ウィリアムス症候群の幼児期の発達経過(2)
− 課題処理と行動変化からの一事例の検討 −
橋場 隆
足立区東部障害福祉総合センター・筑波大学心身障害指導相談室
日本特殊教育学会第36回大会発表論文集(ポスター発表 P-10),752-753
本報告は昨年度にひきつづき、その後の経過として発表するものである。
心臓病のなかでも大動脈弁上(左心室流出路)狭窄を主徴とし、小妖精顔貌、知能低下、
歯牙形成不全などの特徴を伴う、遺伝子の欠損による先天性の症候群をウィリアムス症候
群(Williams Syndrome)と呼んでいる。ウィリアムス症候群(以下、W症)に関しては、心疾
患としての医学的な所見に基づく研究報告は散見される。障害程度は個人差が大きく、軽
度〜重度までかなり幅広い。発達に関しては、学齢期の特徴として視覚・空間の認識欠陥、
数・時間の概念の障害、言語理解 < 言語発生の傾向、粗大・微細運動機能の発達遅延、
衝動性、集中力の欠如、同年代の他児との関係性困難など、心理的特徴としては社交的、
大人への人なつっこさ、話し好きなどが報告されている
(P.Mackay,1996)。しかし、W症児
の幼児期の心身発達に関する研究報告は少ない。
本報告では、一W症児の発達状況を、おもに新版K式発達検査と精研式CLAC II(一般
用)を用いて検討する事を目的としている。
1) 対象児
女児。初回評価時2歳9ヶ月。<診断> ウィリアムス症候群(現在心機能は正常)。<出
生状況> 普通分娩、生下時2542g。<発達状況> 首すわり、ハイハイまでは順調だったが、
以後遅れが顕著になる。歩行開始は2歳すぎてから。<発達状況> 新版K式発達検査(検
査時:2歳9ヶ月)。運動:1歳6ヶ月、認知・適応:1歳4ヶ月、言語・社会:1歳4ヶ
月。<2歳9ヶ月時の活動水準> 歩行が不安定でころびやすい。多動傾向がみられ、落ち
着きは乏しい。一つの遊びが持続しない。語彙はいくつか保有するが、機能的には使用
できない。人なつっこい(周囲の大人への愛着行動が目立つ)。反面、思い通りにならな
いとカンシャク行動が多発する。
2) 指導経過
生活年齢2歳9ヶ月〜3歳9ヶ月時に至る期間、A通園施設にて、母子分離による小集
団指導を受ける。平成9年4月(3歳10ヶ月時)に同区内のY幼稚園に入園し現在も通園
している。
3) 手続き
生活年齢2歳9ヶ月、3歳2ヶ月、3歳8ヶ月、4歳2ヶ月、4歳8ヶ月の各時点にお
ける新版K式発達検査と精研式CLAC II(一般用)の評価記録をもとにして図表を作成した
上で、新版K式発達検査においては認知・適応領域と言語・社会領域の発達状況と各検
査課題の遂行状況を、また精研式CLAC II(一般用)においては項目別に行動変化状況を、
それぞれ比較、検討し考察を試みた(4歳8ヶ月時における観察事項も検討資料に加えた)。
(1999年9月)
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