第15回ウィリアムズ症候群専門家会議の予稿集
The proceedings of the 15th professional conference on Williams Syndrome.
Walton JR(1), Martens MA(2), Pober BR(3).
Author information:
(1)Department of Pediatrics, Nationwide Children's Hospital, The Ohio State University, Columbus, Ohio.
(2)Department of Psychology, The Ohio State University-Newark, Newark, Ohio.
(3)Department of Pediatrics, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, Boston.
Am J Med Genet A. 2017 Mar 29. doi: 10.1002/ajmg.a.38156. [Epub ahead of print]
ウィリアムズ症候群は隣接遺伝子欠失疾患であり、第7染色体(7q11.23)からおよそ26-28個の遺伝子が欠失することが原因である。ウィリアムズ症候群患者は医学面、発達面、行動面に複雑な特徴を有しており、集学的かつ学際的な協力が必要となる。ウィリアムズ症候群患者に対する同定・評価・モニターを詳細に記述したガイドラインは、特に彼らの管理を第一線で担っている一次ケア提供者向けた場合に明確さが必要である。この報告は2016年にオハイオ州コロンバスで開催されたウィリアムズ症候群専門家会議の予稿集を要約した。プレゼンテーションは一次ケア提供者と領域専門家に直接向けられており、ウィリアムズ症候群によく見られる医学的あるいは行動的な特徴に対処するための根拠に基づく実践に焦点をあてている。この報告には、高血圧の治療を行なった3症例について議論した循環器専門医のパネル討論や循環器系以外の手術に対する麻酔の使用法などの知見も含まれている。この報告には各方面の専門家のプレゼンテーションも収録されているが、そこには様々な医学的、行動的なトピックスが含まれると同時に、ウィリアムズ症候群患者の管理に関する最新情報も含まれている。以下の地ピックスについて議論が行われた:7q11.23領域の欠失と重複の表現型の差異、成長パラメーター、内分泌面の懸念、睡眠障害、監視すべき行動、薬理学的選択肢、ウィリアムズ症候群患者の神経発達プロフィール、ウィリアムズ症候群患者が成人に移行する際の医学面・行動面の懸念点を監視することの重要性など。
(略)
症例1
4歳のウィリアムズ症候群患者は循環器系以外の手術(例:斜視の回復、MRIなど)が予定されていた。彼は既に循環器専門医の診察を受けており、明白な循環器疾患がないことがわかっている。成長と全身の健康はこれまで良好である。
- 手術前の適切な手順は何か?
- 手術で予期せぬ状況を招かない可能性を最大限にするために行うべき手順は何か?可能であれば麻酔薬の選択についてもコメントが欲しい。
- 理想的には循環器麻酔専門医を配置すべきか?
症例1に関する合意点
- ウィリアムズ症候群患者に対して麻酔/鎮静を必要とする全ての治療や手術は「リスク回避型」の方法がとられるべきである。
- 治療の1〜2週間前に手術前麻酔診察結果を得るべきである。診断を行う医師はウィリアムズ症候群患者の症例経験を有していて、患者の気道や循環器病変をよく知っているべきである。
- 患者の主治医である循環器専門医が他の内科医と協力して患者の治療に関して相対的リスク、すなわち循環器症状の最新の評価結果に照らして、提案されている個々の治療の利点を評価すべきである。循環器専門医は個々の治療の前に患者のリスク階層化すべきであり、麻酔医に相談(あるいは、協同で患者を管理)すべきである。
- 循環器専門医、他のウィリアムズ症候群に治療を提供する医療者、家族は、麻酔の合併症に対して患者が「低リスク」に層別化できるような挑戦を歓迎する必要がある。患者が非常に幼くて画像データの利用が制限される場合(研究の数、画像データの品質、重要な構造体(冠動脈入口部など)の可視化、などに関して)は特にそうである。パネルでは患者を層別化すること、例えば症例1の事例であれば、「利用できる情報に基づいてリスクを最小化する」、あるいは、「利用できるデータを基にしてリスクスペクトルの最低レベルに置くこと」である。
