ヒトの社会性が異なる集団における社会的認知特性の環境要因の解明
研究代表者:平井 真洋(名古屋大学情報学研究科, 准教授)
研究分担者/共同研究者:浅田 晃佑 東洋大学, 社会学部, 准教授
木村 亮 京都大学, 医学研究科, 准教授
白野 陽子 慶應義塾大学, グローバルリサーチインスティテュート(三田), 特任助教
寺田 和憲 岐阜大学, 工学部, 教授
助成事業:科学研究費助成事業
資金配分機関情報:日本学術振興会(JSPS)
研究課題/領域番号:21KK0041
研究期間 (年度) 2021-10-07 - 2026-03-31
オリジナル
研究開始時の研究の概要:
本研究は申請者らの先行研究と予備的知見を発展させ、日欧の自閉スペクトラム症(ASD)と社会性が対極にあるとされるウィリアムス症候群(WS)の社会的認知特性を比較する。欧州においてASD・WS比較研究を先導する英国ダラム大学の研究者と共同で研究を推進する。これにより、両者の顔認知と対人応答特性が文化的背景によりどのように変容するかを、質問紙・眼球運動計測などの複数手法により多角的に解明する。本研究はヒトの社会性分布の位置により顔認知・対人応答特性が社会的環境へどの程度可塑的であるかを解明し、ヒトの社会性の可塑性に関する理論整備とそれに基づく療育プログラム構築などを目指す。
研究実績の概要:
我々の文化・社会の基盤となるヒトの社会性には広がりがあり,社会的環境に影響されうる。本研究では,社会性が異なるとされる自閉スペクトラム症(ASD)児者ならびにウィリアムス症候群(WS)児者を対象に,社会的認知特性が文化的背景によりどのように異なるのかを,質問紙・実験心理学的手法を組み合わせて多角的に解明する。本年度は,日本における両群の感覚特性がどのように異なるかについて分析を行った。結果,全般的に両群において感覚特性が定型発達児者の範囲内に収まる割合は20-30%であり,両群において感覚特性の非定型性を確認した。両群の比較において,ASDとWS群で類似する結果がみられたものの,感覚過敏スコアについてはWS群においてASD群よりも有意に高かった。さらに発達に伴う変化についても検討した結果,感覚回避,感覚過敏において年齢に伴う変化を確認した。アイトラッカーを用いた注視行動を調べる研究においては,ASD児者・WS児者において当初の予想とは異なる結果が得られた。現在,その原因について解明するとともに,それを検証するための実験についても計画中である。ヴァーチャルリアリティ実験については,研究分担者との緊密な連携により,システム構築を進めた。構築したシステムの妥当性を検証するため,一般大学生を対象とした実験を行い,ヴァーチャルリアリティ空間内におけるアバターへの注視行動と対人距離の間に関係を見出した。現在,本結果の追試を実施し,結果の頑健性を確認するとともに,ウィリアムズ症候群児者を対象とした研究へと発展させている。
今後の研究の推進方策
昨年度より開始したヴァーチャル・リアリティシステムを用いた調査をウィリアムズ症候群児者ならびに定型発達児者を対象に実施する。特に発達による注視行動の変化,対人距離の変化について着目した解析を行う。また,当初研究計画に記載した国際研究を実施するため,本研究費の共同研究者である英国ダラム大学のRiby教授を招聘し,研究打ち合わせを行う。日本側で構築したシステムを用いた調査を英国で実施するための手順について確認を進める。さらに英国のウィリアムズ症候群児者・自閉スペクトラム症児者を対象とした質問紙調査の結果を取りまとめるとともに,昨年度構築したヴァーチャルリアリティシステムを用いた対人距離に関する調査を英国において開始したい。さらに,研究計画で記載した実験についても刺激の作成と予備実験についても並行して進める予定である。また,質問紙調査,眼球運動解析データについても順次論文として取りまとめ投稿をおこなう。
編集者注:
(2025年1月)
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