による内腔の狭窄は最大10%。脳935g。脳底動脈の硬化は中等度。弾性動脈を中心に偏心性の血管壁肥厚を認める。気管内の煤は少量で、血中CO-Hb濃度は左心血で2.9%、右心血で2.3%。
【組織学的所見】
心筋の間質線維化は中等度。肺胞壁に軽度の線維性肥厚を認め、一部の気管支周囲には多核巨細胞の出現を伴うエオジン好性の無構造物質を認める。血管壁肥厚部に弾性繊維の断裂・不規則配列および平滑筋細胞の増殖による中膜の肥厚を認める。
【概要】
Williams症候群は、大動脈弁上狭窄(SVAS)、特有の妖精様顔貌、精神発達遅延」などを示す先天性の遺伝子疾患であり、染色体7番にあるエラスチン(ELN)遺伝子を含む領域の部分欠損によって起こる。ELN遺伝子欠損による心血管奇形を伴うWilliams症候群患者は、SVASやその他の循環器系疾患によって突然死することがよく知られている。本屍には、ELN遺伝子の欠損はあるものの致死性になりうる心血管系奇形を認めず、これが長期生存を可能にした要素の一つだと思われた。
(ウィリアムズノート管理者の注:「ウィリアムズ症候群高齢患者の臨床特徴」を参照)
(2011年9月)
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