- 患者の年齢は麻酔リスクのカテゴリー分けの重要な要素である。年齢が低いことは、たとえ循環器疾患の程度が比較的軽度であったとしても、常に患者のリスクを高める。
- 脱水状態を避ける。5歳未満のウィリアムズ症候群の子どもは術前に水和させるために入院させるべきである。
- 一般的なルールとして、介入を必要とする循環器疾患の治療が終わるまで、選択した治療は延期すべきである。しかし、歯科治療とともに緊急手術などの例外がある。
- 成人のウィリアムズ症候群の場合は、循環器の治療を成人向けの循環器専門医から受けるように変更すべきである。できることなら、成人の先天性循環器疾患の専門医や複数の専門家を擁する総合病院を基盤とする集団が望ましい。
症例1に関するさらなる論点と未解決の問題
- パネリスト全員がウィリアムズ症候群患者の管理経験がある麻酔医を参加させることの重要性には同意しているものの、未解決なのはすべての治療事例に循環器麻酔医を参加させる範囲の問題である。存在する困難な点は、
(1)ウィリアムズ症候群患者のすべての治療や手術に立ち会えるほど豊富に循環器麻酔医が存在しないことである。
(2)もっと危険なことは、循環器麻酔医がいないために緊急事態あるいは緊急処置を延期することである。
全パネリストは、ウィリアムズ症候群の子どもは少なくとも小児麻酔医の管理下に置かれるべきだと感じている。成人麻酔医や小さな医療施設で働く麻酔医はウィリアムズ症候群のリスクに関して教育を受けるべきであるが、これを実現させる戦略にはさらなる注意喚起と考慮が必要であることが合意された。
- 過去に成功した麻酔経験がその後もうまくいくかどうかという疑問が提起された。
- この仮説は間違っているという感じがするが、さらなるデータが必要である。
- 今日行なわれたパネル討論の事例シナリオには乳児や幼児は含まれていない。彼らはもっと問題が多い症例であることから、さらなる議論が必要である。
- 最後に刺激的な質問がパネリストの一人から提示された。冠動脈の画像データを含むひとつの包括的リスク評価を四次(高度先端)医療センターで実施すべきかどうか? このような一回だけの評価で得られた情報が、患者の現在や未来の麻酔リスクに対して意味があるのか? もし意味があるとすれば、このような評価を行うのに最も適した時期はいつなのか?
(略)
症例2
12歳のウィリアムズ症候群患者に対して歯科処置のための処置室における鎮静が勧められた。家族はかかりつけの小児科医、循環器専門医、遺伝医に、この処置が「問題ない」かどうか電話で確認した。
- あなたの回答をまとめる前に、どのような自然歴や身体的情報を確認すべきか?
- どのような状況下にあろうとも、この判断を「不適切」とするような自然歴や身体的情報は存在するか?
- この判断が「適切」であると言える状況の一覧表を示せ。
- この処置が実施される場合、適切な処置前のステップは何か?
- 他の薬剤よりも安全な鎮静剤が存在するか?
症例2に関する合意点
- パネルは、個人歯科医院の処置室において鎮静中あるいは鎮静後に患者を適切に監視できない状態で、処置室において鎮静状態で歯科処置を行なってはいけないことに合意した。言い換えると、部分処置や意識のある状態での歯科処置ではない限り、歯科処置(特に子供の場合)は特別に経験豊かな麻酔医が常駐する医療センターで行われるべきである。
- 患者を診る歯科医と循環器専門医は、循環器の状態に関する最新の評価を基に提案されている処置の相対的なリスクと効果を話し合うべきである。循環器専門医は個々の処置を行う前にリスクを階層化し、患者に対してその処置を行う治療者と相談を行うべきである。
- 歯科医に対して行うウィリアムズ症候群に関する教育を増やす(アメリカ歯科医師会や小児歯科プログラムと連携して)
- 定期的な歯科受診や健康的な口腔衛生を奨励する。
症例2に関するさらなる論点と未解決の問題
- 処置室における歯科処置に対する鎮静処置を青年や成人に対しても実施すべきかどうか?また、実施する場合はどのような環境か?
