症候群に焦点を当てる:ウィリアムズ症候群に対する言語聴覚士および作業療法士の視点
アメリカにある 「Smart Speech Therapy LLC」のサイトに掲載されていた資料です。
(2015年2月)
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概要:
ウィリアムズ症候群は、ウィリアムズ=ビューレン症候群ともいうが、希少な遺伝子疾患であり、第7染色体の長腕の欠失、さらに詳しくい言うと7q11.23領域の微小欠失が原因であり、その領域にはエラスチン遺伝子が含まれている。ウィリアムズ症候群は全世界共通的におよそ1万回の出産に1回の割合で発生する。循環器系疾患、頭蓋顔面の奇形特徴、特徴的な認知と性格のプロフィール、貧弱な視空間能力、聴覚過敏、発育遅滞、発達遅滞、幼児摂食障害、学習障害などを特徴とする。しかし、ウィリアムズ症候群患者の多くは表出言語能力が高く、音楽への親和性がある。軽度から十度までの不安症とともに注意欠陥多動性障害(ADHD)もウィリアムズ症候群に合併する。各症状の程度やどの特徴が現れるかは変化に富んでいて、二人として同じ状態のウィリアムズ症候群患者はいない。ウィリアムズ症候群は男性と女性で同じように罹患する。サドラーら(「資料番号3-3-32 ウィリアムズ症候群における循環器系疾患の性差」参照)によれば大動脈弁上狭窄症や全般的な循環器疾患は女性に比べて男性の方に有意に高い割合で発生する。ウィリアムズ症候群は完治することはない。患者は一生涯その症状に応じた検査と治療を必要とする。
特徴的な顔貌
ウィリアムズ症候群患者の大部分は、小さく上向きの鼻、長い人中、幅広い口、厚い口唇、小さな顎(小顎症)、平坦な鼻梁、目の周りの膨張を含む似通った顔貌特徴を有している。さらに眼角贅皮、矮小歯、不正咬合、エナメル質形成不全、歯牙無形成、前歯の扇状配向性(Leung & Leung, 2009)なども呈する。多くの書物で彼らの顔貌特徴をエルフィンに似ている(妖精様)と言及している。これらの顔貌特徴は年齢とともに目立つようになる。眼の色が薄いウィリアムズ症候群の患者は星形あるいは白いレース模様と称される虹彩を有している。
心臓と血管の問題
ウィリアムズ症候群患者の大部分は心臓と血管に何らかの問題を抱えている。その多くは大動脈の狭窄で、大動脈弁上狭窄や肺動脈の狭窄になる。疾患の重症度によっては外科的治療が必要となることもある。これらの問題は高血圧につながり、循環器状態のモニタリングが必要になる。
高カルシウム血症/疝痛
ウィリアムズ症候群の乳児の一部で血中カルシウム濃度の上昇がみられる。高カルシウム血症は極端な易刺激性や疝痛様の兆候の原因となる。多くの症例でこの問題は幼児期には解消される。しかし、モニタリングとともに医学的治療や食事療法を必要とする子どもも存在する。高カルシウム血症ではないウィリアムズ症候群の乳児でも易刺激性や疝痛の呈する期間が長くなることがある。疝痛は睡眠パターンを妨害することがある。
出生時の低体重/低身長
ウィリアムズ症候群のほとんどの子供は低体重で生まれてきて、幼児期には体重の増加が遅いことを経験する。これらの子供の多くは「成長障害」と診断される。ウィリアムズ症候群患者は成人になっても身長が低い。思春期早発症を呈する患者も多い。
腎臓の異常/ヘルニア
ウィリアムズ症候群患者は腎臓の機能や形状の異常を原因とする障害が出るリスクが高い。鼠径ヘルニアや臍ヘルニアのリスクも増加する。
聴覚過敏
ウィリアムズ症候群の子どもは音に対する感受性が高いことが多い。雑音レベルや特定の周波数の音が子どもにとっては苦痛に感じたり驚く対象になる。聴覚過敏は年齢とともに改善する傾向がある。
筋骨格の問題
ウィリアムズ症候群の診断を受けた子どもはしばしば筋緊張が変動する。筋緊張は継続的かつ受動的な筋肉の部分的収縮であり、休息時の受動的張力に対する筋肉の抵抗力である。筋緊張は我々の姿勢を構築する手助けともなる。初期段階にあるウィリアムズ症候群の子どもは低緊張であり、グニャグニャしている。関節の可動域が過大であり、低緊張の結果として発生する補償的動作を減らすための療育を必用とする。成長に伴って緊張は増加し、高緊張状態と認められるようになり、筋肉や腱のつっぱりを減少させたり、関節の可動域を改善するためにストレッチを行なったり装具をつけることが必要になる。子どもたちは、筋肉の筋緊張や感覚システムの効果のために、割座(W sitting)で苦労したり、姿勢維持が下手だったり、つま先立ち歩きや体勢感覚が貧弱だったりする。
