お絵描き遺伝子を探せ
岩田 誠
臨床医が語る脳とコトバのはなし(日本評論社 ISBN 4-535-98261-9 2005年11月)
第4部/言語と脳の医学の最前線で 第5章(202-212ページ))
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写生や模写ができない
私の教室でも永井知代子さんを担当者に決めて、全部の患者さんに系統的に同じ検査をしていきました。あまり小さい子は無理なので、だいたい9歳以上の方を調べました。いちばん高齢の方は60歳でした。
ほとんどの方に同じ異常があて、簡単な図形でも、それを見ながら写生(模写)することはできません。ところが、写生でなく自分のイメージのなかからなら、たとえば「象を描いてみて」とか「人形を描いてみて」と言うと、それらしきものを描きます。だから、視覚のイメージが形成されないのではありません。また。トレースしていただくと完璧にできますから、手の動きが不自由なために描けないのでもありません。
そのうち、いろいろなことが少しずつわかってきました。ひとつは、同じような線が並んでいるとき、それらの角度が互いに違うか、同じか、という識別が非常にしにくいことです。もうひとつは、絵を描くとき、角(かど)をつくることができないことです。たとえば多角形を模写する場合、この角は尖がらせるのか、へこませるのか、という凹凸の区別ができないのです。手本の絵をみると、角があることはわかるのですが、尖がらせるのか、へこませるのかの区別ができず、しばしば手本とは逆に描いてしまうので、角の向きが逆になり、形がめちゃめちゃになってしまいます。こういうきわめて特異なまちがいをする方がいることがわかりました。
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(2006年3月)
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