- 顕著な小顎症や閉塞性睡眠時無呼吸症が(現在あるいは過去に)存在する場合、処置室における鎮静を回避すべきか?
- 循環器の再検査で問題がないことを確認した後に、数年の期間と複数回の循環器検査を行うまで待つよりも、必要な歯科処置は「今行うべきだ」と患者に言うべきか?
(略)
症例3
大動脈弁上狭窄症を2歳の時に治療した8歳のウィリアムズ症候群患者が年に一度の循環器の定期経過観察に来院した。来院時点での彼女の右腕血圧は125/85であり、検査過程で120/80(手動測定)まで少し低下した。
- この若者は高血圧の定義に合致しているか? ウィリアムズ症候群患者の高血圧の定義は同じ年齢層のウィリアムズ症候群ではない人と同じであるべきか?
- 今後の治療計画は?
- あなたが診ているウィリアムズ症候群患者の一人が高血圧の定義に合致した場合、あなたが治療に用いると思われる薬剤分類を好ましいと思う順番とその理由を合わせて書き出してほしい。
- 高血圧の治療において有害な結果が発生する可能性はあるか?
症例3に関する合意点
- 高血圧の定義はケースバイケースで決めるべきである。
- 高血圧の確定診断を行うためには、複数回高い血圧が記録されている必要がある。
- 左側に閉塞性病変が存在しない状況での左心室肥大は高血圧の機能的指標である。
- 治療の決定は個人ごとに循環器および臨床状況の全体像を考慮して決めるべきであり、ある一時点の血圧だけで決定すべきではない。
症例3に関するさらなる論点と未解決の問題
- 片側性と両側性を比較した場合の軽度の腎動脈狭窄の存在が、血圧や治療方針決定に与える臨床的影響を少し議論したが解決されてない。
- 患者の右腕のみに血圧の孤発的上昇が観察された場合、これは中枢的圧力を反映しているのか、それともコアンダ効果(Coanda effect)によるものか? 四肢血圧を計測することで、これを排除できる可能性がある。上肢の血圧値に顕著な差がみられる場合、CT検査(あるいはその他の画像診断)を行って、構造的病変の存在を調査すべきである。終端の臓器(脳、冠動脈、腎臓)に与える影響を考慮に入れるべきであり、それは病因によって異なる可能性がある。さらにデータを集めることが必要である。
- ウィリアムズ症候群患者の冠動脈に関する議論が提起された。リスクと恩恵の対比を考慮した場合、冠動脈の可視化だけを目的とした待機的(根治的ではなく症状を緩和させるような)カテーテル検査を行うことは適切ではないという考えが大筋で合意された。CT検査によるスクリーニングはより安全な代替案となりうるか? しかし、特に子どもには鎮静が必要となる可能性がある。さらに、CT検査で異常が発見された場合、それは事実ではあるものの偽陽性(特に子どもの場合は、頻拍症や動いたことの人為的結果である可能性が高い)であることが考えられ、その結果として次にカテーテル検査が求められる。
- 大動脈の縮窄を呈する成人に対しては大動脈の完璧な可視化の実施が推奨されているが、これはウィリアムズ症候群の成人に対しても拡張されても良いと思われるが、今のところウィリアムズ症候群に限定したデータは存在しない。
(略)
8.2 ウィリアムズ症候群の成長
ペイジ カプラン(Paige Kaplan)
ペンシルバニア州フィラデルフィアのフィラデルフィアこども病院
ペンシルバニア大学医学大学院
子どもの成長は健康状態を示す総合的な指標であり、特にウィリアムズ症候群の子どもの場合は重要である。というのは、成長に関するいくつかの指標が最適値以下になることがあり、それがウィリアムズ症候群に内在するからである。そのために、正常に発達する子どもに対して用いるパラメータとは異なるパラメータをウィリアムズ症候群の子どもには用いるべきである。これらには、線形成長、体のプロポーション、体重、思春期などがある。ウィリアムズ症候群の子どもは「子宮内発育遅滞」を呈する可能性があり、出生時には小さく軽い(Partsch et al.,1999)。