鑑別診断
ウィリアムズ症候群の鑑別診断には高カルシウム血症、大動脈弁上狭窄症、自閉症スペクトラム障害、ダウン症候群などがある。しかし、簡明な弁別はウィリアムズ症候群のユニークな臨床症状で行われることが普通である。しかし、乳児や子どもが特徴的な症状を有していない場合診断は遅れる可能性がある。ウィリアムズ症候群は血液検査、FISH法による染色体検査、目的を絞った突然変異分析などで確定診断が行なわれる。FISH法が最もよく利用される。
行動面の障害
ウィリアムズ症候群は過度のなれなれしさや過度の社会性を呈する性格である。彼らは見知らぬ人を恐れないし、ウィリアムズ症候群の子どもは同じ年齢の子どもに比べて大人と関わることに強い興味を示す。ウィリアムズ症候群の子どもは愛情たっぷりの性格である。(Leung & Leung 2009)によれば、「この子どもたちは幸せな影響を及ぼす。もしあなたが病院でつらい日を過ごしていたら、彼らはあなたを元気づけるでしょう。」 彼らは情熱家で、社交的であり、よく会話を行う。彼らは他人の感情に敏感であり、自分自身の感情も表現する。顔に対する記憶力に優れ、たまに、あるいはずっと昔にしか会っていない人を覚えていられる。ウィリアムズ症候群患者は音楽に対する親和性も高い。ウィリアムズ症候群の子どもは注意欠陥多動性障害になる傾向が4倍高い(Leung & Leung 2009)。ウィリアムズ症候群患者は重度の不安症や恐怖症、日常生活スキルが低レベルであることにも苦労する。
認知障害/発達遅滞
ウィリアムズ症候群は精神的な強さと弱さを併せ持つ特有の認知プロフィールを有する。ウィリアムズ症候群の患者は言葉の短期記憶や言語に強さを示すと同時に視空間構築能力はかなり劣っている。認知面では非常に大きな個人差が存在する。学習障害がありながら平均あるいは平均以上の知能を有するウィリアムズ症候群の子どもが存在する一方で、軽度から中程度の知的障害を有する者もいる。
ウィリアムズ症候群の子どもは軽度から重度のさまざまなレベルの発達遅滞を呈する。この遅滞は包括的であり子どもの大部分は這い這いや発語トイレットトレーニングなどの初期のマイルストーン到達が有意に遅れる。
話、言語、摂食の問題
ウィリアムズ症候群の乳幼児や子どもの多くがは、低筋緊張、非常に過敏な嘔吐反射、統合化されていない哺乳反射、拙悪な哺乳や嚥下、触覚忌避、口腔の感受性低下や過敏症などに起因する重度の摂食障害を呈する。通常であれば摂食の問題は年齢とともに改善する。
ウィリアムズ症候群の子どもは乳幼児のころから顔の表情やアイコンタクトやジェスチャーを使った非言語的コミュニケーションをとる傾向がある。しかし、三人による共同注意ができないことはウィリアムズ症候群の幼児を持つ親にとって共通の関心事項となっている(Mervis & John, 2012)。表出言語の発現はウィリアムズ症候群では遅れることがほとんどであるが、運動能力の遅れが一因となっている可能性がある。しかし、初期の言語能力発達には大きなばらつきがある。ウィリアムズ症候群の子どもの中には18か月までに単語を話す者もいれば句を話す者もいる。およそ3歳までに文章を話すウィリアムズ症候群の子どもがおり、4歳から5歳になる頃には言語は彼らの得意分野になる。(Mervis & John, 2012)によれば表出語彙100語を獲得する年齢の中央値は37か月(範囲は26〜68か月)である。表出語彙は年齢とともに拡大するが、(Mervis & John, 2008)によれば、ウィリアムズ症候群の子どもは具象語彙が得意である一方、関連語彙にはかなり制約があり視空間構築能力と同レベルである。ウィリアムズ症候群の子どもは言語処理や受容言語にも障害を呈する。これらの障害は、優れた聴覚記憶能力と組み合わさることで、塊毎にまとめられた言語(language being encoded in chunks)になります。ウィリアムズ症候群の子どもは会話の中であまり使用されない単語や句を使う傾向があります。ウィリアムズ症候群の子どもの多くはストレスがかかる場面(唯一の正解しかない質問を尋ねられた時など)や自発的なスピーチを行っている最中に単語を思い出せないケースがみられます。婉曲表現やそのものズバリと言わないであいまいに話すこともありますが、その場合は意味をなさない言語になってしまいます。
