ウイリアムズ症候群の認知の特徴
資料「Williams症候群の認知の特徴についての検討」と関係する研究です。
(2013年8月)
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砂原 眞理子/猪子 香代/大澤 眞木子
東京女子医科大学医学部小児科学
東京女子医科大学雑誌 83(E1), E152-E159, 2013-01-31
はじめに:
Williams症候群(WS)は7番染色体長腕の半接合体(7q11.23)の微小欠失によっておこる遺伝子疾患である。エラスチン動脈症、特徴的顔貌、知的障害あるいは学習障害が特徴的である。我々はこれまでの経験から、WS患者の認知機能の障害は一律ではなく、いくつかのタイプに分けられるのではないかと考えていた。そこで、我々の仮説を検証するために本研究を行った。
目的:
WSの認知機能の核となる特徴と、そのうち多くのWSに共通して存在する特徴を明らかにする。
対象と方法:
本疾患22例、6歳から30歳(平均13.14±7.00歳)。19人にWechsler系知能検査(Wechsler)、2人に田中ビネーを施行し、さらに21例は日本版Kaufman心理・教育アセスメントバッテリー(K-ABC)を施行した。K-ABCの下位項目の点数を基にクラスター解析(Ward's hierarchical agglomerative法)を行ったところ我々の仮説どおり2群に分けられたので2群の検討をした。
結果:
知能検査をした20人(95%)が知的障害と診断され、12人(63%)は全IQ 50以下であった。言語性IQと動作性IQ間に有意差を認めた(p<0.0001)。21人のK-ABC施行結果では、継次処理と習得度は同時処理と比較して高値であった。クラスター解析の結果、2群(A群9例, B群12例)に分けられた。A群は言語性IQ, 動作性IQ, 全IQがB群より有意に高かった(p<0.05)。A群は継次処理が同時処理と比較して有意に高く、短期聴覚記憶が良好であったが、B群は継次処理と同時処理の間に有意差は無かった。両クラスターA、B群間において継次処理のすべての項目と、同時処理の二項目(絵の統合、模様の構成)で有意差を認めた(手の動作、数唱;p<0.05, 語の配列、絵の統合;p<0.01, 模様の構成;p<0.0001)。一方で「視覚類推」「位置さがし」では両クラスター間で、有意差を認めなかった。
結論:
我々の仮説どおりK-ABCで二つのクラスターが同定された。短期的聴覚記憶の良さはWSの全てではなく、一部のWSの特徴といえる。また、空間認知障害が著しいといわれるWSにおいて「同時処理」課題の「位置さがし」課題の低得点はWSに共通して見られ、WSの核となる共通の特徴であることが示唆された一方、「模様の構成」の成績で両群間において有意差を認めたことは、個々のWS の視空間認知機能の障害が様々であることを示唆した。
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