この傾向は幼少期を通して顕著になり、長さ/高さや体重は年齢や遺伝的期待値に比べて小さい。4歳時点でも性成長速度は遅いがその後増加する。遅く始まる子どもの急成長は正常に発達する子どもに比べて2年早く始まり、その結果思春期が早く(時には思春期早発症)始まることになる。最終的な伸長は両親の身長から割り出される目標値に比べて、女性で〜10cm低く、男性では9cm低い。しかし、性腺刺激ホルモン放出ホルモンによる思春期を送らせる治療により、身長が伸びる期間を長くできるが、それでも家系から期待できる身長よりは低い(Spielmann,Partsch,Gosch,& Pankau, 2015)。四肢は身長と比較した場合に短い。子どもの期間の体重増加も線形成長に比べて低い傾向がある。体組成の研究から安静時エネルギー消費量の増大と体脂肪蓄積の低下が示された。高脂肪食品を用いて体重を増やす試みには意味がない。さらに、最近の傾向でとしてみられる10代から始まる肥満は2型糖尿病になるリスクを増加させる。ウィリアムズ症候群に特化した成長曲線が何か国かで作成されているので、ウィリアムズ症候群の患者の成長を適切に追跡するべきである。
8.3 ウィリアムズ症候群:内分泌の展望
マンモハン・K・カンボ(Manmohan K Kamboj)
準教授:オハイオ州立大学付属全米子ども病院小児内分泌科、オハイオ州コロンバス
ウィリアムズ症候群は染色体7q11.23領域にあるWBSCR領域の半接合欠失を原因とする遺伝子疾患であり、身体面、発達面、分子生物学的側面に典型的な一連の特徴を有している。内分泌学的観点からは、いくつかの重要な臨床症状がウィリアムズ症候群の子どもや成人に見られることがあり、ここで述べておく必要がある。
8.3.1 特発性の高カルシウム血症/高カルシウム尿症
これがウィリアムズ症候群の患者において最も共通的に確認される内分泌に関連する懸念である。しかし、異なる研究においてウィリアムズ症候群患者の5-50%が1回あるいはそれ以上の高カルシウム血症に関する一過性の発症を報告している(Morris,1988)。生後1年以内にも最も多くみられる。総体的に、ウィリアムズ症候群患者の血清カルシウムレベルは正常な子どもに比べて概して高いことが知られている。11.5mg/dlまでの血清カルシウムレベルは軽度あるいは中程度の高カルシウム血症で共通的に見られるが、それより高い値も報告されている(AAP Guideline,2001;Ingelfinger & Newburger,199;Pankau,Patsch,Winter,Gosch,&Wessel,1996;Pober,Larco,Rice,Mandell,&Teele,1993)。患者は無症状であるか次のような症状、すなわち、いらいら、脱水症状、嘔吐、便秘、筋けいれんがある(Morris,1988)。高カルシウム血症は一般的に高カルシウム尿症を伴うことが多く、腎石灰化症に発展する可能性がある。特定の病態生理学的メカニズムは明らかになっていない。これらの患者のための検査活動には、血清カルシウム、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン、尿検査、尿中カルシウム/クレアチニン比、腎臓の超音波診断、膀胱を含めることが推奨される(Waz,2016)。検査結果を年齢相当の規範的数値範囲と比較することが正確に診断にはとても必要である。高カルシウム血症の治療方針には、注意深くかつ限定的な食物およびサプリメント中のカルシウムとビタミンDの摂取制限、水和、利尿剤、 副腎皮質ホルモン剤、ビスホスホネート製剤などが挙げられる(Mathias,2000)。経過観察中には高カルシウム血症の程度に応じて繰り返し行う検査と詳細なモニタリングを勧める。
8.3.2 成長に関する懸念
