心肺停止の既往を持つWilliam’s症候群患者の全身管理経験
田山 秀策 1)、大渡 凡人 2)、植松 宏 2)、矢島 愛美 1)
東京都立 広尾病院 歯科口腔外科 1)
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 2)
日本歯科麻酔学会雑誌 2011、39(4)、519ページ
【諸言】:
William's 症候群(WS)は小妖精様顔貌で知られる、先天性の大動脈弁上狭窄(SVAS)ならびに精神発達遅滞を伴うまれな症候群である。今回、心肺停止(CPA)の既往を有するWS患者の全身管理を経験したので報告する。
【症例】:
【病歴】:
#1 WS:SVASに対して上行大動脈パッチ拡大術(22歳)。 #2 左腎無形性(出生時)。#3 Manifest WPW syndrome:catheter ablation後(24歳)。 #4 CPA:蘇生後、右室流路起源のVFに対してICD植え込みとなった。
【現病歴】:
2010.11月。齲蝕治療を希望し当科受診となった。歯科治療に対する恐怖感が強く、口腔内には高度の齲蝕歯が多数認められた。このため6本の抜歯を予定した。抜歯に先立ち系統的脱感作療法を行ったところ、低侵襲の歯科治療は可能となった。しかし、抜歯に対する不安はなお強く、静脈麻酔下に行う予定とした。2011.2月。プロポフォールTCI法による静脈麻酔下に抜歯を行った。目標血中濃度は1.0−2.3で行い、BIS値は80程度で維持した。局所麻酔はフェリプレシン添加塩酸プロピトカインを用いた。術中の循環動態は安定しており、合併症は認めなかった。
【考察ならびに結語】:
WSは20000人に1人という、まれな先天性疾患である。第7染色体長腕の部分欠失が原因とされるが、この欠失領域にはエラスチン遺伝子が存在するため、虚血性心疾患の合併が多く、QTc延長の傾向があり、心臓突然死のリスクも高い(1/1000人年、Wessel A、2004)。本症例もCPA歴があり、ICDが植え込まれていたため、電磁障害などに配慮した。一方、WSは74-95%に聴覚過敏を、80%に不安障害を伴い、歯科治療に対して恐怖心が強い。本症例は静脈麻酔を用いたが、有効であったと思われる。
(2014年10月)
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