ウィリアムズ症候群の子どもは実用的な言語に障害がみられることもあります。ウィリアムズ症候群の子どもは他人の視点や心の理論を理解する能力の獲得に遅れがある。彼らは対等な友人との間で相互関係を築いてそれを維持することに困難があり、ウィリアムズ症候群の成人は社会的に孤立し一対一のかかわりが築けない(John, et al., 2012)。John & Mervis (2010)によれば、ウィリアムズ症候群の子どもは歴年齢や認知/言語能力から期待されるレベル以上に社会的コミュニケーション(sociocommunication)に障害を抱えている。 実用上の問題は自閉症スペクトラム障害を有する人と同じである。義務教育前の子どもに共通する問題は、ものを見せたり、手の届かないところにあるものを要求するために行う統合化されたアイコンタクトの問題が含まれる。その他の問題には、不適切な文脈の開始や利用が挙げられる(資料番号4-2-49「ウィリアムズ症候群の子ども:言語、認知、行動特徴と治療介入に関するヒント」を参照)。Mervis & Velleman (2011)( 資料番号4-2-49「ウィリアムズ症候群の子ども:言語、認知、行動特徴と治療介入に関するヒント」を参照)はその論文中でUdwin & Yule (1990)をから引用して次のように述べている。「彼らの研究対象としたウィリアムズ症候群の子どもの37%は極度に口数が多いスピーチ(類型的な句、極端ななれなれしさ、不適切な経験の紹介、反応に固執する)の定義に当てはまる。」
話や言語への現在の介入
言語の発現が遅れたり関連的実用的言語に問題があるウィリアムズ症候群の子どもには早期に介入することが肝要である。話や言語の療育は表出語彙を拡大することや話の発達が遅い場合は手話を使うことに焦点を当てるべきである。音の生成については子音の種類を増やすことと2音節単語に集中すべきである。摂食療法は必要に応じて開始すればよいが、もし摂食療法が不要になった時点でも継続できるように話や言語の療育もそれと同じ頻度と強度で実施すべきである(資料番号4-2-49「ウィリアムズ症候群の子ども:言語、認知、行動特徴と治療介入に関するヒント」を参照)。療育に対して音楽や絵や写真を含めることは、言語によるアシストとともに助けになる。
義務教育前や学童期の子どもに対してその子どものコミュニケーションスキルを包括的に評価することで、治療の頻度や期間や強度を確実に決定できる。社会的スキルを子どものIEP(個別教育計画)に含めるべきであり、言語聴覚士によって社会的相互関係を開始し、適切な会話を継続するとともに友情を維持する能力を援助するための対策方針を具体化する。年齢が高い子どもには、単語を見いだせない障害を克服する学習戦略、例えば音素の手がかりを利用する、手振り身振りで手がかりを自ら見つけ出せるように促す、視覚化することで手がかりを自ら見つけ出せるように促す、などを用いることで恩恵を受けることができる。
療育には話の文法的間違いに対する修正とともにメタ言語や推論を行うことを含めるべきである。話や言語に関する処置を行う際に、ウィリアムズ症候群の子どもの多くが注意欠陥とともに不安症を呈することを気に留めておくとよい。義務教育前の子どもに対しては日課を絵にした予定表を利用すると不安を減らすとともに移行が容易になるなどとても有益である。それ以外の子どもには予定表や時間をはかる時計などが有益である。不安を覚える状況にたいして物語やロールプレイで演じることが手助けになることもある。ウィリアムズ症候群の子どもはしばしば聴覚過敏症を有し、治療に際して特定の音に拒否反応を示す場合があることを念頭においておくことも有意義である。
ウィリアムズ症候群協会(The Williams Syndrome Association)はウィリアムズ症候群の子どもに対して有効な教育方針に関するすばらしい提言を行っている。
集学的なチーム
集学的なチームを結成することがウィリアムズ症候群患者にとって重要であり、そのチームには以下が含まれる。
- 医師、特に循環器専門医
- 言語聴覚士
- 作業療法士
- 理学療法士
- 特殊教育専門家
- 音楽療法士
- 行動療法士や心理学者
ウィリアムズ症候群の子どもを療育することは言語聴覚士にとって信じられないくらい価値がある。ウィリアムズ症候群の子どもはあなたに向かって素晴らしい笑顔を向けてくれる。彼らは社会的相互関係に喜びを感じ、療育ルームにさっさと喜んで入っていくような前向きな人たちである。
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