子宮内発育遅滞、発育や体重増加不全、低身長などがウィリアムズ症候群の子どもでよく知られている。ウィリアムズ症候群特定の性別成長曲線が利用できるので、この症候群の患者の成長を追跡すべきである。遺伝的素因に基づいた成長予測、正常な子ども向けの成長曲線による成長の追跡同年代の子どもとの比較などは正しくないし、合理的でもない。ウィリアムズ症候群として期待される成長パターンに当てはまらない子供については背景となる全身およびホルモンの懸念事項をくまなく評価し、原因を探ったうえで適切に治療すべきである。甲状腺ホルモンや成長ホルモンの欠乏症がある場合は、適切なホルモン補充を開始すべきである。
8.3.3 早い思春期
思春期が早まる傾向はウィリアムズ症候群の男児にも女児にもみられる。思春期急成長は、早まりかつ少なくなる可能性があり、平均より早く初潮がくることもある。最近の研究では発生率は2.9%である。治療を行うかどうかの決断は、家族や内科医との相互議論の結果による。
8.3.4 甲状腺機能異常
無症候性の甲状腺機能不全症が生涯を見た場合に患者の10-31.3%にみられ、子どもにおいてはもっと多くみられる(Morris,1999、Palacios-Verdu et al.,2015)。甲状腺ホルモン補充は甲状腺機能不全症が改善しない、あるいは悪化している場合の治療に用いることができる。
8.3.5 糖代謝異常
糖耐性の異常がウィリアムズ症候群の成人患者の約75%で報告されている。早期発見を行うには経口糖負荷試験を用いたスクリーニングを勧め、人生の10代、20代で始めるべきである(Palacios-Verdu et al.,2015;Pober,2010)。ウィリアムズ症候群患者に対する最適な治療と経過観察を行うには、彼らの多臓器に対する懸念を対象として様々に特化した治療を提案する集学的臨床が理想的である。標準的治療法は存在しないが、全米小児科学会による専門家の推奨案を利用することができる(AAP,2001)。ここには、この症候群の患者にみられる内分泌関連の懸念に対する診断と治療介入に関する記述があり、これらの患者に対する適切な治療ガイドラインとして利用可能である。
8.4 ウィリアムズ症候群における睡眠障害
ソーントン・BA・メイソン2世(Thornton BA Mason II)とペイジ・カプラン(Paige Kaplan)
ペンシルバニア州フィラデルフィアのフィラデルフィアこども病院
ペンシルバニア大学医学大学院
睡眠は、一般に信じられていることとは対照的に、身体的休息の時間というだけではなく、体細胞へのエネルギー蓄積の補充や脳にある神経シナプスの再編成を行う活動期間でもある。したがって、睡眠は成長と発達に非常に大切である。ほとんどのウィリアムズ症候群患者は、生涯の一時期、あるいは全期間を通じて睡眠に関して重要な障害をかかえている。この障害はかれらの学習能力に対して負の影響を与える。同様に他の家族にも影響がある。ウィリアムズ症候群の子どもの睡眠障害は、質問表、アクティグラフ(腕時計型の睡眠覚醒判定装置) 、睡眠ポリグラフ、脳波スペクトル分析、内分泌マーカなどを用いた数多くの研究で確認されている。
ウィリアムズ症候群の睡眠障害には寝に行くことへの恐怖、睡眠潜時(寝入るまでの時間)の長時間化、頻繁な夜間覚醒(Mason et al., 2011;)。睡眠ポリグラフを用いた研究では、睡眠効率(ベッドに入っていた時間に対する睡眠した時間の割合;85%以上が正常)の低下、睡眠が開始された後に起きている期間の増大が明らかとなった。ウィリアムズ症候群の子どもや成人では、正常に発達した対照群被験者と比べて徐波睡眠(第3段階)の増加がみられる。脳波の研究では、ウィリアムズ症候群では特徴的な変化が見られた。夜間はレメラトニンベルが上昇し、コルチゾルが低下するというメラトニンとコルチゾルの正常ではないレベルが睡眠の妨害に影響している可能性がある。このようないくつかの睡眠パターンはウィリアムズ症候群に特有の変異であり、他のグループの神経発達疾患の子どもにみられる非特異的な変異とは異なる。
