ウィリアムズ症候群児の自発的コミュニケーションの特徴の検討
浅田 晃佑、板倉 昭二
京都大学大学院 文学研究科
日本発達心理学会大会発表論文集 第17巻(2006.3.20-22)708ページ
ウィリアムズ症候群は、発達頻度の稀な遺伝子症候群である。ウィリアムズ症候群患者は、多弁であり、言語能力が比較的障害を受けておらず、また社会性が高いと言われている。しかし、このような人との関わりにおいて有利な特徴を持っているにも関わらず、ウィリアムズ症候群患者は、実際の社会生活でコミュニケーションにおいて多くの困難に出会うと言われている。ウィリアムズ症候群患者のコミュニケーションに関する実験的研究はそれほど多くはない。Laing,Butterworth,Ansari,Caodl,Longhi,Panagiotaki,Paterson& Karmiloff-Smith(2002)は、ウィリアムズ症候群児の非言語コミュニケーションについて検討し、ウィリアムズ症候群児は健常児と比べて、指差しの産出が有意に少ないことを示した。また、浅田・富和・岡田・板倉(2005)は、ウィリアムズ症候群児の言語コミュニケーションについて検討し、ウィリアムズ症候群児は健常児と比べ、要求や拒否といった自分の欲求を伝える発話が有意に少ないことを示した。浅田他(2005)は、先行研究の結果を踏まえ、指差しや要求・拒否といった発話は、相手の注意や意図に働きかけ行動の変容を引き起こすコミュニケーションであり、ウィリアムズ症候群児はそのようなコミュニケーションをとることが難しいのではないかという仮説を立てた。しかし、Laing et al.(2002)が自発的コミュニケーションについて検討していたのに対し、浅田他(2005)では応答的コミュニケーションについて検討していた。本件研究では、上記の仮説を検証するために、ウィリアムズ症候群児の自発的コミュニケーションの特徴の検討を行う。
【方法】
参加児:
ウィリアムズ症候群児5人(平均精神月齢:54.8ヵ月) 健常児5人(平均精神月齢:55.8ヵ月)
手続き:
参加児は、実験者の隣に座り、3つのおもちゃ課題に参加した。そして、各課題につき、以下の2条件に参加した。条件1:注意共有条件(実験者は、参加児がおもちゃ課題を達成したことを見ている)・条件2:注意非共有条件(実験者は、参加児がおもちゃ課題を達成したことを見ていない)である。参加児の様子をビデオ録画し、課題達成後の参加児の発話を分析した。
【結果と考察】
現在、実験継続中のため、まだ結果及び考察をはっきりと述べることはできない。現時点での結果としては、課題達成後の発話数(課題達成後7秒間・課題達成に関する発話のみ)に関しては、ウィリアムズ症候群児群は、注意共有条件で1.73、注意非共有条件で2.33であり、健常児群は、注意共有条件で1.13、注意非共有条件で2.73であった。この結果から、ウィリアムズ症候群児は、自分のコミュニケーションが達成されなかったときに、その量を増やすことで、相手の注意を自分に向けさせるということはできるが、その傾向は健常児ほど顕著ではないと考えられる。また、健常児は自分のコミュニケーションがいったん達成されれば、発話をそれほど増やそうとはしないのではないかを考えられる。今後は、より多くの参加児を対象に実験を行い、当日その結果を公表する。
(2007年5月)
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