Williams症候群児における感覚プロファイルと問題行動の関係について
高橋香代子1), 平田樹伸2)
1)北里大学医療衛生学部, 2)埼玉医科大学総合医療センター
日本作業療法学会抄録集 52(): 910-910, 2018.
【はじめに】Williams症候群(以下WS)は、7番染色体の欠失による遺伝子症候群である。発生頻度は性差なく7,500〜20,000に1人と極めて希少な疾患である。臨床症状としては、心臓疾患、特徴的顔貌、精神発達遅滞などが挙げられる(清水,2016;村松,2013)。WS児の学校生活においては、手指動作の未熟さによる道具使用の困難さや、視空間認知の課題による平仮名の読み書きの習得の困難さなどに注目が置かれることが多い(樋口,2003)。一方、WS児においては、感覚処理能力に偏りがあることも報告されている(清水,2016)。さらに、多動や過社会性などWS特有の行動が学校生活において問題となることも多いとされる(鬼頭,2011)。しかし、感覚処理能力と問題行動の関係性について検討した文献は散見されない。
【目的】本研究では、WS児の感覚処理能力と問題行動に焦点をあて、双方の関係性について検討することで作業療法の介入の一助とすることを目的とした。
【方法】対象者は、WS児24名(女児12名、男児12名;平均月齢72.7±26.2か月)である。感覚処理能力の評価としては、日本版感覚プロファイル短縮版(SSP)を用いた。SSPは7つの下位項目に対する感覚処理の影響をプロファイルするための尺度である。問題行動の評価としては、子どもの行動評価チャックリスト(CBCL)を用いた。CBCLは子どもの生活における感情的、行動的、社会的側面を8つの下位項目で評価する尺度である。上記2つの尺度について、対象者の親に記入を依頼した。解析としては、評価項目ごとに平均と標準偏差を算出し、基準値と比較した。また、WS児の感覚処理能力と問題行動の関連についてはSpearmanの順位相関係数を算出して検討した。解析にはJMPI2.0.1(SAS Institute Inc.)を使用し、有意水準はp<0.05とした。なお、本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得て実施した(2016-027)。
【結果】SSPの合計スコアは84.0±19.9であり、下位項目では、「感覚過敏性」は11.3±3.4、「味覚・嗅覚過敏」は7.3±3.6、「動きへの過敏性」は5.5±2.2.「低反応。感覚探究」は17.0±5.2、「感覚フィルタリング」は17.0±5.1、「低活動・弱さ」は15.7±6.2、「視覚・聴覚過敏」は11.0±3.2であった。CBCLは、合計スコアが39.0±15.0であり、8つの下記項目のうち7項目については正常域だったが、「注意の問題」のみ9.0±3.0と専門的な介入が必要な臨床域であった。さらに、臨床域にあった「注意の問題」と各感覚処理能力との相関をみたところ、「低反応・感覚探究」に、臨床域にあった「注意の問題」と各感覚処理能力の相関を見たところ、「低反応・感覚探究」(r=0.69)、「聴覚フィルタリング」(r=0.74)、「低活動・弱さ」(R=0.55)との間に、有意な相関をみとめた(P<0.05)。
【考察】WS児の感覚処理能力としては、合計点は介入の必要性が「非常に高い」レベルにあり、下位項目にもすべて介入の必要性が「高い」結果となった。つまり、WS児は様々な感覚の入力や調整・処理において、明らかな困難さを抱えていることが示された。また、落ち着きのなさや多動・衝動性といった「注意」の問題行動と有意に関連する感覚処理能力も挙げられた。つまり、「低反応・感覚探究」により外部からの刺激を求めて歩き回ってしまうこと、「感覚フィルタリング」の苦手さゆえに特定の音を選択的に聞き取ることが困難で、集団での指示理解が困難であること、「低活動・弱さ」ゆえにまっすぐ座るための筋緊張が低く、イスに座っていられないこと、が注意の問題と関連していると考えられた。今後WS児に対して作業療法を行う上で、注意など行動面の問題だけに捉われず、その背景となりうる感覚処理能力についても着目する必要性が示唆された。
(2019年1月)
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