一次睡眠障害(例:閉塞性睡眠時無呼吸、睡眠時周期的四肢運動)や、ウィリアムズ症候群によく見られる痛みや胃食道逆流症などの医学的症状に関する評価を管理に含めるべきであり、もしその兆候があったら、これらの基礎症状に対する治療をまず行い、その後に睡眠に関する再評価を行う。睡眠障害が継続する場合は、睡眠衛生状態の測定や行動療法が有用かもしれない。さらにこれでも充分ではない場合はメラトニン放出の増加を考慮することを検討するとよいかもしれない。
8.5 ウィリアムズ症候群患者における行動障害/徴候の精神薬理学的概要
クリストファー・J・マクドーグル
ルーリー自閉症センター(Lurie Canter for Autism)のディレクター、マサチューセッツ総合病院小児精神科教授、ハーバード大学医学大学院自閉症分野教授(Nancy Lurie Marks)
本章の目的はウィリアムズ症候群でしばしばみられる対象行動や徴候が薬理的介入を受け入れられるかどうか、薬理的治療がこれらの対象行動や徴候に効果があるかどうか、この薬理的治療の考えられる副作用に言及することである。医学文献をレビューし、ウィリアムズ症候群にしばしばみられる行動障害/徴候に対する薬理的治療の公開されている効果を確認する。
運動多動と注意欠陥はウィリアムズ症候群の若年患者に共通的に見られる行動的徴候である。リタリン(Methylphenidate)に対するプラセボ対照二重盲検比較試験が6人のウィリアムズ症候群の子どもに対して実施された。6人の被験者のうち4人はADHDの徴候に改善が見られらた(Bawden,MacDonald,& Sarah, 1997;Power,Blum,Jones,& Kaplan,1997)。遡及的研究(Green et al., 2012)によれば、ウィリアムズ症候群の子どもの13/18(72.2%)がリタリンのよってADHDの徴候に有意な改善がみられた(平均の一日服用量は10.4mg)。副作用は悲しみ/不幸感(61.1%)、食欲不振(33.3%)、イライラ感(5.6%)である。循環器系の異常が併存する場合と不安症や常同行動が悪化するリスクがある場合は、ウィリアムズ症候群のADHDの治療にリタリンを使うケースでは、密接に観察する必要がある。5人のウィリアムズ症候群の青年/若い成人の不安症に対して選択的セロトニン再取込阻害薬を適用した非盲検試行の結果が報告されている(Green et al., 2012)。4人の被験者は、シタロプラム剤が3人、フルオキセチン剤が1人で顕著な改善効果みられた一方、被験者の2人ではシタロプラム剤で1人、フルオキセチン剤で1人で陽性反応は見られなかった。1人の被験者に頭痛と腹痛が発生した。補正QT間隔延長症候群の可能性がある場合で、特にSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)を使用するときには密接に観察する必要がある。攻撃性/精神病性徴候、自傷行為/不適切な性的行為の治療目的でそれぞれにリスペリドン(訳者注:第2世代統合失調症治療薬;D2遮断;5-HT2遮断)が非盲検試行で2人のウィリアムズ症候群の若い成人男性に投与された(Savoja & Vicani, 2010)。両被験者とも改善が見られたが、消化器官の病変が発生したために投薬は継続できなかった。ウィリアムズ症候群の成人女性において麻酔で引き起こされる精神病性徴候や情緒不安定の改善にN-アセチルシステイン(訳者注:気道粘液溶解薬)は効果がある(Pineiro et al., 2014)。
ウィリアムズ症候群患者に行動的徴候が併存する頻度が高いにもかかわらず、薬物治療に関する報告書はほとんどない。ウィリアムズ症候群の妨害的な行動徴候の治療に関して、薬物治療の大規模な二重盲検プラセボ対照試験を含むさらなる研究報告が必要である。
8.6 ウィリアムズ症候群の子どもの神経発達プロフィール
キャロライン B メルビス(Carolyn B Mervis)
