ウィリアムズ症候群
Williams Syndrome
Wilson M, Carter IB(1).
(1)Forsyth Medical Center
In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2019-. 2019 Jun 16.
序文
ウィリアムズ症候群は希少遺伝子発達疾患である。ウィリアムズ症候群は大動脈弁上狭窄症を有していると診断されれば、出生当初から明かである[1]。同時に患児は特異な顔貌(妖精様の特徴)、高カルシウム血症、結合組織異常、成長障害、知的障害、行動欠陥、集合性性格[2]を呈する[2]。
心臓病専門医である Dr. John Cyprian Phipps Williamsがこの症候群を1961年に発見した[3][4]。1962年にはDr. A. J. Beurenが同様の発見を行い、この症候群がウィリアムズ-ビューレン症候群(Williams-Beuren syndrome)と呼ばれることになった。
病因
ウィリアムズ症候群の遺伝子的原因が1993年に明らかになった。この疾患は染色体バンドの7q11.23が欠失することによって発生し、このバンドにはエラスチン遺伝子(ELN)が存在する。この遺伝子はウィリアムズ症候群責任領域(Williams-Beuren Syndrome Critical Region (WBSCR))に含まれる[1][2]。この26個の遺伝子で構成される遺伝子欠失は2色FISH法(蛍光インサイツハイブリダイゼーション法)や欠失/重複検査法によって検知される[2][5]。 マイクロアレイ分析も別の診断方法の一つであり、この検査でエラスチン欠失の大きさを同定できる。FISH法とマイクロアレイの両方とも、出生前診断用の血液から抽出した分析用のDNAにも適用可能である。ウィリアムズ症候群患者の96%から98%にエラスチン遺伝子の欠失が見られる[4]。この遺伝子疾患は常染色体優性遺伝様式を示す[2]。エラスチンの欠陥が全身性動脈症を引き起こし、体中のどの動脈にも影響を与えることもあるが、中型から大型の動脈に影響を与えることが多い。
疫学
この疾患の発症頻度は子ども7,500人に1人から75,000に1人の割合だと見積もられている[2][4]。人種や性別によるこの病気の罹患率の差はみられない[5]。
自然歴と身体
出生後、乳児は成長障害、低身長、大動脈弁上狭窄症を呈することが多い[2]。エラスチンに欠陥があるため、子どもは末梢性肺動脈狭窄や高血圧を伴ったその他のエラスチン動脈症を有することもある[2]。子どものときには中耳炎や視力障害になることもある[2]。身体検査では、ウィリアムズ症候群の子ども全員が妖精様と評される特徴的で特異的な顔貌を呈する[2]。
ウィリアムズ症候群の子どもは一般的に様々な内分泌系異常を有する[2]。高カルシウム血症と高カルシウム尿症の存在は腎臓結石につながる[2]。 患者は甲状腺機能不全、成長遅滞、思春期早発の身体的兆候を有することもある[2][6]。
結合組織の異常はしばしば過伸展の関節や筋緊張低下につながり、最終的に運動マイルストーンやトイレトレーニングの遅れを引き起こす[2]。
ウィリアムズ症候群の患者は生まれつき青や緑色の目を持ち、その虹彩は星形あるいは星状のパターンを有する[2]。この星型のパターンは白いレース状の特徴的な外観である[2]。
この患者は精神疾患を合併することもあり、その疾患には知的障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、強迫性障害、全般性不安障害などが含まれる[1]。
ウィリアムズ症候群の確定診断を行うためには、FISH法による遺伝子検査を用いてウィリアムズ症候群責任領域(WBSCR)に遺伝子の欠失が存在することを示す必要がある[2]。
評価
ウィリアムズ症候群が疑われる患者には以下のような検査室検査や画像診断その他の検査が必要である。
- 肥満度指数(BMI)
- 全血球数
- 完全生化学検査
- カルシウム
- 遊離T3とT4を含む甲状腺刺激ホルモン
- 聴覚・視力スクリーニング
- 心エコー
- 心電図
