Williams症候群の発生率
はじめに
くじ引きの例
まず、くじ引きのたとえ話を聞いてください。当たる割合が20%のくじがあったとします。日本人1億人がくじ引きをすると、5人に1人があたるので2000万人が当選します。この2000万人がもう一度くじを引いたらどうなるでしょうか。当たる割合は変わらないとすると400万人が当選します。1回目も2回目も確率はかわりません。
では、もし血液型でくじに当たる割合が変わるとしたらどうなるでしょう。日本人で血液型がAB型の人の割合は10%だそうですので、AB型の人はおよそ1000万人います。AB型の人はくじに当たる割合が60%、つまり平均の3倍だとします。AB型以外の人がくじに当たる割合をおよそ15.6%にすると、日本人全体としてくじに当たる平均割合が20%になります。この状態で日本人1億人がくじ引きをするとやはり2000万人が当選します。血液型別にみると、AB型の人は1000万人の60%なので600万人が当選、それ以外の血液型の人は9000万人の15.6%なのでおよそ1400万人になり、当選人数は合計で2000万人になります。
この当選者2000万人がもう一度くじ引きをする場合を考えて見ましょう。今度は当たる割合が平均20%にはなりません。AB型の人が600万人いるので、当選する人は360万人、AB型以外の人は1400万人なので当選者はおよそ220万人、合計580万人になります。当選者が連続で当選する平均の確率は580/2000で29%になり、当選確率は1回目の20%から上がりました。1回目の当選者には確率の高いAB型の人が選抜されるので、2回目の当選確率が高くなります。この数字をどうとらえたらよいでしょうか?
まず、自分の血液型を知っている場合を考えてみましょう。AB型の人は1回目でも2回目でも60%、AB型以外の人は同じく15.6%です。それぞれ1回目と2回目で確率は変わりません。
自分の血液型を知らない場合はどうでしょう。1回目の平均当選確率は20%です。このくじに当たった場合、2回目のくじ引きの平均当選確率は29%になります。当選確率は上がったように見えます。でも、これでは自分の血液型を知っている人は当選確率が変わらず、血液型を知らない人は当選確率が高くなったことになり、ちょっとおかしいですね。当選確率が上がったように見えるのは、1回当選したことで自分の血液型がAB型である確率が高くなったからだと受け取るとよいと思います。血液型を知っていても知らなくても、個人的にみれば当選確率は変化しませんが、平均的な人(つまり、血液の10%はAB型、90%はそれ以外という、実際には存在しない人のこと)の当選確率という架空の数字が変化します。「自分の血液型を知らない人の場合、2回目のくじにもあたる確率は平均29%と推定できる」ということです。
ウィリアムズ症候群の発生率
「第7染色体ウィリアムズ症候群責任領域内の逆位に関する最新情報」に書かれているウィリアムズ症候群の子どもが生まれる割合についても、先ほどのくじ引きの例と同じように考えられます。
平均的な割合は7500回に1回ですが、親の染色体の形状によって割合が高い人(染色体に逆位がある人。2000回に1回)と低い人(染色体に逆位がない人。9500回に1回)に分かれます。なお、染色体に逆位がある人は一般人口の7%くらいだそうですから、そんなに特別な状態ではありません。
ウィリアムズ症候群の子どもを持っている人の集団(先の例では1回目の当選者)では、染色体に逆位がある人の割合が高くなり27%になります。この結果、ウィリアムズ症候群の子どもを持っている人の集団内で、もう一度ウィリアムズ症候群の子どもが生まれる平均的な割合は7500回に1回ではなくそれより高くなります。(単純計算では4700回に1回くらいです)。
ここで、先ほどの血液型を知っているかどうかの話を思い出してください。親一人ひとりからみると、ウィリアムズ症候群の子どもが生まれる割合は1回目でも2回目でも変わりはありません。しかし、自分の染色体に逆位があるかどうかはわからないので、リスクが2000回に1回なのか9500回に1回なのかはわかりません。平均的な数字を使うと2人目は4700回に1回になるというだけです。この数字でも、羊水穿刺で合併症になるリスク(200回に1回)や、ダウン症候群の発生頻度(800回に1回)より小さいリスクです。さらに、「妊娠した夫婦には例外なく異常分娩や遺伝子病の子どもを持つ可能性が33回に1回ある」とのことなので、これらの数字をどう理解するかは一人ひとりで違うと思います。
なお、「第7染色体ウィリアムズ症候群責任領域内の逆位に関する最新情報」には「片方の親が逆位を持つ場合の割合が1/4000」とありますが、どこから1/4000が出てきたのかはよく理解できていません。
(杉本:2008年2月)
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