ルイビル大学心理脳科学部、ケンタッキー州ルイビル
ウィリアムズ症候群は特徴的な認知表現型が合併する。すなわち比較的言語能力と非言語的判断能力に優れるとともに、視空間能力がかなり劣っていることが共存する(Mervis & Joon,2010)この表現型は、15か月から48か月までは小児総合発達尺度(Mullen Scale of Early Learning)を用いて、4歳から17歳までは多面的能力尺度(Differential Ability Sacles-II)を用いて計測したが、ウィリアムズ症候群の子どもの〜90%にみられた。言語分野では、具象的な語彙には比較的強く、関連的な語彙(例:空間的、時間的、量的概念)にはかなら弱いという同じようなプロフィールを有することが証明されている。このプロフィールは適応行動の分野でも明らかになっており、社会的相互関係やコミュニケーション能力の分野では比較的強いが、確固たる空間的能力を必要とする分野(例:日常生活の技能、地域コミュニティで生活する技能)ではかなり弱い。これらの測定全般に言えることであるが、ウィリアムズ症候群の子どもの絶対的な能力レベルに関しては、非常にばらつきが大きく、ほとんどの測定値の標準偏差は正常に成長した母集団の子どもに比べて同程度かそれを上回る(Mervis & John,2010)。
ごく初期の語彙獲得にみられるばらつきの大きさは、ウィリアムズ症候群の幼児で明らかになっている。発話語彙を50個獲得した年齢は、48か月の時点の言語、非言語的判断能力、空間能力と強い相関があった。発話語彙を50個獲得した年齢が低ければ低い程、48か月の時点の知能指数評価の標準特典が高い傾向がある(Mervis & Jhon,2012)。直示的なジェスチャー(例:興味がある物体を指し示す)、アイコンタクトの変化、共通注意を促す、ごっこ遊びに参画する、などの社会的コミュニケーション行動(Klein-Tasman,Phillips,Lord,Mervis,&Gallo、2009)の初期にある困難が描き出されており、これらの行動が学童期を通じて継続する証拠が示されている。
学業成績の分野においては、読む能力にばらつきが大きいことが示されている。読み方の指示の手法は、単語の読みと包括的読み標準成績の両方の強い予測因子になる(Mervis & John,2010)。知能指数を一定にした場合、体系的に集中的フォニックス手法を学んだ9歳から10歳の子どもは、単語全体あるいは言語全体で学んだ子供に比べて安定的に読みの標準点が〜15点は高い。
ウィリアムズ症候群はADHD(4歳から17歳の子ども311人中の66%がDSMのADHD基準に適合するか、ADHDの薬物治療を受けている)と非社会的特定恐怖症(66%)(もう少し少ないサンプルにおける同様の発見は、Leyfer,Woodruff-Borden,Klein-Tasman,Fricke, & Mervis, 2006を参照)の両方を合併する。特定恐怖症の強力な予測因子は、実行能力を測定するための標準質問表で両親が報告している行動制御が困難なことである(BRIEF School Age)(Pitts,Klein-Tasman, Osborne, & Mervis,2016)。学業や行動への介入への関連も議論する。
8.7 ウィリアムズ症候群の成人:医学的問題点と成人期の移行に関する全体像
バーバラ・ポーバー(Barbara R. Pober)
マサチューセッツ総合病院の遺伝医、ハーバード大学医学大学院の小児科名誉教授
ウィリアムズ症候群患者の成人の潜在的医学的問題や全般的な健康状態に関する情報はゆっくりと広まっている。多臓器におこる合併症の可能性が成人期にまでわたっていて、成人におこる症状とその管理の概略を記した何篇かの論文を参照することができる( Cherniske et al.,2004; Pober, 2010; Pober & Morris, 2007)。ウィリアムズ症候群の成人に対して治療を行っている共通的な3つの分野に関して2016年のウィリアムズ症候群専門家会議で発表を行ったが、それらは以下の内容である。