ウィリアムズ症候群の知的障害はカウフマン簡易知能検査第2版(Kaufman Brief Intelligence Test, Second Edition(KBIT-2))を用いて評価する。この検査は、言語性標準スコアと非言語性標準スコアの両スコアをもとにして複合知能指数を計算する[5]。KBIT-2を用いてウィリアムズ症候群の子どもの知能指数を測定した研究によれば、彼らの知能指数は平均的から重度までの広い範囲にちらばっている[5]。ウィリアムズ症候群の子どもは、KBIT-2では測定できない視空間構成機能に障害があることが多い[5]。視空間構成機能を測定するには個別式知能検査-II(特別非言語下位検査)(the Differential Ability Scale-II (DAS-II) Special Nonverbal Composite assessments)とウェクスラー知能指数検査(Wechsler IQ tests)が診断ツールとして有用である[5]。
治療/管理
ウィリアムズ症候群の子どもに対する効果的な治療や管理には学際的なチームが必要であり、ここには以下のものが含まれる。
- 遺伝カウンセリング:診断を行うにあたっては、フォローのために遺伝カウンセリングを行う必要がある[2]。
- 産科系疾患:ウィリアムズ症候群患者の妊娠はすべて高リスクと考えるべきである。これは、不整脈、心不全、高血圧ののリスクがあるからである[2]。胎児に対する定期的な超音波検査に加えて、尿路感染症のリスクがあるため尿検査が必要である[2]。任珍虫に遺伝カウンセリングを行い、出生前診断を行うことも選択肢の一つである[2]。
- 心臓病と心胸郭手術:出生時、ウィリアムズ症候群の子どもは大動脈弁上狭窄症に対する循環器の治療を必要とすることが多く、これには循環器専門の外科医による開胸心臓手術を必要とする。術後、患者は頻繁に循環器専門医の診断を受ける必要がある。これは、高血圧や動脈症が肺動脈狭窄、僧帽弁閉鎖不全、腎動脈狭窄を引き起こすリスクがあるからである[2]。
- 内分泌疾患:ウイリアムズ症候群患者の高カルシウム血症、甲状腺機能不全、発育遅延などは内分泌専門医によって治療されることが多い[2][6]。高カルシウム血症のリスクがあるため、過剰なカルシウムを、経口摂取しないことや、腎臓から排泄できるように、食事内容を変えることが必要である[2]。食事内容の変更に加えて、副腎皮質ステロイドホルモン(corticosteroids)の飲み薬や、パミドロン酸(pamidronate)の静脈注射も利用することができる[2]。患者のカルシウムレベルは注意深く管理することが必要であり、特に低カルシウム食はクル病を引き起こす可能性がある。子どもの低身長が顕著な場合は、成長ホルモンによる治療も選択肢に入る。グルコースと甲状腺機能は内分泌専門医が定期的に見る[6]。ウィリアムズ症候群の子どもは甲状腺ホルモン補充療法を必要とすることが多い[6]。
- 腎臓病:高カルシウム尿症によって腎臓結石が発生したら、腎臓専門医の診察は砕石術の適用になる。
- 胃腸病:常設経管栄養が必要となることがあるので、摂食障害の子どもは胃腸科にかかることを勧める[2]。
- 栄養士:摂食障害の幼児は栄養士による摂食療法や指導を受けることが必要である[2]。
- 精神科:合併している注意欠陥多動性障害(ADHD)、強迫性障害、全般性不安障害の治療には、薬物治療や心理療法の必要性を見極めるために精神医学的評価を受けることを勧める[2][7]。
- 補助的サービス:神経発達障害や知的障害があることによって、ウィリアムズ症候群の子どもは特別支援教育プログラム、作業療法(OT)、理学療法(PT)、言語療法(ST)、感覚統合療法を必要とすることが多い[2]。可動範囲に注目した理学療法は、将来起こる可能性のある関節拘縮の予防にお勧めである[2]。神経発達障害を有する子ども全員に聴覚と視覚のスクリーニングを受けること強く勧める[2]。ウィリアムズ症候群の子どもは遠視や反復性中耳炎になるリスクがあるため、難聴や視力喪失を評価する定期的な検査が必要である[2]。
- 歯科と矯正歯科:不正咬合や歯牙異常のリスクがあるため、矯正歯科医や歯科医の受診を勧める[2]。
鑑別診断
ウィリアムズ症候群と似ている他の神経発達疾患を除外することが重要である。これらには以下の疾患が含まれる。
- 胎児性アルコール症候群
- ディ・ジョージ症候群(deletion 22q11.2)
- ヌーナン症候群
- スミス・マギニス症候群
