ウィリアムズ症候群における顔認知―脳磁図および事象関連電位による倒立効果の検討―
中村みほ:愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
稲垣真澄:国立精神・神経センター精神保健研究所
渡辺昌子、平井真洋、三木研作、本多結城子、柿木隆介:自然科学研究機構生理学研究所
厚生労働省精神・神経疾患研究委託費
16指−5 「精神遅滞症候群の認知・行動特徴に関する総合的研究」
研究班会議プログラム
日時:平成18年11月24日(金)9:50〜12:00
会場:国立精神・神経センター研究所3号館1 階セミナー室
資料番号3-9-129も参考にしてください。
(2007年7月)
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【背景と目的】
ウィリアムズ症候群(以下WS)の視覚認知機能に関しては、視空間認知が、物の形や色の認知に比べて苦手であるとされており、その原因として視覚認知の背側経路の障害が考えられている。我々もWS の視覚認知機能に着目し、その特徴的な症状を明らかにして背側経路の関与を示唆(Dev Med Child Neurol. 2001)した。また、WS に特有の視空間認知障害を示す患者において、運動視知覚が健常成人と変わらないことを示して、特有の症状の発現には必ずしも運動視中枢の障害を伴わないことから、視覚認知背側経路の運動視にかかわる経路以外の関与を推定した(Eur J Neurosci. 2002)。一方、視覚認知腹側経路の機能の一つである顔認知の能力は比較的保たれているとされてきたが、倒立顔に対する反応は特異であるとする報告もみられ、我々も、13 歳のWS 患児において脳磁図による検討を行い、正立顔への反応は健常成人と変わらないのに対し、健常成人で見られる倒立顔に対する反応潜時の遅れが見られない(倒立効果がない) ことを報告した(Pediatr Neurol. 2006)。
今回、我々はこれまでの検討を発展させ、他のWS 患児らにおいても、顔認知の倒立効果を認めないという所見を確認しうるか否か、及びその結果が同年齢のコントロール群と異なるか否かについて、脳磁図ならびに事象関連電位を用いて検討した。
【方法】
脳磁図検査の対象は13 歳女性(sub.1)のWS 患者で、正立顔、倒立顔、オブジェクト(車) を視覚刺激として提示し、反応潜時、推定双極子部位を健常同年齢児(2名)と比較した。
事象関連電位検査は11 歳(sub.2)、14 歳(sub.3)、16 歳(sub.4)の男性患者を対象に、正立顔、倒立顔、オブジェクト(薬缶) を視覚刺激として提示し、反応潜時並びに振幅を健常同年齢児データと比較した。
【結果と考案】
sub.1 に対する脳磁図検査では反応潜時に遅れを認めず、同年齢コントロールで認める倒立効果を認めなかった。事象関連電位検査では、sub.2、sub.4 については倒立効果を認めず、同年齢コントロール群と異なる結果となったが、sub.3 については、倒立顔に対してコントロール群と同様の反応潜時の延長、振幅の増大を認め、倒立効果を認めた。
倒立効果を認める児と認めない児について、その他の発達経緯について検討したところ、視空間認知の検査所見に相違を認めることから、倒立効果の発現、ならびに顔の認知の成熟に関して、腹側経路と背側経路のかかわりを含めた更なる検討の必要性が示唆された。
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