8.7.1 内分泌の障害
ブドウ糖
ウィリアムズ症候群の成人の50%ほどはブドウ糖耐性異常あるいは経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で真性糖尿病と判断される。ウィリアムズ症候群という診断そのものから発生する主要なリスクは、その後肥満になることである(Masserini et al.,2013 ; Pober et al.,2010)。体重を減らし身体的活動量を増やすことで血糖値レベルを管理することは可能だが、経口血糖降下薬が必要になることも多い(例外的にインスリンそのものも)。HgbA1c値は治療への反応を監視できるが、経口ブドウ糖負荷試験や空腹時血糖値ほど診断の確定には便利ではない。
骨密度(bone mineral density)
ウィリアムズ症候群の成人は年齢を合わせた成人母集団に比べて骨減少症や骨粗鬆症が共通してみられ、ある研究によれば50%に存在する(Cherniskeet al.,2004)。特筆すべきことは、男性も女性も等しく影響を受けることである。2014年のウィリアムズ症候群会議で集められたデータによれば、ウィリアムズ症候群の子どもの骨密度は兄弟と比較して低下していることが判明している(ウィリアムズ症候群で成人になってから流出量が単純に増えることではない)(論文執筆中)。骨折のリスクや最適な治療に関するデータはまだ存在しない。
8.7.2 胃腸と体重の問題
体重増加
ウィリアムズ症候群の成人の3/2はBMIが25以上である。BMIの分布は母集団と同等であるが、男性でも女性でも体重の増加は優先的に下肢に集中し、有意な部分集団が脂肪性浮腫に似ている(Cherniske et al.,2004)。脂肪性浮腫は利尿剤や体重減少への反応に乏しいという事実は、重要な管理指標の一つである。
腹痛
腹痛は様々な病因に共通してみられる。アルファベット順に可能性が考えられる診断名(排他的ではない)を挙げると、不安症、セリアック病便秘、憩室性疾患、下痢、過敏性大腸症候群、逆流症、血行障害、その他(循環器と神経系の差異の組み合わせを反映している)である。特に重要性を認識しておくべきことは、憩室性疾患が若い成人(場合によっては子どもや青年)で発症することであり、特に急性腹痛との鑑別診断をきちんと行うべきである(Pober & Morris, 2007)。
8.7.3 行動と感情の問題
不安症と関連する疾患
成人のウィリアムズ症候群患者を世話する両親や関係者から数多くの行動面の問題が報告されている。DSM分類に従った半構造的診断尺度によれば、限界的あるいは亜限界的な不安症が20-29%に、特定恐怖症が35-50%に、大うつ病が15%に(Cherniske et al.,2004、Dykens 2003(資料番号3-9-50と同等と思われる); Stinton, Elison, & Howlin 2010)存在することを示している。ごく少数ではあるが、ウィリアムズ症候群の成人で精神的問題を発症する人がいて、たまに精神疾患の診断基準に合致することがある。治療を必要とする程度の不安症の場合、カウンセリング/療法、リラクゼーション技法、投薬、最適居住環境、最適職場環境などの複数の方法を用いた包括的対処が必要である。
8.7.4 移行
成人向け医療環境に移行することの重荷は、ウィリアムズ症候群患者の両親の家族に降りかかってくることが多い。この際に、大規模な医師群を巻き込むためのリソースや戦略が紹介されている(Porter,Freeman,&Griffin,2000)
(2017年4月作成、7月追記、8月追記、9月追記)
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