- カブキ症候群
- マーシャル症候群
常染色体優性遺伝の大動脈弁上狭窄症は除外すべき疾患の一つであり、ウィリアムズ症候群とは分けて考えるべき疾患である[2]。
毒性と副作用の管理
高カルシウム血症になるリスクがあるため、マルチビタミン剤などを含むカルシウムやビタミンDを含むサプリメントはウィリアムズ症候群の子どもは摂取を避けるべきである[2]。
生命予後
ウィリアムズ症候群の病的状態は主として動脈症や先天的心臓疾患による[2]。ウィリアムズ症候群患者の80%は循環器の外科手術を必要とする大血管の狭窄や心室流出路障害などの循環器異常を経験する[8]。周術期には、罹患率や死亡率に影響を与える可能性がある突発性心血管虚脱 のリスクがある[9]。
遺伝という観点では、ウィリアムズ症候群の親から子どもに微小欠失を受け渡す確率は50%である[2]。ウィリアムズ症候群の子どもを一人持つ親で、本人がウィリアムズ症候群ではない場合、同胞がウィリアムズ症候群になるリスクは低い[2]。
ウィリアムズ症候群の患者は半独居から独居が可能で、多くは働くこともできる。ウィリアムズ症候群患者の1人ひとりは異なるニーズを持っており、できることなら13、14歳になる前に各個人に合った個別人生移行計画を作成することを推奨する。
合併症
ウィリアムズ症候群患者が開胸心臓手術を受けた際には、エラスチン欠損に起因する悪化、あるいは2次的な合併症のリスクが存在する[8][10]。多施設間でカルテを共有して、右心室流出路障害、左心室流出路障害、大動脈弁上狭窄の手術を受けたウィリアムズ症候群患者を経過観察した[8]。その記録によれば開胸心臓手術を受けたウィリアムズ症候群患者の8%が、不整脈や冠動脈疾患などの重大有害心イベントを経験している[8][11]。狭窄外科的修復術を受けたのちの冠動脈疾患の症例は、血管再建が必要になることがある[11]。
受診
ウィリアムズ症候群の治療には学際的なアプローチが必要である。ウィリアムズ症候群の子どもが生まれたのち、小児科医は心臓や心胸郭に関する外科手術の治療方針を得るべきである[2]。その後、内分泌科、胃腸科、腎臓科、精神科との症例ディスカッションを行うべきである[2]。さらに、作業療法士、理学療法士、言語療法士、感覚統合療法士、矯正歯科医、歯科医、心理療法士との相談も選択肢に入れてよい[2]。ウィリアムズ症候群の親はカップル療法士(couples therapist)やファミリー療法士(family therapist)に会ってカウンセリングやサポートを得ることもできる。
抑止と患者教育
患者とその家族は専門家連携チームに対して直接質問をすべきである。この疾患いついて追加で情報が欲しい場合は、ウィリアムズ症候群協会(Williams Syndrome Association (WSA): williams-syndrome.org)を通じて入手可能である。
健康管理チームの成果を向上させる
ウィリアムズ症候群の患者の効果的な治療には、患者の予後を改善するための専門家が連携したコミュニケーションと協働が必要である。健康管理の提供者には、内科医、専門医、小児科看護師が含まれ、ウィリアムズ症候群の子どもを観察し、体重・BMI・カルシウム・甲状腺刺激ホルモン・完全生化学検査・聴覚スクリーニング・視力スクリーニングなどの基準値測定と定期的な治療の間の測定値を得ることで、内分泌異常や神経発達異常の合併を検知すべきである[2]。
参考文献
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(2019年8月作成)
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下記に改訂版と思われる内容が出ています。なお、上記翻訳は旧バージョンのままです。
(2020年8月作成)
Williams Syndrome.
Wilson M, Carter IB(1).
Author information:
(1)Forsyth Medical Center
In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2020 Jan?.2020 Jun 29.
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